第77話 力を求める理由

「まずは私の名からか······。私は、御堂京之介。地球という星から来た人間だ」


 翼と同郷と言っていた王の名は、御堂京之介。

 名前からして、国も翼と同じ日本だと思われた。


「私がこの世界に来たのは、魔物の国を跨いだ山の先。そこは、争いが絶えない戦地だったのだよ」


 翼は、以前『トゥーレイ特階級高等学校』で教わった内容を思い出す。それは、三つの山を越えた先に、帝国と四つの王国があり、何年、何十年、何百年と争い続けている。そうサティアが言っていたことを。


「私が降り立った土地は、『ザッドォルグ帝国』の領地。異世界人だった私を、帝国は快く受け入れてくれた」


 『ザッドォルグ帝国』での生活は、力の使い方や、異世界の知識を学ぶことから始まる。

 翼と同じような環境に思えるが、言葉では伝わらない狂気がそこにはあった。


 京之介は、高い適性値と強力な特殊能力で実力をどんどんと伸ばしていく。

 数年たち、理由もわからず闘った相手を倒すと『天地八族』という地位を与えられた。それは最強の一角であり、軍を率いる将を任される役職でもあった。


「私は将を任されてから、深く考えることもなく闘った。戦とはそういうもの、殺らなければ殺られるとね······」


 戦は終わる気配が無いまま続き、数年の時が経過する。


「ある日ふと考えたのだ、なぜ争っているのかとね。そして、皇帝へ質問した」


 深く考えていないとは言ったが、そんなものは最初だけ。強敵との死闘ならともかく、作戦には辺境の村を滅ぼすことも含まれる。

 深く考えていないではなく、深く考えないように闘うしか、心を保つ術はなくなっていた。そんな折に、皇帝へ質問する機会が訪れたのだ。


「皇帝の言葉は、『帝国が頂点であるために、全ての種族を皆殺しにする』であった。私はこの世界が初めて恐ろしいと実感した······」


 それから少しして、帝国から逃げ出すことを選択する。

 罪を抱えていても、人間らしく生活するために――


「この地に流れ着いてからは、悪くない生活を送らせて貰ったよ。だが、私を慕ってくれる者が増える度に、恐怖が大きくなる」


 いつか必ずやってくる、皇帝がこの地に住まう種族を皆殺しにするために。

 恐怖からくる幻想というより、皇帝の力を知れば誰もが確信するそれは、絶望に近い。


「四つの国を一斉に相手にする帝国だ、生半可な力では対抗できない。悩んだ結果、平和と力の両方を私は求めた」


 平和という秩序を保つための『奴隷制度』。それと、帝国からの侵略に抗う力をつけるための『階級制度』と騎士団。

 王が真に求めるもの、これが民の幸せを守るための形であった。


「丁度いい。この国の最強が闘う所だ、2人も観て実感すると良い」


 映像には、『最強の魔獣ハンター』ヴァンス・ウィルネクトと、『第1騎士団団長』バグルオ・ディッセンドの闘いが映し出されていた。

 現在2人の闘いは、段々と熱を帯び始める様相を見せて――


✩✫✩✫✩


「バグルオ、向こうは派手にやってるみてぇだな。俺達も、もう少しギア上げてくかぁ?」


「ふんっ。何のために来たのかしらないが、後悔してもしらんぞっ」


 軽い体術で手合わせしていた2人だったが、爆発音と水蒸気を見ると血が騒ぎだす。

 お互いどちらが上なのかと興味があった2人だ、様子見で終わるなど勿体ないことはできない。


「後悔するのはどっちだろうな。本格的に能力を使ってくからよ、そっちも油断してたなんて言うんじゃねぇぞ」


 ヴァンスが『魔力操術』で魔力を纏う。

 以前、翼やミスティア達と闘った時とは質が違う、厚みも鋭さも格段に上がった魔力を纏い攻撃を仕掛けた。


 ヴァンスの一撃を受けたバグルオの腕は、人の形を成していない。

 バグルオの特殊能力は『龍化』。身体変化の最上位と言われる力だ。


「ヴァンス。そんなんじゃ、傷一つつかねぇぞ」


 防御した左腕のみ『龍化』していたバグルオだが、右腕も『龍化』して殴り掛かる。

 元々大柄なバグルオであったが、『龍化』したその部分は何倍も大きく、力も上がっていた。そんな拳が振り下ろされ、ヴァンスには躱されたが地面には大きな傷跡が残った。


「本気になってきたじゃねぇか。それなら、俺はもう一段上げてくぜっ」


 2人の距離が、常に拳が届く位置で殴り合う。

 桁違いの威力を見せたバグルオに対して、ヴァンスは敢えて接近戦で闘うことを選んでいた。勿論ヴァンスにとっても得意な距離であり、本気で勝つための力を使う。


「クソがっ」


 一方的に、ヴァンスの拳がバグルオを捉えていく。

 この展開は、速さが上回っているだけではない。バグルオが動く瞬間、阻害する位置に魔力の塊を創り出し、防御も攻撃も自由にさせていないからであった。


「バグルオっ、こんなもんかっ?」


 十数発。勢いが乗った拳が当たり、強靭な肉体があろうとダメージが響いてくる。

 そして――そんな状況が引き金になる。魔力の塊では止められない勢いで、バグルオが動き出した。


「ごうがい、するなよ」


 『龍化』の真髄。

 両腕のみ『龍化』していたバグルオが、遂に全身を『龍化』させた。


 全長10メートルはあろう巨体、一度距離が離れた本物の龍が口を開ける。

 ――とてつもない業火が放たれた。


✩✫✩✫✩


「ヴ、ヴァンスさんっ」


 映像には、龍が放つ業火しか映されていない。

 翼とプリムが心配する中、数秒後。魔力を纏い生還するヴァンスの姿は、嬉しそうに笑っていた。


「そろそろ止めないといけないか、城まで破壊されそうだな」


 御堂京之介が呟き、最強の闘いを見せた理由を話し出す。


「バグルオもヴァンスも強いだろう? 今の君達ではあっという間に倒されてしまうほどに。だが帝国には、こんな猛者がごろごろ居るんだ」


 今の帝国は知らないがと言いながらも、強者が居ることは揺るがないと確信している。

 そして、ここまでやってきた翼とプリムの想いへ、『王』は答えを出した。


「『奴隷制度』は変えない。悪いが、今はやることが他にある。帝国が勝利を治める時が近い、そんな情報が入っている――」


 トゥーレイ王国の王、御堂京之介が立ち上がり、外へ向うと言い部屋を出る。王が騒ぎを止めれば、そこで今回の騒動は終演になるだろう。


 外へと向う途中、翼とプリムには「少しは良い話もあるから気を落とすな」と声を掛け、階段を降りていく。

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