切り捨て御免

「はぁ、 私は【ゲッシュ】ですが、 何か?」

「またかよッ!!」


王国の北街道のとある街にて激怒する

【右道】宗家【フォーチュン家】のダイアン・フォーチュン。

農作物を運ぶ運送業をしている【ゲッシュ】は困惑していた。


「ふざけんじゃないわよ!! 【ゲッシュ】を探しているのに

何でこんなに【ゲッシュ】って名前の奴が大勢居るのよ!!」

「お嬢様落ち着いて下さい」


バックブリードがダイアンを諫める。

ダイアンは2か月前から休学して【ゲッシュ】を探す旅に出かけたのだが

【ゲッシュ】と言う名前の男は異様に多い。

既に2ヵ月で20人、 3日に1人は見つけている。

ダイアンは苛立ちながら歩き始めバックブリードも後に続いた。


「こうなったら【ゲッシュ】って名前の奴無理矢理招集する様に

お父様に頼もうかしら!?」

「うーん、 それは無茶かと・・・

そもそもこうやって【ゲッシュ】探しに出かけるのは如何かと思います」

「物探しの魔法使い、 ウチに居なかったっけ!?

そもそも【右道】の魔法には物探し含まれるでしょ!!

アンタは使えないの!?」

「・・・・・【右道】と一言で言っても範囲広いですよ

身体強化から治療や修復、 雨ごい、 物探し・・・挙げればキリがない

そもそも物探しが一番得意な者が行方不明になりましたし」

「つっかえないわぁ!!」


苛立つダイアン。


「・・・・・所で御嬢様

何で【ゲッシュ】にそこまで固執するのですか?」

「知りたい!?」


目を輝かせて振り返るダイアン。


「え、 えぇ」

「もう♪ しょうがないわねぇじゃあ教えてあげるわ、 あれはふぎゃ!?」


ダイアンが転ぶ、 と言うがぶつかった。


「ちょっと何処見て歩いてるのよ!!」


ダイアンがぶつかった男に対して文句を言う。

男は本を読んでいた。


「本を見ていたけどアンタは?」

「私は前見てたわよ!!」

「ほーん、 オレは本を見ていたから前を見てなかったのに

前を見ていたアンタはオレにぶつかってくるんだー

へー、 クズじゃねぇか」

「貴様!! このお方をどなたと心得る!!

【右道】宗家【フォーチュン家】のダイアン・フォーチュン様で

あらせられるぞ!!」

「ダイアン・フォーチュン?」


男は本を閉じる、 背は高いが童顔の男だった。


「アンタが?」

「貴様!! 馴れ馴れしいぞ!!」

「あぁ、 いや、 丁度良かった、 ほいこれ」


バックブリードに紙を渡す男。


「何だこれは?」

「指令書だよ、 バックブリード? で良いんだよねアンタは?」

「何故私の名前を?」

「良いから読め」

「・・・・・」


バックブリードは紙を読んだ。


「『【右道】宗家従者バックブリードが誘拐した

【右道】宗家【フォーチュン家】のダイアン・フォーチュンの救出

及びダイアン・フォーチュンの護衛任務を命じる

王国王室及び【右道】宗家一同』・・・・・は?」


バックブリードは困惑した。


「誘拐? 何を言っているの?

私は【ゲッシュ】を探す為に旅をしているの

バックブリードは護衛として連れて行ってるだけよ」

「オレに言われても

王家と宗家の方々に命令されてやっているだけだし詳しい事は知らん

言う事が有れば王家と宗家の方々に直談判すれば良い」

「どうやら食い違いが有るみたいね・・・ちゃんと置手紙したんだけどな・・・

しょうがないわ、 一旦王都に変えるわよバックブリー・・・?」


バックブリードは滝の様な汗を流した。

今までにも有った・・・・・・・・のだ。

【右道】宗家の従者として醜聞として排除する為に

同僚を切り捨てた事が。

今回は自分と言う訳である。


主よ、我に助けをグロリアス・ヴィクトリー!!」


主よ、我に助けをグロリアス・ヴィクトリー

天使を呼び出して使役する【右道】の中でも高位の魔法である。

天使の戦闘能力は凄まじく、 常人の数倍の身体能力と翼による飛行能力を持ち

死を恐れない勇敢さも兼ね備えており、 召喚した者の意のままに動く。

バックブリードはまだ未熟なので完全に使いこなせる訳では無く

天使は1分もしない内に消えてしまうが

それでも彼の切り札と言って良い代物である。


「っ!?」


バックブリードは膝をついた。

脇腹に矢が刺さっていた。


「弓の音は聞こえないのに矢、 あ、 があああああああ!!!!?」

「ば、 バックブリード!?」


バックブリードはのたうちまわりながら叫び声をあげた。

天使は消滅していた、 バックブリードが未熟故に

彼の状態が悪化すれば消え去ってしまうのだ。


「あ、 アンタ!! 何したのよ!!」

「毒矢だから苦しんで当然じゃないか?」

「何とか・・・解毒しなさいよ!!」

「無理だな」

「何で!?」

「オレ【右道】の魔法使いじゃないし解毒なんて出来ん

そもそも【右道】の魔法使いでも解毒出来ない毒だ」

「何ですって!? 何でそんな物を持ってるのよ!!」

「ダミアン氏がくれた」

「な・・・・・」


愕然とするダイアン。


「お、 お父様がバックブリードを殺せと?」

「抵抗すれば殺せと言っていた」

「・・・・・バックブリードは」

「助からんだろう、 もう動きが収まって来たし」

「・・・・・」


バックブリードの最期の顔をダイアンは生涯忘れる事は無かった。


「アンタ・・・名前は?」

「オレの名前はナキリだ、 よろしくな、 お嬢ちゃん」


ダイアンはギリッ、 と歯軋りしながらナキリを睨んだ。

逆らおうとは思わなかった、 明らかに勝てない相手であるからだ。

そして父の手先である事は疑いもしなかった。

何故なら【右道】でも解毒できない猛毒は

父しかもっていない・・・・・・・・・からだ。

彼女は父に問い詰めようと決意しながらもナキリについて行ったのだった。

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