第6話 ショートメール、みんな使ってる?
呼び出し音が鳴っている間に、軽く
今までのあらすじ
を振り返っておこう。
はしのすみ(120)
スーパーウルトラレジェンド声優、生きる伝説、喋る神。
代表作
「ドラゴンベアー」ドラモ役
「はんぺんまん」はんぺんまん役
「プレイヤーズ!!」紙屋先輩役
「まじっくプリンセス」まじっくプリンセス役
「ココロのモンスター」ココロン役
ほか多数
事務所に所属せず、フリーで活動していた彼女はある日突然の引退――120歳になったため定年退職――を発表した。120歳が定年の、未来のお話である。
映画の新作なども続々と控えている中での突然の引退。しかも業界関係者は誰も彼女と連絡が取れない。本当に本人の希望による引退なのかそれとも? 第三者が裏で手を引いている? と業界内は騒然とする。そこではしのと連絡を取るために、集まったのが以下の人々である。
アニメプロデューサー
・辰己竜矢(60代)
ドラゴンベアー担当
・半村寛(70代)
はんぺんまん担当
・塚功一(40代)
プレイヤーズ!!担当
・姫野藍子(60代)
まじっくプリンセス担当
・田原モモ(80代)
ココロのモンスター担当
声優
・佐多ケイ(20代)
一度だけ、はしのすみと共演したことがある声優。
ほか、佐多ケイの後輩の、声優を目指す養成所の研究生たち。名前はまだない。
佐多は辰己たちと合流し、皆が見守る中、はしのすみのプライベートの電話番号に通話ボタンを押す――。
*
緊張感が増す中で、田原はさっと席を立って、コーヒーを買いにいってしまった。田原が戻ってきてもなお電話は通じていなかった。
「はいこれ~、まあコーヒーでも飲んで落ち着いてちょうだい。コンビニコーヒーってあんがい侮れない、おいしいのよね」
「あ、ありがとうございます。はしのさん電話出ないですね。でもコール音はずっと鳴るので、電話回線は生きてるようですが……」
佐多はため息をついて、いったん呼び出しを切るとスマートフォンから耳を離し、田原が差し入れてくれたコーヒーに砂糖とミルクをまぜる。電話に出ないことは予想の範囲内ではあった。簡単に連絡が取れないから皆が困っているのだ。時間をおいて何度もコールするが、結果は一緒だった。場になんとなくあきらめムードが漂い、それぞれがコーヒーをおかわりする中で、あ、と半村が声を上げた。
「佐多ちゃん、そうだ、すみさんにショートメールしてみたら」
「ショートメールってなんですか?」
生まれた時から優れた機能のスマートフォンがあり、知人との連絡はSNSのアプリで取っている佐多はまったく知らない機能だった。が、それがあったかとほかの者たちもぽんと手を打った。
正確にはショートメッセージサービス(SMS)といい、電話番号充てに70字までの短いメールが送れる機能があるのだ。
「なるほど、さすが年の功だ半村さん」
「そんな機能があるなんてすっかり忘れてた」
「俺はいまだに使ってるからな。うちのかみさんアプリとかわかんないから、ショートメールで連絡取ってるんだよ」
「……えーっと、でもわたし、なんて書けばいいんでしょう……」
いざメッセージを書こうとしても指が止まってしまい、佐多は顔を上げて、不安そうにプロデューサーたちを見回した。
「内容は任せるよ。もともと連絡先を知ってるのはこの中で、佐多ちゃんだけだからな」
塚はからあげスナックをつまみながら答えた。
この中どころか、業界内ではしのすみのプライベートの携帯電話番号を知っているのは、佐多ケイだけだった。一度会ってほんの少し会話しただけの新人声優に、はしのすみはなぜ電話番号を教えたのか?
佐多は悩んだ末に、こう送った。
『こんにちは、「ビリーブme」所属声優の佐多ケイです。おすすめのパン屋さんの件ですが、代官山のシナモロール専門店です! 珈琲に合うんですよ』
これで一度送信し、追記で、店名と公式サイトのURLを添えて、また送信。
引退の件についてなにも触れない話題での突然のメール、さすがにわざとらしかったかもしれない。それに佐多ケイといっても思い出さないだろう。佐多にとっては永遠のレジェンドでも、はしのにとっては何百人とすれ違う新人声優のうちのひとりだ。そのはずだが……
陽気な着メロが流れた。場が凍り付く。
「はしのさんから電話かかってきました!!」
「出て!!」
「はい」
『もしもし』
スピーカーモードにしたスマホから聞こえてきたのは、間違いなく、はしのすみの声だった。
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