第18話 ここ100年の、世界の成り立ち(3)
ホイルは軽やかな声で、おばあさんのように、ゆっくりと昔話を始めた。
わたしの名はホイル。竜の国の次期王様。遠い遠い国、ドラゴンハーツという、竜たちの住む王国に生まれた王の子。この姿だと女の子を模しているけれど、竜に性別はない。男でもあり女でもあり、そのどちらでもない。性別のない存在として生きることもできるし、選んで好みで男にもなれて、女にもなれる。
見てわかる通り、私は女の子を選んだ。人間に変身したこの姿も、人間の女の子を参考にして自分でデザインした。竜は基本的に万能の力がある。好きな姿を取ることなんて朝飯前。だから本当の姿はもっと、大きな竜の身体を持っているけど、この場所で完全に元の姿には戻れない。力を使いすぎるし、土地が狭いからね。
竜の寿命は長い。人に想像もつかないほど、不死だと見まごうほどに長い。ドラゴンハーツでは、王は世襲制なの。人の文化では古い慣習に思えるかもしれないけど、竜は、それだけ血が濃いから、強い個体からは強い個体が生まれる。王の血筋というのはあなどれない力を持っている。この世襲制度は実に合理的なの。
王の子どもに産まれた私は、王になる義務を背負っている。
大人になったら、拒否権もなく玉座に座る。そうしたら自由に生きるすべはない。政治をし、世継ぎをつくらなくてはいけない。余談だけど、子を産むために、王は100人以上の妻を持つ。そう、王様になったら、わたしに自由はなくなる。今は女の子として自認して過ごしている、けど、やがて身体を男に切り替えて多くの側室を持つの。王の身体は世界一貴重だから、命の危険にさらすことはできない。王が女として自ら出産することは許されていない。ホイルは、わたしの国の言葉で、屈強な英雄を指す。戦争の時代に活躍した古代の王様の名前をもらったの。
名誉なことだと父は言うけれど。
この名前がずっときらいだった。
けど、この世界では……
この世界って、あなたたちの世界のこと。
地球、日本。あなたたちの住む、このきらびやかな都市のこと。
ここでは「ホイル」は、なんとなく、かわいい女の子キャラクターでもありえるような音の「ひびき」をしている。そう気づいたの。ホイルちゃんという、とびきりキュートなドラゴン系のヒロインがいてもいいような、そんな器の大きさを勝手に受け取っていた。
王様候補は、人の年齢でいうと十六歳になったら、王位を継承するそのときまで、100年間、好きな場所を選んで留学できる。
大人になったら自由はないから。
最後の長い休暇というわけ。留学といっても勉強しなくてもいい。勉強してもいい。なにをしても自由なの。どこに行ってもいい。約束は一つだけ。休暇を満喫したら、絶対に国に戻ること……。
星々によって生物も文化もいろいろ違うけれど、大概の星では、ひとりの人が百年すがたも変わらずにずっと居つづけるのはおかしいわね。
それでわたしは、百年いられるように、ほんの小さな子どもの姿から始めることにした。
たった5歳から始めれば、105歳で生きていても、いちおう不思議ではない。姿はその都度、成長に合わせて、地球の標準にそって年取ったように変えればいい。
だから、ほんの子どもの5歳の姿になってわたしはここにやってきた。
え? どうして、この星を、この日本を、東京を、選んだのかって?
そんなの決まってる。
「アニメ」だ。
当時、まだアニメなんていう言葉はない。アニメーションという英語はあったが、日本では動く絵の「漫画映画」と呼ばれていた。漫画が動くなんて、夢の世界だ。
その世界には、私の大好きなマンガ、そしてアニメがあった。日本は戦後まもない、まだアニメの黎明期……それでもアニメーションの産毛はもうここにあった!
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