襲撃のち高跳び

時間は少し前後する。

病院から抜け出たカラカロンは【ゲッシュ】の元に向かっていた。


「何処行くんでぇ?」

「!?」


現れたのはドッグイヤー。

ダミアン配下の魔法使いである。

スラム街の生まれだが【右道】を習得した事により

ダミアンに取り立てられた。

但し性根が悪いので暗殺などの下働きが主である。


「決まってる・・・あの男が殺す!!」


カラカロン砕けた頬とボロボロの歯で叫んだ。


「ふぅむ・・・」


ドッグイヤーは考えた。

カラカロンの始末だけでは手柄にならないが

カラコロンをこんなにもした奴の首も一緒ならば更に手柄になるだろう。

カラコロンと件の男が戦った後にカラカロンを始末すれば良い。


「勝てるのかぁ?」

「油断しただけだ!! 今度は殺す!!」

「そうかい、 居場所は分かるのかい?」

「あぁ!! 奴の住所は分かっている!!」


当然ながら【ゲッシュ】の住所はもぬけの殻になっていた。


「ちぃ!! 逃げたか!!」

「ふん、 じゃあ追跡するか」

「出来るのか!?」

「物探しも【右道】の守備範囲だろうに・・・」

「私は御嬢様の護衛だから戦いに必要な事しか習ってない」

「そうかい」


まぁこいつはそうだろうな・・・・・・・・・

ドッグイヤーは思った。


「んじゃ探そうかね、 ヤサイニンニクカラメアブラマシマシ欲しい物を欲しいだけ


ズゥンとドッグイヤーの中に情報が飛び込む。

ドッグイヤーは物探しの魔法は得意中の得意である。

相手の位置が分かれば不意を幾らでも打てる

少しでも痕跡(この場合は居た部屋の情報)があれば

対象の位置を把握する事が出来る。


「街はずれの貸倉庫だ」

「じゃあ行くか」

「あぁ」


そして現在に至る。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


ボクはクソガキの護衛と相対した。


「一人だけか?」

「1人隠れて見張ってるよ」

「言うんだ」


素直だなぁと思った。


「誰が何人居ようと関係無い、 お前はここで私にやられるんだからな

さっきは油断していたから負けたんだ」

「で、 今回はうっかりで負けると」

「うっかり? 何がうっかりだ」

「君、 何時も剣を持ってたよね?」

「・・・・・」


普通は学校に剣なんて御法度だが

【フォーチュン家】の護衛だから許されていた。

こっちは杖を持っている、 魔法の媒体にもなる様な頑丈な物を


「ふ、 主よ、我に勝利をフリーダム・パワー


【右道】の身体強化魔法。

恐らくは殴り倒そうという魂胆だが・・・


IMPLANT FEAR恐怖の注入

「!?」


生憎ボクはそんな物につきああああああああああああああああ


「ッ!?」


【不定の神】から教えて貰った魔法を使ってみたが

魔力だけでは無く精神力まで削られる感覚がする・・・

神の魔法だけあって人間が扱うのはリスクが有ると言う事か。


「うわあああああああああああああああああああああああ!!!!?」


だが効果は充分、 IMPLANT FEAR恐怖の注入

相手に恐怖を無理矢理送り込む魔法。

もうまともに動けないだろう。


「ま、 まだだ!! まだ戦える!!」


護衛が構えた。


「根性が凄い、 あのガキの為に何でそこまで・・・」

「ふん!! 当たり前だ!! お嬢様は」


そこまで言うと急に動きが止まった。


「お嬢様・・・お嬢様?

何であんな娘・・・・の事なんか気にしてるんだ? あたしは?」

「あぁ、 魅了で操られてたのか」


魅了魔法、 存在はすると言う噂があり、 度々騒動にもなっていたが

まさか実在するとは・・・まぁ神様から教えて貰ったからボクも使えるけども


「とりあえずもう少し倒れておけ」

「え、 あ!?」


ボクは杖で殴りかかった。

流石に操られている奴を殺す事は出来ないしこれで充分。


「っ!!」


護衛は咄嗟にガードしようとしたがそのままガードごと頭を打ん殴った。

身体強化魔法に比重を置いて肉体の鍛錬をしていないのだろう

戦士では無いにせよ、 それなりに鍛えている男の腕力

更にこちらは頑丈な杖を持っているのならば

強化していてもこちらに分がある、 そもそもIMPLANT FEAR恐怖の注入で魔法がちゃんと機能していたかは謎だが・・・


「終わった?」


アーケアス様が男の首を掴んで持って来た。


「その男は?」

「君とその女の争いに割って入ろうとしていたウドー? とか言う魔法使い」

「【右道】の魔法使いですね、 【右道】っていうのは魔法の一派です」

「へぇー、 何でもその女も【右道】って連中の標的らしい」

「何故?」

「君に倒されたからってさ、 如何する? 仕返しに行く?」

「【右道】は王国の魔法勢力の最大派閥、 逃げましょうか」

「あらそう、 これ、 居る?」


男を見せるアーケアス様、 胸が不自然な形になっている。

まるで胸にハンマーで思い切り殴られた様に。


「要りません」

「じゃあ私が頂こう」


アーケアス様の粘液に飲み込まれる男。

バキッ、 バキと骨が砕かれる音がする。


「この女は? 殺されちゃうし私貰って良い?」

「・・・・・」


魅了されているとはいえ敵だし助命を乞う程でも無い。


「どうぞ」

「じゃあいただくね」


するすると護衛の女を飲み込むアーケアス様。


「さて、 じゃあ逃げるならさっさとしましょうか!!

私はこの世界の地理に詳しくないから逃げ先は任せるよ!!」

「そうですね・・・じゃあ【金の淵】に行きましょう

国内最大規模の商業都市、 あそこなら暫く居ても大丈夫でしょう」

「いいね!! じゃあ行こうか!!」

「はい、 馬車でも拾って・・・」

「馬車あ?」


アーケアス様がにやりと笑う。


「地理は分かる?」

「え、 えぇ、 とりあえずは」

「じゃあナビゲートしてね」


アーケアス様はボクをひょい、 と抱きかかえるとジャンプして

そのまま翼を生やして空を飛び始めた。


「どう? 空を飛んだ感想は?」

「悪く、 無い、 です」


正直アーケアス様の胸が後頭部に当たるのでそれ所では無かったが

ボクは初めて空を飛んだのだった。

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