父なる者の行い

ボクは貸し倉庫で時を待った。

儀式を行う時間帯、 魔法陣、 身振り、 掌印、 祝詞。

どれか一つ間違うだけでも死に至る事だろう。

神と接するのならば礼節は大事だ。

何が死に直結するか分からない。


「ugXa=CthUn=yuH! CtHuaThur Gp RhB=ghG LHU tk!

GL=yA、Tsathoggua! Tsathoggua!

来たれり! 敬愛する主よ、夜の父よ!

栄光あれ! 太古のものよ! 外なるものの最初に生まれしものよ!

ハイル! 汝、 星が大いなる者を生み出す前の記憶の果ての

太古からありしものよ! 菌にまみれしムーの偉大な旧き這うものよ!

Ia, Ia! gnos=YTTAG=HA! Ia, Ia! Tsathoggua!」


彼の神を称える祝詞を唱えた後、 ボクは気が付くと真っ暗な場所に飛ばされた。


我が師が崇拝していた神格【不定の神】

彼の神が我が師の魔術の原型を遥か昔に魔術系譜始祖に教えたと言う。


「何者ぞ」


高く凛とした声が響く。

ボクは咄嗟にひざまずいた。


「魔術師『エズダゴル』の弟子『ゲッシュ』と申します」

「『ゲッシュ』よ、 私は偉大なる夜の父の娘『アーケアス』

何用でここに現れたのか申せ」

「はっ、 亡き師が私に託した魔術を成して欲しいと頼まれたので

実行したのです」

「・・・ちょっと待て、 お前は何の魔法だか知らずに使ったのか?」


声のトーンに明らかに困惑が混じる。


「いえ、 神との交信だと知っていて使いました」

「・・・使っただけか?」

「はい、 亡き師が使って欲しいと託して来たので」

「・・・・・正気か? 神と交信をそんなに気軽にして無事で済むと?

そんな危険を冒す理由が『亡き師から頼まれた』? 正気とは思えない」

「そうでしょうか? 私には充分な理由です」

「・・・・・」

████ よい


理解出来ないのに理解出来る音の羅列の様な声が響く。

恐らくは【不定の神】だろう。


████ お前の供物に████ 余は感謝する

████████ お前の世界からの供物は████ 久々である

████████████ 態度も丁寧であり好印象である

「・・・・・」


褒められているが返事が出来ない。

蛇に睨まれた蛙ですらここまで絶望しないだろう。


████ ふむ、 自慢もしない████ 身を弁えている

████████ 私が苦手とするタイプに

████ 己の苦労を████ 延々と語る

████ 輩が居てな████ そう言う類の奴には████ げんなりする

████ 良いだろう████ 細やかな土産をやろう

「・・・っ!? が、 ががが!?」


脳髄に流れ込む情報の放流、 様々な魔法の知識と魔力が流れ込んでいる。

まるで井の中の蛙の頭に大海を流し込む様な行為である。


████ ふむふむ████ まぁこんなもんだろうか?

「はぁ・・・はぁ・・・」


ボクは汗を滝の様に流す。

全力疾走でもここまでの汗は流れないだろう。


████ さてとアーケアス』

「はい?」

████████ この男は中々に見所のある男だ████████ 魔術師と言うのは俗世離れして

████████ 有体に言えば偉そうだが████████ この男にはそれが無い

「まだ子供だからでは?」

██████そうなのか?████████ 見分けがつかんが

██まぁ良い████████ 余との交信を成せたのだから

████████ 最低限の実力は有るのだろう████████ こやつの世界の信者は少なくなった

████████ 子供ならば見守らねばならぬ

「ふむ、 つまり」

████████ その通りだ████████ この男と婚姻を結べ

「お父様、 物事には順序が有ります

我等の様な卑小の者には大事な事です、 最初は婚約者から始めましょう」

████████ 細かい些事は任せる████████ えーっと・・・何と言ったか?

「・・・げ、 ゲッシュです・・・」


ボクは息も絶え絶えながら喋った。


████████ 娘を任せるぞ


ボクは意識を失った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


一方その頃【フォーチュン家】では。

ダイアンからダミアンは事情を粗方聞いた。


「うーん、 まず君の恋人って言うのは君の勘違いだよ」

「か、 勘違い!?」

「お付き合いしましょうね、 ってそういう話もしてないんだろう?

第一平民の男じゃないか」

「で、 でも仲良くなった筈です!! お弁当を作ってあげたり!!

お喋りしたり!! 【右道】を勧めたりしました!!」

お弁当を作った・・・・・・・?」


ダミアンの目の色が変わった。


「君、 料理するの?」

「え? えぇ、 皆に手伝って貰ってなんとか」

「皆って?」

「コックのカサハラとか・・・」

「そうか、 兎も角

君が恋人と思い込んだ男が君の護衛を倒したと言う事か

大体察したよ、 とりあえずお父さんに全て任せなさい」

「大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だ、 君の母に誓うよ」


部屋に飾ってある絵画を見るダミアン。

黒毛の異国女性、 彼女の名はヴァリシア。

ダイアンの母であるがとある事故により死亡した。


「・・・・・」


ダイアンは不安げだった。

ヴァリシアは切れ目で怖い印象を受ける、 絵画でも恐ろしい

まるで蛇の様だと思った。


「ごめんな・・・ごめんな・・・君の事を守れなくて・・・」


ダミアンは号泣している。

ヴァリシアを守れなかった事を今も悔いているのだ。


「お嬢様、 お部屋に」

「え、 あ、 はい」


ダミアンの配下のバックブリードがアルカイックスマイルを見せながら

ダイアンを部屋に連れて行った。


「うっ・・・うっ・・・・・さて行くか」


ダイアンが去って暫くしてからダミアンも部屋から出て行った。

向かう先は台所である。


「旦那様? 何の御用で・・・」

地獄に堕ちろ罪人めらエンプティ・ソード


コックの1人の言葉を無視して魔術を行使するダミアン。

ダミアンの掌から一本のガラスの様に透き通った剣が伸びて現れた。

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