第80話 王からの招集

 プリムが『奴隷』という身分から、上流階級の『階級7』、翼と同じ身分へと変わることができた記念すべき日。

 王の話も終わり解散する頃には、騒ぎを知った者達が城の周辺に大勢集まっていた。


 第1騎士団が中心となり、『ただの演武』だと伝え、集まった人々へ解散するように言い回る。

 その集まった人々の中には、翼やプリムが知っている顔も混ざっていた。


「こら翼っ。こんな所に居るのは何っ、私に内緒で何をやってたのよ」


 翼とプリムが帰ろうとすると、ビネットとドーガが人混みの中から抜け出し駆け寄ってきた。


「あっ、ビネットさん······。えっと、とりあえず、ごめんなさいっ」


「まぁ全部吐いて貰うけど。その前に、プリムちゃんは誰をおぶってるのかな?」


 プリムの背中には、未だに目を覚まさないメイレーナの姿があった。

 ヴァンス、タルケ、プリメリーナは、王に残るように言われ、魔力切れで目を覚まさないメイレーナは、妹のプリムが送ることになったのだ。


「メ、メイレーナ様ですか······。いつの間に仲を深めたのやら。メイレーナ様が意識不明になる出来事って、本当に何をやらかしたのよっ」


 騒動も無事に終わった今、ビネットとドーガに隠す必要はなくなった。

 翼は謝罪の意味も込めて、一から説明していくことにする。

 そして説明の最後には、一番伝えたい嬉しい出来事をプリムの口から伝えさせた。


「なんとですね、私っ、上流階級の7になったんです。もう『奴隷』じゃないんです」


「おぉ、それは目出度い。それなら今日は、盛大にお祝いをしましょう」


 話を聞いたドーガが、お祝いをしようと最初に言ってくれた。

 出会った日から、本当にゆっくりと距離を縮めた関係であったが、今では大切な友だと言える。


 翼とプリムがメイレーナを家まで送る間、ビネットとドーガは買い出しに向かい、翼の家で再度集まることに決める。


 ビネット達と別れ、メイレーナの邸宅に近づくと、ディオンとハクトゥが心配のあまり外で待っているのであった。


「メイレーナ様。だ、誰がこんなことをっ」


 ハクトゥが怒りを顕にする。それをディオンが宥め、ことの成り行きを翼が説明した。


 追放されるメイレーナに、人を殺めたハクトゥは着いて行くことになる。ディオンも着いて行きたがっていたが、第7騎士団を任され、その願いは叶わない――


 メイレーナと別れ家へ帰ると、ビネットとドーガが買い物を終え2人を待っていた。

 豪華な食材と大量の酒。このお祝いの場は、笑い声が夜遅くまで響き、最高に楽しい時間を過ごすことになるのであった。


✩✫✩✫✩


 一方、王に残るように言われた者達は、明日招集を掛ける旨と、軽い質問を受け帰ることになった。

 プリメリーナにだけは、明日は国に残り、必ず招集には参加するよう釘を差す。


 ――そして翌日、全ての騎士団から団長と副団長、それと実力者ではヴァンスやタルケ、他にも能力の高い者が招集を受け城へやってくる。


 その少し前、王は自室で過去とこれからを照らし合わせ思案していた。


(私が帝国で担っていた役職。それと、神獣ヤグマザルグが言っていたこと······同じことを指していたのは、やはり意味があるのだろうな)

 

 遠い過去の記憶を呼び起こしていたのは、感傷に浸っていたわけではない。

 『トゥーレイ王国』がこれからやることに深く関係し、成功させるための鍵を握っていると、王が考えることだからだ。


(私の役職は『天地八族』の『地精』という肩書であったな。他の名称は――)


 『天地八族』とは、『ザッドォルグ帝国』で皇帝に次ぐ権力者の証。名称に八族と入っている通り、8人の強者が担っていた。

 それと『天地八族』には、八つそれぞれの名称がある。それは――『天精』『天獣』『天翼』『天角』『地精』『地獣』『地翼』『地角』。


(神獣ヤグマザルグは、力を貸してくれるだろうか······魔物の国と同盟を結ぶにも、神獣が鍵になるはずだ)


