第81話 各々の想い、未来を見据えて
招集に参加したプリメリーナは、集会の最後に、王から頼まれ事を幾つかされる。
頼まれ事の一つに、魔物の国との同盟を、成し遂げるための協力要請があった。
内容的には、その任務を背負った者を一度『商業国家ミカレリア』へ連れて行き、とある人物を紹介するというもの――
「本当は直ぐにでもミカレリアに行くつもりだったのだけど······人選が終わるまで、この国に居る必要ができてしまったの。ごめんなさい、落ち着かないでしょ?」
「そんなのプリちゃんが気にすることじゃないわよ。私のことは気にしないで」
一瞬遅れて、言葉の意味にプリメリーナは気が付いた。
そして、ヴァリアンの『プリちゃん』というワードに、プリメリーナは目を丸くする。
「ねぇ、ヴァリアン。出会った日からやり直そうとは言ったけど、プリちゃんは子供っぽくない?」
「そうかしら。私のことは、アンちゃんって呼んで貰おうと思ってるんだけど」
何もかもを忘れ、今を楽しんでいるような言動に聞こえる······だが、そんなことはない。
帝国の話を聞いたヴァリアンは、命を賭けて守ると誓っていた。友であるプリメリーナを、プリメリーナの家族を、そしてこの国を。
✩✫✩✫✩
お祝いをした日、ビネットは翼の家へと泊まってから自宅へと帰る。
その翌日に、また翼の家へと来ることになるとは思ってもみなかった。しかも今回は、尊敬する上司2人と一緒に。
「お邪魔するよ。どうだい、今の心境は?」
「タルケさん。そうですね······一歩前進できた、行動して良かったと心から思っています」
「それは良かった。僕のことは怒ってないのかい?」
「王様に伝えてたこと、びっくりはしました。でも······良い方向へ導いてくれたんだなと思ってます。僕の浅はかな考えを、問題にならないよう上手く纏めてくれて、怒るどころか感謝してますから」
「それを聞けて一安心だ。これからするお願いを、話しやすくなったよ」
タルケは、王が話していた帝国のこと、『魔物の国』や神獣ヤグマザルグことを翼とプリムへと伝える。
そして本題である、最も重要な任務に翼が指名されたことも。
「えっ、僕が同盟を実現させる使者······。なんで僕が選ばれたのか、理由はあるんですか?」
「王も予想でしかないと言ってたんだけどね。翼は過去に実在した一族、その末裔かもしれないって。それが神獣ヤグマザルグを動かす鍵になるらしい」
予想は王の経験から基づくものであったが、確信にまでは至らない。
だが、実際に魔物の国へと行く前に、可能性を上げる手段は残されていた。
「神獣に関しては、情報を持っている者がミカレリアに居るらしいんだ。まずはプリメリーナと共にミカレリアへ行き、その人物に話を聞く。そこから始めてほしい」
「··············わかりました。僕にできることがあるのなら、やれるだけのことはやってみます」
「私も全力でサポートします。翼様、一緒に頑張りましょうね」
翼は、王からの指名を快く了承する。
大切な人が住むこの国、自分を変えてくれたこの国の役に立ちたい――そう想って。
「そうだプリム、君は別行動になるかもしれないよ。プリメリーナが君には魔法の訓練をさせると言っていたからね、詳しくは本人に聞いてみてくれ」
「そうなんですか、お母さんが。翼様とは別行動······」
翼も少し動揺する。ずっと行動を共にしてきたプリムと別れるなど考えてはいなかった。
それでも、未来を見据えて考えれば、頼もしいことだと直ぐに考えを改める。
(プリムがプリメリーナさんから魔法を教わる。それって、凄い魔法をプリムが使えるようになるってことだよな······元々素質はあるプリムだ、負けられないぞ)
考え込む翼を見て、タルケは安心させるための材料を啓示する。
王に人選を任されたタルケは、鍵である翼が最善を尽くせるよう色々と考えていた。
「翼1人に任せるわけじゃない。ここに居るビネットと、僕の右腕であるリュースも同行させる」
リュース・ソグラント、王国監査官の副監査長を務める男。
監査官の中では、タルケに次ぐ実力者。頭脳面、戦闘面、共に秀でた優秀な人物であった。
「最初はヴァンスにお願いしたんだけどね、娘を鍛えるから無理だって断られちゃったんだ。戦闘に関してヴァンスには劣るけど、総合的には最高の人材だよ。なぁリュース」
先のことを考えれば、大切なものは人それぞれだ。ヴァンスは大事な一人娘、ミスティアを優先していた。
「自己紹介させて貰おう。名はリュース・ソグラント、一つを得意とはしないが、自分では何でもこなせると自負している。翼君、遠慮なく頼りにしてくれ」
「はいっ、白崎翼です。宜しくお願いします」
ビネットが「リュースさんは凄いからね、強いし頭も良いし」と、リュースの言葉を肯定する。
こうして、『トゥーレイ王国』から『魔物の国』へ向う使者が決定した。
今は何も躊躇することなく、新たな目標へと向う。それが『奴隷制度』を無くすことにも繋がるはずだと、前だけを向いて進むために。
✩✫✩✫✩
この時、王である御堂京之介は一つの後悔と向き合っていた。
帝国への対策を、もっと早く話すべきであったと。
(国民に平和な暮らしをさせたいと願うのは、過去の罪を償うための······私の贖罪だ。本来なら、平和を犠牲にすることになってでも、帝国へ抗う力を求めるべきだと、判ってはいた)
御堂京之介は1人の人間でありながら、重要な事案に関して、全てを1人で決定してきた。
そして平和と力、両方を求め、現状帝国へ抗う力が足らないと判断することになっている。
(皆に相談していたら変わったかもしれない)
招集した人間は、誰も帝国を恐れず対抗策を話し、勝利することを疑わない。その姿を見たからこそ、御堂京之介は後悔していた。
(勿論、まだ遅いなどとは思っていない。私も、君達のように――)
翼やプリムのように、目標へ向け全力で進みたい。1人では叶わない願いも、仲間と共になら必ず叶うと信じて。
『トゥーレイ王国』の王も、最善を尽くすと心に誓う。平和な未来を掴むために――
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