7 順調に上がっていく好感度
◆7◆
ルーファス様との一件から数日。
その間、私はロズハルト様の予定や動向を確認しつつ、計画を遂行した。
もっとも、ロズハルト様の予定に、私とのお茶会その他、なんの予定も入らなかったけど。
いや、それでいいんだけど、立場上、そして乙女としても……ちょっとだけ切ない。
それはそれとして。
おかげで、ルーファス様と同様、他の五人の
これで、出会いイベントが発生したのはロズハルト様だけ。
もちろん、後日レアナと接触する機会はあると思うけど、それがお互いの好感度が上がる出会いになる保証はないわ。
そして今後予定されているイベントが発生する確率も、極端に下がったはず。
これでレアナがロズハルト様ルートに入る可能性が最も高くなったわ。
ロズハルト様ルートなら、私がロズハルト様と行動を共にしても不自然ではない上、その時々でレアナと接触することで、レアナを計画に沿ってかなり誘導しやすくなったはずよ。
後は、エンディングを迎える一年後まで、この調子で計画を遂行していくだけね。
レアナには、私の独善でロズハルト様ルートを押しつけてしまっているけど、名だたる
そうしてレアナと攻略対象達の動向に気を配りながら、たまに熱を出して数日寝込んで休むこともあったけど、表面上は普通に過ごして一ヶ月程が過ぎた、そんなある日。
「エヴァノーラ様、その……すごく迷ったんですが、お耳に入れておいた方が良さそうなお話がありまして……」
放課後の私の部屋で、私を気遣い歯切れ悪く、ミリエッタがそう切り出してきた。
その話とは……。
「実は、殿下があの平民と、その……二人きりで親しくしているお姿を見たと、一部で噂になっているようでして……」
なるほど、ロズハルト様がレアナと陰でコソコソとデートしていると、そう噂になっているのね。
しかもミリエッタが迂遠ながらも私に聞かせたと言うことは、もういつどこで誰がその噂話をしていて私の耳に入るか分からない、それくらい学生の間に広まってしまっている、そういうことなんでしょう。
「そう、よく教えてくれたわね、ありがとうミリエッタ」
心配しないで、と微笑む。
だけど、ミリエッタはさっと顔を青ざめさせると、らしくなく早口で一気にまくし立ててきた。
「あの、お怒りはごもっともですが、もしかしたら何かの間違いかも知れませんし、まずはわたしがもう少し詳しく調べてきますから。それでもし何かあるようでしたら、わたしの方から
……また何か勘違いされてしまったみたいね。
もしかして私がお父様や王家に報告するとでも思ったのかしら?
そんなことをしたら、私にダダ甘のお父様がレアナに何をするか分からないもの。
退学で済めば穏便な方で、絶対に王家も巻き込んで大事になるのは間違いないわ。
ロズハルト様も平民に懸想して、婚約者たるファルテイン公爵令嬢を蔑ろにしただなんて知られたら、叱責だけでは済まないかも知れないし。
良好な王家とファルテイン公爵家の関係にヒビを入れたら、立太子されるかすら危うくなるわよ。
だからお父様にも王家にもまだ事態は伏せておかないと。
「大丈夫よ、ただ少しロズハルト様とレアナにお話をしたいだけだから」
「いえ、ですからそれが――」
「大丈夫よ、ね?」
「――っ……はい」
心配かけて申し訳ないけど、これはロズハルト様の婚約者として私が動かないと駄目な案件なのよ。
婚約者が浮気しているかも知れないのに何もしないでは、浮気相手はもちろん、他のご令嬢達にも馬鹿にされて舐められる。
もし浮気に気付いてすらいないと思われたら、物笑いの種どころじゃないわ。
ファルテイン公爵家と仲が悪い派閥のご令嬢達は、
貴族は舐められたらおしまいよ。
しかも私は公爵令嬢で、ゆくゆくは王妃になると目されているんだから。
今ここで舐められたら、今後の社交界でご夫人方、ご令嬢方をまとめられなくなってしまう。
社交界をまとめられない王妃なんていい笑いもので、他国にも舐められて、どれほど国益を損なうことになるか。
それはつまり、そんな王妃を迎え入れた王家はもちろん、その程度の教育しか施せない、そんな王妃しか輩出できないと、ファルテイン公爵家が舐められて、立場を失うことに繋がるんだから。
ミリエッタも伯爵令嬢とはいえ四女ともなると、その辺りの認識が甘いみたいね。
要勉強よ。
「分かったかしら?」
「はい……」
その辺りを説明して、それから考える。
「出来れば現場を押さえて、言い逃れの出来ない状況で、二人同時にお話したいわね」
「まずわたしが現場を押さえて、エヴァノーラ様にお伝えします。エヴァノーラ様を方々歩き回らせるわけにはいきませんから」
事態を重く見てくれたようで、鼻息荒くミリエッタが身を乗り出してきた。
「ごめんなさい、あなたにそんな使い走りのような真似をお願いしてしまって」
ミリエッタの手を取って謝る。
私の身体が健康なら自分で歩き回れば済むのに、親友とは言え、伯爵令嬢にさせていい役回りじゃない。
「いいんですよ、わたしがエヴァノーラ様のお役に立ちたいのです」
どうせなら、凛々しい顔で言ってくれれば格好いいのに。
締まりなくにやけた顔で、私の手を撫でさすりながらじゃ、感謝の気持ちも半減よ?
