盤上で動く歴史

王都、 トリニティア宮殿。

ここは王国の政治中枢でもあり王族が座する場所である。

宮殿には様々な王族御用達の職が有る。

宮廷錬金術師、 宮廷料理人、 宮廷騎士、 宮廷農家

宮廷畜産業、 宮廷道化、 宮廷税理士、 宮廷管財人。


その中の一つが宮廷魔法使い。

この集団を統べるのが王国の魔法使い最大派閥である【右道】宗家

【フォーチュン家】の一同である。

現当主の弟達3人が王国の魔法使いの方針を決めるのである。

今日も会議を行う為に宮廷魔法使い会議室【幸兆の間】に集まっていた。


「・・・・・」


【フォーチュン家】当主補佐、 当主兄弟三男ダミアン・フォーチュン。

彼は腕組みをしながらも汗を流していた。


「ったくよぉ、 だりいなぁ・・・」


【フォーチュン家】当主代行、 当主兄弟次男ダイダル・フォーチュン。

ダミアンよりも年上だがまるで少年の様に若々しい。

現状、 実質的な王国魔術界のトップである。


「兄上方、 本日は何の会議ですか?」


【フォーチュン家】分家総括、 当主兄弟四男ナイ・フォーチュン。

彼だけは腹違いの兄弟であり、 肌が真っ黒であるが端正な顔立ちで

【右道】分家の総括や他の魔法派閥との外交を行っており

極めて重要な立ち位置に居る。


「今日はなぁ」

「兄上、 まだ大兄上がいらっしゃっていません

会議は大兄上が来てから」

「そうだな、 ダミアン」

「えぇ・・・こちらは忙しいので速く済ませて欲しいのですが・・・」

「ナイよぉ、 物事には【正しい手順】って言うもんが必要なんだよ

分かるか? お前の忙しさよりも【手順通り】にやる方が大事だ」

「しかし宮廷料理人達から問い合わせがありまして」

「問い合わせ?」

「我が家に転職していた元宮廷料理人と連絡が取れないと・・・」

「んあ? 我が家? おいダミアン、 家の事はお前に任せてるよな?

俺は女の所だし、 ナイは忙しくて帰れてないし・・・何が有ったんだ?」

「料理人共は粛清しました」

「・・・・・」

「なっ・・・・・」


呆れるダイダルと驚愕するナイ。


「何考えてるんですか!! 宮廷料理人達と問題起こすつもりですか!!」

「料理人なんて下働きなんて如何でも良いだろう」

「良くないですよ!!

料理人が居なければ食料事情とかどうするおつもりですか!!

大体貴方は些細な事で人を殺し過ぎなんですよ!!」

「ナーイ、 ストップー」


ナイを制止するダイダル。


「まぁ良いじゃねぇか、 貴族と言う訳でも無いんだろう?

宮廷料理人と言えども平民出身者、 貴族出身を雇ってはいなかったはずだ

ならば良いだろう、 俺達は平民程度・・ならい幾らでも殺して良い筈だ

この国を昔から支えている我等【右道】は些細な罪は許される筈だ」

「しかし!!」


会議室にノックが響く。


「【フォーチュン家】当主、 タイタイ・フォーチュン様、 御入来です」


一斉に立ち上がる一同。

会議室の扉が開かれ、 外から車椅子で壮年の男性に見える男が入って来た。

彼は【フォーチュン家】当主、 当主兄弟長年タイタイ・フォーチュン。

現在は過去の事故が原因で一切喋る事も動く事も出来ない昏睡状態に陥っており

単なる置物と化している。

従者が車椅子を押して既定の場所に配置した後、 従者は会議室から出て行った。


「では会議を始めます

今回の議題は私の配下のドッグイヤーが行方不明になりました」

「「行方不明?」」


行方不明と言うのは訳の分からない事態である。


「探せよ、 物探しは【右道】の十八番おはこだろう」

見つからない・・・・・・んです」

「「・・・・・」」


ダイダルは座り直し、 ナイも考え込む。


「見つからないと言う事は魔法の妨害」

「いや、 魔法の妨害の痕跡は無かった」

「魔法範囲外への逃亡」

「魔法範囲外となると王都外100㎞以上逃げた事になる

流石に無理があるだろう」

「殺された?」

「死体が代わりに探知にかかる」

「認識出来ない位の死体の損傷」

「【拝火】の高位魔術で灰にしないと無理だ

或は猛獣に喰われたとか、 どちらにせよ目立つ」


ナイは頭を抱えた。


「その配下のドッグイヤーって奴は何をしてたんだ?

ただ唐突に行方不明になった訳じゃないんだろ?」


ダイダルが尋ねる。


「私の娘の護衛として動く様に【魅了】していた者が敗れまして

その護衛を始末させるようにと動かしていました」

「【魅了】されるような奴を護衛にしていたのか?

【魅了】なんてされるような奴、 魔法使いとしてやっていけないだろう」

「娘が気に入っていましたので」


呆れるダイダルとナイ。


「お前の娘への溺愛、 何とかしろ、 迷惑がかかり始めているぞ」

「分家筆頭【ファウンテン家】の御子息の推薦枠を奪って

無理矢理【白右学園】に入学させて碌に勉強もしていないそうじゃないですか」

「分家なんて如何でも良いじゃないか」

「いや、 良くはねぇだろ? もしもこのまま留年とかになってみろよ」

「進級なんて如何とでも「ならねぇよ!!」


激昂するダイダル。


「あのなぁ!! 俺達は優遇されているのはやる事やっているからだぜ!?

俺だって女遊びしつつも仕事はやってるよ!!

遊んでいるだけのクズなんて【フォーチュン家】には要らねぇ!!

もしも留年や退学するような事があれば殺すまではいかねぇか

座敷牢に閉じ込める位はするからな!!」

「ッ・・・」


拳から血が出る程に握りしめるダミアン。


「・・・・・話を戻しましょうか、 要するに小兄上ダミアン

娘の護衛を殺しに行ったら行方不明、 と」

「その護衛がやったのか?」

「いや・・・そんな実力は無かった筈・・・」

「・・・いずれにせよ警戒は必要だな」

「そうですね、 王都への警戒を強めましょう

各地域の腕利きを王都へ招集します」

「任せたぞ」


こうして王都に戦力を集中する事になった【右道】。

これが歴史の転換となる事を彼等は知らなかったのだった。

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