料理するもの、されるもの

ダミアンは次々とコックたちを斬り殺していった。


「ひぃ!?」

「ら、 乱心だぁ!?」

「くっ、 御免!!」


コックの1人がダミアンの前に出た。


尊火ヤサダ・アータル!!」


コックの掌から炎球が出た。

彼は【拝火】の魔法使いでもある。

火の扱いに長けた【拝火】の魔法使いがコックや

鍛冶などの火を扱う仕事に就くのは珍しくない。


だがダミアンは剣で迫りくる炎を受け止めて

そしてそのまま炎を数倍にして跳ね返した。


「うわあああああああああああああああああああ!!!!!」


炎に巻かれて叫ぶコックたち。


「愚かな、 【右道】の魔法には因果応報が含まれる

無暗に攻撃すればこうなるのは目に見えているだろうに」

「な、 何故だ!?」


生き残ったコックの一人が叫ぶ。


「一体何故こんな事を!?」

「娘が料理をしたらしいじゃないか」

「・・・・・え?」

「娘が料理をしたらしいじゃないか」


怒りを込めてダミアンが繰り返した。


「え? え?」

「・・・・・あのな、 私達【右道】の宗家は尊いんだよ

貴族の様に、 いや貴族よりもだ

そんな尊い者に・・・料理なんて・・・・・下賤な真似をさせる時点で

貴様等には死んで貰うしかないんだよ

そもそも特に娘は料理をしてはならない・・・・・・・

「い、 いや!! 俺は新入りだから知らない!!」

「コックの1人が料理を手伝ったそうじゃないか

連帯責任だ、 全員死ね」

「滅茶苦茶だ!! そこまでする必要無いじゃないか!!」

平民は愚か・・・・・だから厳しく接する位で良いんだよ

お前達を許してしまったら平民共はつけあがるだろうが」


ダミアンは剣を振り上げた。


「待って!! 許して!!」


そしてそのままダミアンはコックの首を落とした。

ダミアンは剣を消して台所から立ち去った。


「当主補佐様、 お嬢様はお部屋にお通ししました」


バックブリードが跪いて報告をする。


「分かった、 台所を綺麗に片づけて新しいコックを雇え」

「了解しました」

「それからダイアンの護衛は如何した?」

「ドッグイヤーが向かっています」

「ちゃんと始末しろよ、 【フォーチュン家】の娘の護衛が

何処の馬の骨とも分からない奴に殴られて倒れたなんて

恥ずかしいからな」

「ドッグイヤーは下賤な生まれです

大怪我を追った女でも平然と殺しますよ」

「なら良いんだがな・・・・・」


――――――――――――――――――――――――――――――――――


ボクは貸し倉庫で目が覚めた。


「・・・・・」


起き上がる、 アレ・・は夢・・・では無い

知っている筈の無い魔法の知識、 そして魔力。

更にそれを当たり前に・・・・・・・・感じて取り乱さない自分。

儀式の前とは正に別物になっていた。


「・・・もう夜か・・・」


日が暮れている。


「あ、 起きた?」

「?」


声のする方を振り返るとそこには美しい女性が居た。

髪の毛は黒に近い整ったグレーで髪の毛を縛って

エプロン姿で料理をしていた。


「碌な食材が無かったから適当に財布を借りて

調達して料理しているが大丈夫だよね?」

「え、 はい・・・」

「♪~♪~♪~」


丁寧に料理を盛り付ける女性。

何処からか持って来たのかテーブル一式と食器一式も用意してある。


「さぁ召し上がれ」

「あ、 え・・・誰、 ですか?」


ボクは困惑しながら尋ねた。


「アーケアスって名乗った筈だけど?」

「え、 人間、 だったの・・・あ、 ですか?」

「・・・・・」


アーケアス様の服と髪の毛、 両手両足が解けて

まるで黒い灰色の粘液がドレスの様に彼女の体にへばりつく。


「私は不定の落し子だよ、 父上の娘だよ」

「そうですか・・・料理をして貰ってすみません・・・」

「良いよ、 一応婚約者だし」

「・・・・・」


ボクはやや状況を受け付けなかった。


「どういう事です?」

「父は君の事を見所が有ると見た、 そしてこの世界では父の信仰が少ない

それ故に君の事を見て欲しいと言う事だろう

さ、 食べよう」

「いや」

「良いから、 父の御前に立ち、 いや跪き? どっちでも良いか

神格と会ってタダで済む訳じゃないんだからさっさと食べよう」


ぐぅ~とお腹も鳴った。


「で、 では遠慮無く・・・」


恥ずかしながらも御飯を食べ始めた。

焼いたハムの山に魚のトマト煮込み、 紫のリンゴのパイ。

肉団子スープ、 ガーリックトースト、 塩もみした胡瓜。

ふわっふわのパンケーキに大量のスパゲッティ。

臓物を焼いた奴。

一気に全部食べてしまった。


「御馳走様でした」

「お粗末様でした」

「あの、 それで婚約と言う話ですが・・・」

「あ、 ちょっと待った、 その話だけど一つ

いや、 二つだけはっきりさせておこう」

「はい、 何ですか?」

「婚前交渉は無しだ、 流石に結婚前に体を許すつもりは無い」


面食らった、 婚前交渉を持ち出すとは思わなかった。


「いや、 そうでは無く、 貴女はボク、 じゃなかった私」

「ボク」


ずいっと、 顔を近づけてくるアーケアス様。


「は、 はい?」

「私の前ではボクで良い」

「・・・は、 はい」


絶世の美女がこんな目の前に居ると言うのは流石に照れる。


「そしてもう一つだけど、 外の連中、 何者?」

「外の連中?」

「窓の外」

「?」


窓の外を見ると病院から抜け出た様な服装の女が居た。


「あれは・・・ボコボコにした・・・」

「剣も持ってるね、 危ういわぁ・・・

後、 遠くから誰かが見ているみたい、 数は1人」

「そうですか・・・ではボクが何とかして見ます」

「お願いね、 私は遠くの奴を片付けるから」


そう言うなりアーケアス様は猫に変身して外に出て行った。


「・・・・・じゃあやるか」


ボクは貸し倉庫の外に出た。

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