フリーターの場合

不思議な体験.......ですか?


あるにはあるんですけど...........何で、そのことを聞くんですか?


.............気になったから聞いてるだけ?


そ、そうなんですね。


てっきり、オカルト系の配信者の人かと思っちゃいました。


それで.......えっと、私の体験した不思議な話のことですよね?


そんなに面白くもない話だと思いますが......それでも、聞いてくれますか?


.......分かりました。


私の覚えている範囲のことでお話しします。


アレは、私がとある店でバイトをしていた時のことでした。


その店は、いわゆるオシャレなカフェで、コーヒーが美味しいことで有名だったんです。


賄いも美味しいですし、何より、店長が優しかったので、この店で働けてよかったなって、その時は思っていたんです。


で、店には何人かのバイトがいて.....その中に、誠くんっていう子が居たんです。


誠くんは、真面目でよく働く人だったんですけど.......どこか、不思議な感じがしたんです。


その、何というか、どこか達観しているような感じだったんです。


だから、バイト仲間達からは不思議な人扱いされていたんです。


ある時、いつものように掃除をしていると、誠くんがこう言ったんです。


「店長の奥さん、僕の母と同じ町出身なんです」


そう言った後、誠くんは、続け様にこう言ったんです。


「だから、店長に伝えておいてください。決して、子供絡みことで奥さんを怒らせるなと」


この言葉を聞いた時、何故、このことを言うのだろうと、私は思ったんですけど.......とりあえず、深く考えることはせずに、とりあえず店長に伝えたんです。


そうしたら、店長は一瞬だけビクッとした後、引き攣った笑顔になっていたのを、覚えています。


その瞬間、私はこう思ったんです。


誠くんは、店長一家の何かを知ってるのではないか?と......


そこで、私は誠くんに聞いたんです。


「あなたは、店長について何か知っているんですか?」


って。


すると......誠くんは


「いえ、何も」


と答えた後、そのまま自分の仕事へ戻っていきました。


何も知らないのに、どうしてそんなことを言うのだろう?


そんな疑問が頭に浮かんで、しばらく離れなかったんですけど......ある日、その疑問の答えが突然出てきたんです。


それは、いつものようにバイト先に行こうとしていた時、そのカフェで働いていた先輩から、突然、電話がかかってきたんです。


どうしたことかと思って、電話に出たら......先輩から、こう告げられたんです。


店長が、奥さんに対して暴力を......DVをした罪で逮捕されたと。


その瞬間、私は.....誠くんの言葉の意味をやっと理解できたんです。


店長は.......奥さんに対して、酷い扱いをしてきた。


その結果、誠くんが懸念していた通り、子供絡みの何らかの出来事が起きてしまった。


だから、店長は逮捕されたのではないか?


と、私達は考えました。


そう考えると、いくつか腑に落ちるんです。


だけど......一つだけ、分からないことがあるんです。


実は、店長は逮捕された時に、警察署に駆け込んで


「アノコが俺を殺しに来る」


そう言った後、自ら自首したみたいなんです。


.........私は、アノコという存在を知りません。


だけど、店長が自らの罪を告白するまでに、アノコは恐ろしい存在なのだったのかもしれません。


.......店長はどうなったのか?ですか?


あの後......留置場の中で、頭を何度も何度も打ちつけた後、亡くなったみたいです。


...........そう!!そうなんです!!


留置場の中に、何故か赤い飴の包み紙が落ちていたみたいなんです!!


あと、噂によると.......


『アノコドコノコダレノコ、アノコドコノコシラヌコ、アカイアメハチノアジ、アオイアメハミズノアジ、アノコハダァレ?アノコハダァレ?』


という歌を歌いながら、頭を打ちつけていたみたいなんです。


何というか.........ホラー映画みたいな死に方ですよね。


それで、結局カフェは潰れて、私と誠くんは、それっきり会っていないんです。


だから、誠くんに関する情報は、さっき話したことだけです。


.......でも、誠くんは一度だけ、こんなことを言っていました。


「僕は、彼女の理解者でありたい」


って...........

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