第73話 揃う面子
プリムの強い想いを感じたメイレーナ。揺れていた気持ちとは違う――真逆の感情が刺激され、聞いた話を冷静に考える時間となる。
(王に会うため、国のトップ達を動かすだなんて······笑っちゃう規模の作戦かもね。でもそれって、凄く面白そう)
真逆の感情とは。
目標を諦める、諦めなければならない。そんな感情から、目標に向うための、新たな道が開かれた。もしくは、暗い道から明るい道に連れ出されたような感覚――。
「なんかさ、私がやってきたことって何だったんだろうね······。プリムの作戦が上手くいけば、それは皆で幸せになれるってことだもんね」
もしもメイレーナが全ての『奴隷』を解放したとしても、その先は······争い続ける未来しか想像ができない。
プリムの話には希望がある。自分が起こしたこととは雲泥の差、もう笑って認めるしか残されていなかった。
「ちょっと悔しいけど、協力しようかな」
――姉妹の気持ちが通じると、プリメリーナがその先の話、メイレーナを追放させる計画も打ち明けた。
それにはディオンも、声を出して驚く。
「母様それって――。私に選択の余地はなかったんじゃない」
「そんなことないわ。国を変えるかもしれない場所に、メイは参加することを選んだじゃない」
「それはそうだけど······」
プリメリーナも翼の作戦は初めて聞いた。作戦に参加するメンバーに、タルケまで居ることには驚いていたが、表情には出さなかった。
「翼くん。メイの気持ちを変えてくれたこと、本当に有難う。私もその作戦、全力で力を振るわせて貰うわね」
本題は上手く纏まり、一度作戦に参加する全員で集まろうと話は進む。
翼がヴァンスとタルケに予定を聞いてくることと、この場所で集合することが決まると、メイレーナの邸宅を出ていくことになった。
帰ろうとする翼の後ろ姿に、ディオンが声を掛けた。
「君は見違えたな。俺のことは覚えてないか?」
ディオンから声を掛けられ、翼はこの世界に来た所から思い返す。すると、格好いい騎士様に、意味ありげな質問、それと『自分を見失わないようにな』という言葉を貰った記憶を思い出した。
「あっ、僕がこの世界に来た時、声を掛けてくれた方。あの時の騎士様ですか?」
「おう、そうだ。あの時は期待できる人物だとは思わなかったよ。それなのに······俺の期待を叶えてくれた。有難うな」
ディオンが異世界人に会いに行った理由は、メイレーナのためであった。
『奴隷』を解放することばかり考え、悪い方向へ進むメイレーナ。そのメイレーナの考えを変えるには、この国とは違う考えを持った人物が必要だと考えたのだ。
異世界人は能力が高いと聞き、メイレーナと釣り合えば婚約者候補にと。そこまで考えて、ディオンは翼に会いに行ったのであった。
「僕は全然。メイレーナさんを変えたのはプリムですから。僕は、自分とプリムのために動いているだけなので」
「そうだとしてもね、君との出会いがなければ、何も変えられなかったと俺は思うよ」
(簡単な質問で人を測った気になるなんて、俺は浅はかな人間だな······。彼が運命の人だったとしたら、俺の罪は重いかもしれない)
✩✫✩✫✩
この日の時間はまだ昼だということもあり、邸宅を出ていった足でヴァンスの屋敷へ向う。
ヴァンスへ集まりたいと話をすると、連絡用の魔道具でヴァンスからタルケにも伝わる。
話はとんとん拍子で進み、翌日にメイレーナの邸宅で集まることが決まったのであった。
✩✫✩✫✩
集合時間は昼時。一番乗りはタルケ・ハンクラインであった。
「こんな形で再会できるとはね、元気そうで何よりだプリメリーナ」
「タルケも元気そうで良かったわ。最後に見たあなたは、とても悲しそうな顔をしてたものね」
「それは······旧友を捕らえなきゃならない僕の気持ちも、少しは考えてくれていいんだよ」
