第79話 騒動の結末

 この国の王、御堂京之介が城の入口から外へと出ていく。


 城の外では、ヴァンスとバグルオが激しい闘いを見せ、タルケがどうやって止めようか悩んでいた。

 意識を失ったメイレーナは、ミルティに抱えられている。そこへ、ヴァリアンと一時別れたプリメリーナが声を掛ける。


「娘は負けちゃったのかしら? ミルティさん、世話を掛けたわね」


「プリメリーナ······。あなたどこに居たのよ? 危険な娘を放っておいて、私の髪を斬った代償は高くつくわよ」


 『影』魔法で創った人形。その視界と同調し、ある程度は把握しているプリメリーナであったが、メイレーナとミルティの衝突は見れていなかった。

 丁度ヴァリアンとの会話に熱が入り、外まで意識できない程度には動揺していたのだ。


「ごめんなさい。この借りは必ず返すわ、何か要望があったら言ってくださいね」


 ミルティから娘を受け取り、プリメリーナの視線がヴァンスとバグルオに移った時――

 城の方から手を叩く音が聞こえてきた。


「皆、中々良い闘いぶりだった。本日の演武はここまでにしよう」


 王の声は、そこまで大きなわけではなかったが、それでも気が付かない者はいなかった。

 見た目だけではなく、雰囲気や纏うオーラのようなものが存在感を引き立てている。


 ヴァンスとバグルオも王の存在に気付き、この場に居る全員が王の元へ駆け寄ると、片膝をついた。


「本日の催しは、プリメリーナと白崎翼からの提案だ。プリメリーナへ贖罪の意味を込め、私が許可したこと。何も知らず巻き込まれた第1騎士団の諸君、許してやってくれ」


 王の言葉に、第1騎士団が大きな声で返事をする。

 翼とプリムは、その姿を見て我に返る。勝手に乗り込んで、意見を通そうとする行為が如何に危険なことだったかと。


「だが、我が国一番の騎士団よ、プリメリーナを相手にして学ぶことは多くあったはずだ。個で敵わないならばどうするべきか、仲間と話し合い、答えを必ず見つけ出せ」


 バグルオを除き、第1騎士団はプリメリーナ1人で抑え込めると立証された。それは、プリメリーナと同程度の強者にも可能であり、今後の戦にも影響する。

 今のうちに欠点を見つけ、改善する機会を与えるのが王の目的でもあった。


「それと幾つか、皆に通達することがある。まず一つ目は過去の事件、プリメリーナが起こしたとされた事件は冤罪であったこと。よって、プリメリーナには何ら罪はなく、『階級1』としてこの国の民だと認めるものとする」


 新たな『階級1』の誕生に、場がざわめく。

圧倒的な実力を見せつけられたばかりだ、第1騎士団から反対する声は上がらない。この場で反対する者は1人だけ。それは、プリメリーナ本人であった。


「私はこの国から逃げ出した身、有り難いお言葉ですが受けるわけには······」


 御堂京之介はプリメリーナの返事を聞くと、嫌らしい笑みで言葉を返す。


「『商業国家ミカレリア』の王妃よ。大丈夫、ミカレリア王には私から話しておく。それにだ、『階級1』を受ければ色々と見逃すことができるのだぞ」


「それは······。はぁ、分かりました。喜んでお受け致します」


 後ろめたいことをしてきたばかりのプリメリーナは、渋々ながら了承するしかなかった。

 だが、娘のプリムは何も知らず、嬉しそうに笑顔の花を咲かせている。


「次に、プリメリーナの子供達についてだ。まずプリム、『奴隷』として過ごさせた日々、申し訳なかった。今後は、上流階級の『階級7』として生活して欲しい」


「えっ、は、はいっ。ありがとうございます」


 プリムも翼も、『奴隷制度』は変えないと言われたばかりで、まさか『奴隷』から解放されるなど夢にも思っていなかった。

 全ての願いが叶うわけではないが、それでも嬉しさがこみ上げてくる。


(プリムが『奴隷』じゃなくなるんだ。良かった、あぁ······行動を起こして、本当に良かった)


 拳を握りしめ、喜びを噛みしめる翼。隣に居るプリムも、嬉しさのあまり興奮を抑えきれないでいた。


「翼様っ、『階級7』っておんなじですよ。どうしましょう、生活って、どうしましょう」


「うん、やったね。『階級7』なら同じ区画だし、近くに住めるんじゃないかな」


 喜びを分かち合う間も、王の話は終わっていない。次は意識のないメイレーナのこと、計画通りなら追放の話がでる。


「2人共良い笑顔だが、私の話は終わっていないのでな、悪いが喜ぶのは後にしてくれるか。最後にメイレーナ・ティディス」


 意識のない姿を見て、追放を言い渡すか少し迷う。

 だが、当の本人は追放されることを知っているので、この場に居る者に聞かせられれば問題ないと話し始めた。


「奴隷商襲撃の主犯、大罪である。だが、プリメリーナの冤罪から始まった遺恨、こちらにも落ち度があることは認めよう。よって、役職と階級の剥奪。そして、この国からの追放を言い渡す」


 ――騒動の結末は、リスディック・ミカレリアと御堂京之介、2人の王が交わした密約、メイレーナを追放することを公表して幕を閉じた。

 

 翼とプリム、2人が考え動いた今回の騒動。

 蓋を開ければ、大人達に上手く利用されてしまったのが事実だ。それでも幸いなのは、利用したのが悪い大人ではなかったこと。


 全て良い方向へ導き、犠牲者など出さず上手く纏まった。

 何より、翼とプリムが笑顔で帰ることができたのだから何も問題はない。

 

 だが、問題がないのはこの騒動に関してであり、翼とプリムが聞かされたこと『帝国が勝利を治める時が近い』という内容に関しては、大いに問題であった。


 翌日、王は全ての騎士団長及び、この国の実力者に招集を掛けるつもりだ。

 国を上げて立ち向かう、帝国から国民を守るために――


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