第85話 ミカレリアの街
追いかけていた馬車が見えてきた――
「あの、白崎······様。ちょっといいですか?」
馬車へ辿り着く前に、ハクトゥが翼へ話しかけた。
プリムが『奴隷』から解放されたのを聞き、ハクトゥは翼に謝らなければとずっと悩んでいたのだ。
「は、はい。どうしたんですか」
「今まで、酷い態度で申し訳なかった。あなたはプリム様を『奴隷』から解放したのに、俺がメイレーナ様にしたのは迷惑を掛けただけだ。俺なんかよりずっと立派だ······」
「ハクトゥさん······。僕も大したことはできてないですよ、他の人との関係とか、タイミングとか、運良く良い方向に進めただけで」
翼は正直、自分の手柄など『行動を起こしたこと』以外ないと思っていた。
それに、ハクトゥのように『奴隷』であったなら、また違う行動をとったとも思う。
「僕が立派になれるのは、きっとこれからです。この先、大切な人を守る闘いがあると聞いてます。その時は、ハクトゥさんとも協力していきたいと思っています」
「············白崎様は、器の大きな人だな」
「そんなことないですよ。あと、翼でいいですから、一緒に頑張りましょう。大事なのはこれから先、未来ですよ」
ハクトゥも「俺のことも呼び捨てで構わないから」と言って握手を交わす。
未来に向け、お互い頑張ろうと約束して――
『トゥーレイ王国』を出て『商業国家ミカレリア』へ到着するまでに掛かった日数は、12日間の長旅であった。
プリメリーナが単独で移動すれば、約半分の日数で移動できるのだが、無理をできない大人数での移動は、時間が掛かるのは仕方がない。
12日間の旅路。『青い果樹園』の元奴隷達は段々と飽きてしまっていたが、訓練に時間を費やす者達は充実した毎日を過ごせた。
特に翼は、2人から剣術の指導を受け、ハクトゥとも模擬戦をするなど、確実に力をつけることができた――
✩✫✩✫✩
『商業国家ミカレリア』へ到着すると、門を潜り街の中へと入っていく。
門のすぐ近くに馬車を預けると、此処からは徒歩で王宮へと向う。
「ここがミカレリア。お母さん、なんだか『トゥーレイ王国』と似てる感じがする」
「そうね、でもミカレリアの方が歴史は古いのよ。トゥーレイの王は、ミカレリアを参考にして国を創ったらしいわ」
『商業国家ミカレリア』が『トゥーレイ王国』に似てるのではなく、『トゥーレイ王国』が『商業国家ミカレリア』に似ている。
『トゥーレイ王国の王』御堂京之介は、2代目ミカレリア王に国の在り方を教わったこともあった。
その頃からミカレリアとの交流があり、今のミカレリア王はその孫、4代目にあたる。
「まずは王宮に向かいましょう。リスディックに協力してもらえば、色々と話が進むわ」
プリメリーナが居れば何処ヘ行くにも止められることはなく、大人数で門から入るのも顔パスであった。
それに街中を歩いていると、多くの人々がお辞儀や手を振り、プリメリーナ達を歓迎してくれる。
「お母さん有名人なんだね、王妃様だから?」
「リスディックが国民も参加できる大きな結婚式を挙げてくれたんだけど、自慢するみたいに皆さんに紹介したのよね」
『王』と『王』に繋がりがあっても、『商業国家ミカレリア』と『トゥーレイ王国』この二つの国に交流は殆ど無い。
御堂王が『商業国家ミカレリア』に訪れたのは何年も昔、『トゥーレイ王国』にはリスディック王が手配した使節団が偶に来るぐらい。
その理由は、御堂王が互いの国との交流を禁じていたから。独自の思想を植え付けるため、他国の思想は邪魔だったのだ。
そのお陰で、プリメリーナが罪人であったことなど国民までは知られず、美しい王妃の誕生を国民は受け入れたのであった。
――歩いていると大きな建物が見えてくる。
多くの人が出入りする様子を数人が見ていると、クマルがどのような場所なのか説明してくれた。
「ここは冒険者協会です。ミカレリアでは此方に登録して商売などを行います」
『商業国家ミカレリア』の特徴と言っても良いほど、重要な施設が冒険者協会だ。
クマルが言う商売とは、魔獣の素材を売り買いすることや、宿屋、食事処など金銭が発生する全てを指していた。
「魔獣に関する情報なども管理しているので、『トゥーレイ王国』で言うハンターのような仕事をするのであれば、登録する必要があります」
翼達には関係がないが、『商業国家ミカレリア』で暮らすことになる者が、自立して生活するには重要な情報だ。
それに、冒険者協会で魔獣を狩って生活する者達は、この国の最大戦力でもある。今後のことを考えれば、深く関わることが必要となってくる――
(魔獣との戦闘か······強くなるには何が正解かしら)
クマルの説明を聞いて、メイレーナが考え込む。母に訓練してもらうことが正解か、魔獣とはいえ、実戦経験を増やすことが正解かと。
他の者も、自立という現実を聞くと不安そうな顔をしていた。
「皆さん、心配しなくて大丈夫よ。住む場所は用意してもらっているし、勿論仕事はしてもらうけど生活だって保証するわ。メイも、どんな道を選んでも大丈夫だからね」
今も、皆の表情を見て気遣うプリメリーナ。ミカレリアを出る前にも色々と手配をし、受け入れる準備は整っている。
王宮での働き口は勿論、他に希望があれば叶えられるまで援助するつもりだ。
皆が安堵する様子を確認できると、プリメリーナは「近い内にミカレリアの街を案内するわ」と言って先頭で歩き出した。
――程なくして王宮へと到着すると、大人数での旅は本当に終了になる。
『青い果樹園』の元奴隷達は、クマルの案内で宿舎へ向う。残りの者達は、リスディック王の元へ向い、協力を仰ぐことになる。
「――おかえり、愛しのプリメリーナ」
「ただいま帰りました。リスディック、まずは皆を紹介するわね」
2人の娘を自慢げに紹介し、ヴァリアンやハクトゥ、『トゥーレイ王国』から任務を担った翼達を紹介する。
リスディック王は、翼達が来た理由やこれから行うこと、ある程度の事情をプリメリーナと御堂王から聞いている。
翼達から何かを聞くよりも、リスディック王は、最近得た情報を皆に伝えなければならなかった。
「君達が『魔物の国』へ向うんだね。御堂王からツェンクを紹介するよう聞いてはいるんだが、少し問題があってね······」
神獣の情報を持つ者、ツェンク・リャンエン。
この者から伝えられた帝国の情報、それとツェンクに降り掛かった悪意。
このあと翼達は、リスディック王から衝撃の事実を聞くことになる――
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