「それに……わたしの判断の甘さでお耳に入れるのが遅れて、エヴァノーラ様のお立場を悪くしてしまった罪滅ぼしをさせてください」
今度は、表情を改めて心から申し訳なさそうに言ってくれる。
先ほどの話ね。
「分かったわ。それではお願いね」
「はい!」
それから数日後。
「エヴァノーラ様、現場を押さえました!」
ミリエッタがご令嬢としてはギリギリ許される早足で、私の部屋に飛び込んできた。
「そう、ありがとうミリエッタ。それで場所はどこ?」
「校舎裏の森庭です」
「それは……なんの意外性もなかったわね」
校舎裏の森庭は、文字通り森のように木々が多く、生徒達の憩いの場になっている。
裏を返せば、生徒達にとっていいデートスポットになっているわけで、そんなところで密会していれば誰に目撃されてもおかしくないし、噂を広められても自業自得だわ。
しかも、山奥の村出身のレアナは故郷を懐かしみ、自然が多い森庭はイベントスチルや重要なイベントの有無に拘わらず日常的に訪れるポイントで、攻略対象と何気ない会話を楽しめる移動先の一つにもなっている。
もちろん
なので、私がその場に乗り込むことに躊躇いはない。
ミリエッタに先導されて、身体に負担が掛からない程度の早足で、現場へと向かう。
「エヴァノーラ様、あそこです!」
校舎裏の森庭に着いて遊歩道を歩き少し奥へと入った先、ベンチに座ったロズハルト様とレアナが楽しげに談笑していた。
二人の距離は近く、お互いを見つめ合うようにして座っている。
「こんな目に付く場所で、あんなに近く……噂になるのも当然ね」
ロズハルト様にしては迂闊すぎる。
もう少しご自身の立場を理解して周到な方だと思っていたのだけど、今は頭の中がピンク色に染まっていて、そこまで気が回っていないのかも知れないわね。
「それでどうなさいますか?」
「どうもこうも、私が遠慮する必要は欠片もないわ」
言って、堂々と遊歩道を歩き、二人に近づいていく。
ミリエッタが少し斜め後ろを慌てて付いてきた。
「ご機嫌よう、ロズハルト様」
微笑み声をかけると、会話の途中でロズハルト様が固まり、声と顔を引きつらせた。
レアナも振り向いて、声をかけたのが私だと分かると、条件反射のように身構えた。
二人が今どんな会話をしていたのか。
二人の関係がどこまで進展しているのか。
興味がないわけじゃないけど、今はそれを確認する必要はない。
重要なのは、速やかに現場を押さえることだから。
「い、いや、これは……違うんだ!」
ロズハルト様、それは愚にも付かない、あからさまに浮気男の言い訳ですよ。
圧をかけるように微笑むと、ロズハルト様はばつが悪そうに口ごもって視線を逸らしてしまう。
「また、あなたなんですか!?」
対して、レアナが険しい視線を私に向けてきた。
さあ、楽しい楽しい修羅場といきましょうか。
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