第5話

最前線である極東の地に派遣された俺は、赴任当初は使命感に燃えていた。

しかし、パイロットたちへの待遇は最悪であった。


官舎は、しばしば停電や断水に悩まされた。

トイレや台所は、他の世帯と共同であり、いつも汚れていた。

基地の周辺は田舎で、娯楽もない。



都会育ちの妻は、田舎暮らしへの不満を毎日もらした。

俺が稼ぐ給料のほとんどを妻は浪費してしまい、蓄えはなかった。

妻との喧嘩は毎日続いた。

家庭は地獄であった。



幼少期のつらい思い出が蘇ってきた。

あの時、俺は思ったはず。

パイロットになれば自由になれると。


しかし、その実態は……


最新鋭機Mig-25。それは、自由への翼ではなく、機密の翼であった。

その軍事機密を西側諸国に漏らすわけにはいかない。


そのため、俺たちパイロットは国家保安委員会KGBからの監視を常に受け続けていた。

自由な外出など許されなかった。

外部の人間との接触も、すべて監視の対象であった。


最新鋭機のパイロットになった俺は、結局のところ、自由を手に入れることなどできなかったのだ。


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