第83話 初めての長旅へ

 プリメリーナとメイレーナが邸宅へと帰ってくる。

 これで、出発するメンバーが全員揃うことになった――


「皆さん、お待たせしてごめんなさい。少ししたら出発しましょうか」


 帰ってきたプリメリーナの元へ、プリムを含め『奴隷』であった者達も駆け寄ってくる。


「「プリメリーナ様、お帰りなさい」」


 皆のプリメリーナに向ける視線は憧れ。『商業国家ミカレリア』の王妃であり『トゥーレイ王国』の『階級1』。肩書だけでも雲の上の存在なのだが、懐いているのには他の理由があった。

 『奴隷』に刻まれた紋様。その効果を説明した上で、プリメリーナは解除していった。

 その際、プリメリーナの人柄や凄さを身を以て感じてしまったのだ。


「お帰りなさい、お母さん。どこ行ってたの?」


「マグズさんに挨拶をね。そうだプリム、マグズさんが伝言を頼んだのにって嘆いてたわよ」


 プリムとプリメリーナも、この数日で距離を縮めていた。

 今まで過ごせなかった親子の時間と、魔法の師弟としての時間。プリメリーナは、どちらの時間も母に甘えられるように優しく接していた。


「あっ、そうだマグズさんに伝言頼まれてたんだ······」


「私のこともそうだし、色々あって大変だったと思うわ。それでも、人との約束は大事なことよ。次からは忘れないようにね」


「はぃ。ごめんなさい」


 優しい母親に、プリムは素直になれる。

 それと、今は奴隷紋の解除を見せて貰うだけであったが、今まで見たこともない繊細な作業や魔力の扱い方、魔法の師としての母親も尊敬できることは、2人の関係にとってプラスに働いていた。


 メイレーナが準備を終えたことを伝えると、いよいよ邸宅を出て門へ向う。

 全員揃って門から出られるよう、前もって手配はしてあった。


 ――堂々と表に出れない者は馬車に乗せ、『トゥーレイ王国』の街並みを、当分は見られないと眺めながら進んでいく。

 門が見えてくると、何人かが見送りに来てくれていた。


「兄さん来てくれたんだ。やっぱり可愛い妹と離れ離れは寂しい?」


「まぁ、寂しいというよりは心配の方が大きいけどな······」


 見送りに来たドーガへ、ビネットは軽口を叩く。真面目な返答に嬉しさもあるのだが······何となく気まずさの方が勝っていた。


「白崎様······。いやっ、翼っ。ビネットのことを頼む、また何かあったら救ってやってくれ」


「ちょっ、兄さん。今度は私が翼を救うんだから、変なこと言わないでよっ」


 一度生死の境を彷徨った妹を、心配する兄の本音。

 翼はドーガの想いを真剣に受け取ると、「必ずやり遂げて、皆で無事に帰ってきます」と返事をする。


(二人とも······本当に真面目よね。でも、旅立ちの日には丁度いいかな)


 一方プリメリーナの所には、タルケが見送りに来ていた。


「再会してからの数日。昔に戻った気がしてさ、僕は本当に楽しかったんだ」


「そうね。若いうちからこんな風に過ごせてたら······もっと楽しめたかもしれないわね」


 プリメリーナもタルケも、裏では自分の想いに従って行動していた。

 純粋に楽しむには歳を取りすぎている······それでも意味ある行動を共に関われたことは、良い思い出にできた。


「僕は、まだ遅くないって思うようにしたんだ。次は3人で、一つの目的を共有したいってね」


「共有はできても、次は重たすぎるから······。平和になった世界で、何か大きなことでもやってみましょう」


「平和になった世界か、そりゃ楽しみだ。尚更全力で取り組まなきゃならなくなったよ」


「楽しみは多い方が良いでしょ。お互い頑張りましょうね。それじゃ······また」


「あぁ、また」


 今度はヴァリアンも一緒に。それが2人に共通する想い、一度は諦めた願いでもあった。

 翼とプリムのお陰で、行動すれば変えることができると知った。直ぐに諦めることなどできないと知れたのは、2人にとっても大きな経験になっていた。


 別れの挨拶を終え門を潜ると、2つの人影が見える。この2人が最後の見送りのようだ。


「ん、来た」


 国の外で待っていたのは、ミスティアとルッコス。

 ヴァンスから事情を聞いたミスティアが、2人に言いたいことがあると言ってやって来たのであった。


「ミスティア様にルッコスさん。2人も見送りに来てくれたんですか?」


「プリム······プリム様って呼んだ方がいいか?」


 プリムが『奴隷』から解放されたことも、ヴァンスから聞いている。ルッコスは否定されることを分かった上で、言葉を掛けた。


「もう、ルッコスさん。私がそんなこと言わないの分かってますよね?」


 軽い冗談で和む雰囲気の中、ミスティアはどこか真剣な表情で固くなっている。

 少し大きめな咳払いをすると、自分が話すと主張した。


「遠くない未来、大きな戦があるって聞いた。翼とプリムは絶対強くなる。私とルッコスも同じ······だから」


 ミスティアは、いつもよりも多くの言葉を伝えている。次の言葉が、ここに来て伝えたい想いであった。


「次は、私とルッコスを頼れ」


 翼が最強の父ヴァンスに声を掛け、自分には何も言わなかったこと。それが思った以上に悔しく、ミスティアの闘志に火をつけていた。

 前以上に強さを求め、再会した時には、誇れる自分を見て貰いたいと。


「有難うございます。僕も、頼って貰えるように努力します」


 ミスティアは、言いたいことを言えて満足していた。

 4人が努力することを胸に刻むと、「行ってきます」と言って新たな旅が始まる――


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