晴れやかな顔から、2人共に影が落ちる。
旧友――ヴァリアン・ミリーノ。2人は彼女のことを想っていた。
「ヴァリアンは城の地下牢かしら?」
「あぁ、王の審判を待ってる状態だよ」
タルケの言葉を聞くと、プリメリーナは優しく微笑む。小さな声で、「全て良い方向に向かわせるわ」と呟いた。
「何か言った?」
「ううん、何も――」
全員集まると、時間が昼時なこともあり豪華な料理が振る舞われる。
『階級1』の人間をもてなすのに相応しい料理を堪能しながら、本日集まった理由、作戦会議が開かれた。
「翼くん、進行お願いね」
プリメリーナに進行するよう言われた翼は、「わ、わかりました」と、声を震わせて話し始める。
「ぼ、僕達の呼びかけに協力してくださり、あ、有難うございます。今日は、皆さんの意見を元に、細かい作戦なども共有したいと思っています」
「かたっ苦しい挨拶だな。真面目な翼らしいが、もっと気楽にいこうぜ」
ここに居る人間で気楽なのは、言葉を発したヴァンスぐらいだ。
これから行うことの重大さ、目標達成への想い、今後の展望、各々が気楽になどなれない理由を抱えている。
それでも、気負いすぎていては雰囲気も悪くなってしまう――ヴァンスの気楽さは有り難かった。
「そうだね。せっかく豪華な料理を用意してもらったんだ、楽しみながら話をしようか」
タルケもこの場では気を使う。
翼に協力した理由には、プリメリーナの存在が少なからず影響していた。旧友との関係を修復するのに、楽しい雰囲気は欠かせない。
(ヴァンス・ウィルネクトにタルケ・ハンクライン······。緊張しない方がおかしいのよ)
この場で一番気後れしているのは、メイレーナであった。
妹のプリムが、ヴァンスと親しげに会話しているのを見て不思議に思う。『奴隷』として生きてきたのに、なぜ『階級1』を持つ人間と普通に接することができるのかと。
「俺も考えたんだがよ。俺達の相手は、やっぱり第1騎士団しかあり得ねぇだろ」
「その辺は僕も同意見だ、第1騎士団が城の警護に就いてる日が狙い目かな。それとミルティも来るよう、誘導してもいいかもね」
「そ、それって······『階級1』が全員揃うってことじゃ」
メイレーナが驚くのは当たり前だ。ミルティ・ビヌカネットとは、『階級1』を持ち、第2騎士団の団長を務める女性だ。
翼とプリムが初めてヴァンスの屋敷へ向う時に、偶々道を訪ねた人物でもあった。
「バグルオの相手は俺で、ミルティの相手はタルケか?」
「まぁ、それが妥当じゃないかな」
「それなら、私は第1騎士団を抑え込めば良いかしら?」
「えっ? それだと私の相手は······」
「メイレーナ嬢、そんな心配は無用だよ。第1騎士団はこの国一番の猛者揃いだ、プリメリーナ1人じゃ手に負えない輩が必ず居るさ」
ヴァンスが闘う相手に選んだのは、バグルオ・ディッセンド。『階級1』であり第1騎士団の団長、それはこの国最強と言っても過言ではない相手。
その最強が率いる騎士団も、強き者が揃っている。下位の騎士団なら団長を務めることが可能なほどに。
「外での戦闘はだいたい決まったな。だかこれだと翼とプリムの2人だけで城の中に行くことになるぞ、大丈夫か?」
「城の中へ入れれば大丈夫だよ。後は僕達で誰も城へ入れさせなければ、王に会える」
タルケの話では、イベント事などがなければ、基本城の中には王しかいないとのことだ。それと、王が居るのは最上階。そこまでの最短ルートも教えてくれた。
「タルケさん、情報助かります。プリム、これならっ――」
「はいっ翼様、どんどん実現に近づいてきましたね」
大雑把かもしれないが、皆の役目は決まった。
後は、第1騎士団が警護に当たる日を調べれば、その日が作戦決行の大舞台だ。
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