第70話 必要な人材

 昨晩、夕食を食べた後、今後の行動についてプリムには話をした。

 それと行動以外にもう一つ、協力者は限定せざる負えないこと。今まで協力して貰ったビネットやドーガ、信頼できる2人は巻き込まない方針だと翼は話す。

 プリムの反応は、最初こそ驚き不安そうな顔をしていたが、翼の決意を感じると「やりましょう、私も覚悟を決めます」と、力強い返事を聞くことができたのだった。


 ――今向かっている場所は、ヴァンス・ウィルネクトの屋敷。

 計画を思いついた翌日に、翼は直ぐ様行動に移したのであった。


「ヴァンスさん居ますかね?」


「どうだろう。ヴァンスさんに話をしないと始まらないからさ、居て欲しいんだけどね」


 屋敷に到着すると、使用人のグウォン・マストラルが庭掃除をしているのが見える。

 グウォンには、なぜか危険を感じる翼であったが、他に人は見当たらず声を掛けざる負えなかった。


「グウォンさん、おはようございます」


「おっ、翼殿ではございませんか。ミスティア様に会いに来られたか······今は留守なのですが、お茶を出しますので上がってくだされ」


 言葉とは裏腹に、翼を捕まえて質問攻めにしたい。そんな瞳で近づいてくるグウォン······。


「い、いえ、今日はヴァンスさんに用事があるんでが、いらっしゃいますか?」


「ヴァンス様に用事······もしや、大事なお話ですかな?」


「えっと、大事な話しがあるんですが、グウォンさんが考えてるような話しではないと思いますよ」


 ヴァンスに用事があると聞いたグウォンは、翼とプリムを屋敷へあげてくれた。

 そして、自室で過ごしているヴァンスの元へと案内してくれる。


「ヴァンス様、お客様ですぞ」


 ヴァンスの「おう、入れっ」との声を聞きドアを開けると、本を読みながらくつろいでいる

姿が目に入る。

 本を読むイメージがなかった翼は、少し驚きながら挨拶をした。


「急にお邪魔しちゃってすいません。あの、力を貸して欲しいことがあるんですが、話を聞いて貰えませんか?」


「ん? 構わねぇが、何だか深刻そうだな」


「はい。もしかしたら大事件になるかもしれないことなんですが······僕は本気で実現しようと考えてるんです」


「お、おう。とりあえず内容を話してみろよ」


 話を聞く前から、翼の熱意はヴァンスに伝わった。

 翼は、プリメリーナに会ったことから話し、メイレーナのことも隠さずに伝える。そして、どんな行動を起こすかも聞いて貰った。

 後は、危険な賭けに乗る理由もないヴァンスが、翼に協力するかどうかだ。

 

「――まじで大事件じゃねぇか。因みに、ティアにこの話しはしてねぇよな?」


「してません。ミスティアさんを巻き込むつもりはないですから」


 ヴァンスは少し考える。借りを返すとは言ったものの、自ら危険に飛び込むことに協力するのは違う気がした。

 それでも、翼が話した内容には、興味を惹くことも含まれる。


(プリメリーナが敵じゃない。これは良いことを聞いたな、俺自身のためにも協力するのは有りかもしれねぇ)


 プリメリーナをタルケと二人がかりで捕まえ、しかも冤罪であったことが、ヴァンスの中で消化できずに残っていた。

 今回プリメリーナに手を貸せば、それを消化できるかもしれない。


「よっしゃ、手貸してやるよ。プリメリーナと一緒に暴れるのも面白そうだしな」


「あ、有難うございます。それと······もし罪に問われときですが」


「ちょっと待て、自分が背負うとか言うんだろ? 悪い結果は考えたくねぇが、そん時は一緒に謝ってやるから心配すんなっ」


「えっ、あっ······はい」


 謝って済むかはさて置き、やっぱりヴァンスは格好いい大人だと、翼は憧れる。

 こんなにあっさりいくとは思わなかったが、一人目の必要な人材、ヴァンスの協力を取り付けることに成功した――


「それでは、近い内にまた伺いますので。えっと、ヴァンスさんはこの屋敷に居られます?」


「あぁ、当面はゆっくりしてる予定だ。ずっと忙しくて、読みてぇ本が溜まってたからよ。これからお前らはどこに行くんだ?」

 

「次はタルケさんに声を掛ける予定なので、監査官の建物に行こうかと思っています」


「なっ······正気かよ。俺も着いて行こうか?」


「いや、大丈夫です。タルケさんなら、協力してくれると信じてますから」


 翼とプリムが出ていくのを見送ると、ヴァンスは聞いた話をもう一度考えて、疑問に感じる。


(王への忠誠を逆手にとってって感じかぁ? 俺にはできねぇ賭けだな、異世界人は変わってやがる)


✩✫✩✫✩


「ふぅ、ヴァンスさんが協力してくれて一歩前進だね。全然話さなかったけど、プリムは言いたいこととかなかった?」


「翼様が熱く語ってましたので、邪魔しないほうが良いかなって······。でも、タルケさんは大丈夫ですかね?」


「王様のことを思うなら、きっとタルケさんも力を貸してくれるよ。まぁそう思っても、やっぱり恐いんだけどね」


 タルケとは特別親交があるわけでもなく、ビネットも巻き込みたくないという理由で頼れない。

 翼は、怖気づきそうな心に活を入れる。熱い気持ちを伝えなければ、人を動かすことなどできないのだ。


 そして、翼とプリムの視界に、王国監査官の建屋が見えてきた――


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