 神獣ヤグマザルグとは、三つの山を守護する存在。

 三つの山、その一つ一つに魔物の国が築かれているのだが、どの国も神獣ヤグマザルグを信仰していると王は認識していた。

 そして、魔物の国が人族を通さない理由は、神獣ヤグマザルグの意向だとも聞いたことがある。


(恐ろしい獣に見えたが、瞳の奥底には優しさがあったように感じた······嫌、あれは哀れみかもしれない)


 帝国から逃げ出しこの地に流れ着く前、御堂京之介は神獣ヤグマザルグと遭遇していた。

 人族を通さないはずの神獣ヤグマザルグが、なぜ御堂京之介を通したのか。


(あの時の会話、神獣ヤグマザルグの言葉は何であったか······よく思い出せ)


 神獣に遭遇し問われたのは、なぜ山を越えるのか。

 その時、御堂京之介は正直に逃げ出したことを神獣へと伝えた。他にも、異世界人であることや、帝国で犯した罪、更には心境も吐き出している。


(「『天地八族』の匂いが微かにする」「また惨劇は繰り返すのか」「ここには二度と来るな」こんな感じだったか)


 神獣ヤグマザルグの言葉は、昔を思い出して話していた節がある。

 それならば、『天地八族』とは過去に実在した一族なのかもしれない······御堂京之介が、その末裔である可能性も示唆していた。


(異世界から来た私が、この世界に実在した一族。そんなことはあり得るのか? もしも真実であるなら、彼も――)


 考えごとに集中していると、既に招集された者達は全員集まっていた。

 そのことに気が付くと、部屋から出て皆が集まっている一階の大部屋へと急いだ――


「この国を担う英傑達よ、今日は重要な話がある」


 王が座るように手で合図すると、団長や『階級1』の人間が席につく。副団長やその他の者達は、各代表の後ろへ立つ形だ。

 静まり返った場で王は、帝国について語り始めた。


 始まりは、帝国が勝利を治めるのが近いと、情報が入った所から話をする。続いて、自身が元帝国の将を務めていたこと、帝国が如何に強国であるか――

 そして、『ザッドォルグ帝国』と『トゥーレイ王国』の決定的な差についても厳しく伝える。


「我々が最も劣る部分は、やはり実戦経験の有無だ。個での戦闘ならまだしも、集団戦は厳しいであろう」


 同時に、集団戦を強化するため騎士団には指示を出す。本番に近い形で、騎士団vs騎士団で戦闘すること、それと勝利した騎士団は格を入れ替えることも付け足した。


「集団戦も重要だが、個の実力は戦況を覆す。第1騎士団がプリメリーナ1人に苦戦したのが一つの例だ」


 帝国の猛者と渡り合えるのは、『階級1』の5人だけだと話す。帝国には少なくとも8人は人外の猛者がいると予想し、個の実力でも劣っていることを示唆する。

 そして、国の中から『階級1』に近い実力者を見出すことにも、力を入れるよう指示を出した。


「これが最も重要になる。魔物の国との同盟、それと······神獣ヤグマザルグの力を借りる」


 『商業国家ミカレリア』とは、既に同盟関係であること。更に魔物の国と同盟を結び、神獣の力も借りる。

 これで――ようやく互角だと王は言う。


「同盟の使者を担う者、人選はタルケに任せる。私からは1人だけ指名させて貰おう」


「分かりました。王国監査官から、最も優秀な者を人選します。王が指名する者とは誰なのでしょうか?」


「私と同じ異世界人、白崎翼。彼が神獣を動かす鍵になるやもしれぬ」


 この後は、疑問がある者は質問し、意見がある者は案を上げる。まだ王ほど危機感を持ってはいなかったが、王が言った意味は理解し、『トゥーレイ王国』の民は力を尽くす。


✩✫✩✫✩


 ――夜遅くまで楽しんでいた翼は、珍しくのんびりとした時間を過ごしていた。

 まさか責任重大な任務に、白崎翼の名が上がっているとは知らずに。

 

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