誇り無き獣

「【金の鵞鳥がちょう】と言うから

森全体が黄金にでもなっているかと思った」

「想像もしたくないですね」


険しい道を超えて【金の鵞鳥がちょう】に辿り着いたボクとアーケアス。

アーケアスは先程襲って来た魔物を全身で消化していた。


「そう? きらきらして綺麗だと思うけども」

「金が大量に有ったら金の価値が下がって経済が滅茶苦茶になりますよ」

「そんな物かなぁ・・・さっき襲って来た魔物は食べて大丈夫?」

「えぇ、 とりあえずここの魔物で高く売れるのは

毛皮とか鱗とか牙ですね、 肉食の魔物が多いので肉は売れないので」

「何で肉は売れないの?」

「人を食べているかもしれないので」

「あぁ、 確かに気にするよね、 でも皮が美味い魔物も多いのよねぇ」

「そうですか・・・あ、 来ましたね」


黄金獅子ゴールデンレオが鬣を揺らしながらやって来た。


黄金獅子ゴールデンレオは文字通り黄金の目立つ獅子であり

雌数匹と雄一匹の集団で行動する。

鬣を持っているのは雄のみであり雌の10倍前後の力を持つ。

黄金獅子ゴールデンレオは魔物の中でも有名な魔物であり

個体数は少ないが生息域は恐ろしく広く

火山帯から雪国まで生息し寒暖の変化に強い。

しかしながら人よりも人を狙って襲う魔物を積極的に襲って食べる為

魔物と戦う冒険者餌を横取りする者以外には

積極的に襲い掛からず危険視はされていない。

とは言え権力の象徴として鬣を欲しがる人間は多い。


「じゃあさっさとやりますか」


アーケアスが粘液のドレスを身に纏い戦闘形態になる。


「いやいや殺すのは可哀想ですし

CHARM ANIMAL動物の魅了をかけて動きを封じますので

鬣だけ刈ってしまいましょう」

「・・・・・」


ボクの提案を無視してアーケアスは黄金獅子ゴールデンレオを殴り殺した。

アーケアスは【不定の落し子】と言う【不定の神】の眷属であり

【不定の落し子】は基本的には形が無い、 故に身体能力を底上げしたり

空を飛べる翼を出したりと変幻自在である。

雑に戦っても恐ろしく強い。


「って、 そうじゃなくて何で殺すんですか

鬣だけ貰ってしまえば良いじゃないですか」

「誇りを失って生きるのは余りにも気の毒だ

殺してやった方が良い」

「誇り・・・?」

「そう、 誇りを奪うのは命を奪うよりも重い事なんだよ」

「何となく分かりますけど、 動物ですよ?」

「人間だって動物でしょ、 弁えなさい

さてとじゃあ残りは・・・・・」


周囲には待機していた雌の黄金獅子ゴールデンレオは慌てて逃げ出した。


「・・・・・自分てめぇの旦那が殺されてるのに逃げるのか!? おぉ!?」

「獅子はそういう生き物ですよ、 『希望を持ち過ぎてはいけない』」


亡き師の言葉だ、 希望を、 期待し過ぎると失望も大きい。

獅子は言う程、 誇り高い動物では無い。

群れのボスを殺した雄を群れの新しい主にする事や

前のボスの子供が死のうが生きようが興味を失くすのだ。


「・・・じゃあ遠慮無く鬣を刈るか・・・」

「そっちの方が良いですよ、 生え変わったらまた刈れますから」


がっかりした様なアーケアスを宥めながら

次の黄金獅子ゴールデンレオを探すのだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


渓谷地に住まう土竜ドレイクの討伐に成功した冒険者一行。


「何とかなったな・・・」

「そうだね」

「草臥れたぁ・・・」

「お疲れー」


各々が気を緩めた。

それぞれ消耗はしたが誰一人欠ける事無く勝利する事が出来た。


「それじゃあ土竜ドレイクの首持ってさっさと帰」


ばたり、 と冒険者の1人が倒れる。


「おいおい、 どうし・・・!?」


倒れた冒険者の頭に矢が深々と突き刺さっている。


「なっ、 何だと!?」

「おい警戒し」

交差路クロスロード


耳長の一人が飛び出して魔法がかけられた矢を放つ。

魔法流派の一つ【耳長】の魔法である。

交差路クロスロードは矢の素材である木を増殖させ

大量の矢を一度に放つ魔法である。

冒険者達に矢の雨が迫りくる。


火防壁ファイヤー・ウォール!!」


冒険者一行の【拝火】の魔法使いが炎の壁を作り矢を防御する。


「らぁ!!」

「げふっ!?」

「「「!?」」」


炎の壁を突破して来た全身鎧フルプレートアーマーの男の戦槌ウォーハンマー

【拝火】の魔法使いの頭がカチ割られる。


「くっ」


冒険者達は武器を取り戦おうとするが消耗が激しい。

最初の一撃で主戦力の戦士が殺され、 今、 魔法使いが殺され

残りは攪乱役の盗賊と信心深い回復担当の【右道】の魔法使いと

弓使いのみであった。

弓使いにしても【耳長】の魔法使いとは力量に差があった。


「おい、 逃げろ」


盗賊が【右道】の魔法使いに言った。

この中では一番若く、 否、 幼い少女だった。

家族の為に冒険者パーティに入り金を稼ぐ必要が有ったのだ。


「で、 でも!!」

「俺達が足止めする」

「お前一人だけでも逃げろ!!」

「!!」


涙をこらえながら【右道】の魔法使いは逃げ出した。

しかし隠れていた女戦士の攻撃で首を跳ね飛ばされた。


「てめぇ!!」


盗賊が女戦士に攻撃しようとしたが鎧男に頭を割られた。


「・・・・・」


生き残ったのは弓使いのみである。


「残りはお前だな」


鎧男が弓使いに声をかける。


「何か言い残す事は?」

「そんなに良い装備してる癖にやっている事はハイエナかよ、 この恥知らず」


ざぱ、 と女戦士に首を刎ねられた弓使い。


「私達の事知らない癖に知った様な口を利くな!!」


女戦士は叫んだ。

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