第69話 翼の決意
翼は、この世界に来て直ぐにプリムに出会っている。その時から、プリムを『奴隷』から解放する方法を考え続けてきた。
王の呪いだと思っていたものが、実は優しさなのだと聞くと、考え続けてきた方法の一つに希望を見出すことができる。
「プリメリーナさんの話を聞いて、王様にお願いする価値はあると余計に思いました。うまく説明できるか分かりませんが······僕の考えを聞いてください」
考えの一つは、王が『奴隷』という制度を創ったことに、本当は後悔しているというもの。
「『奴隷』を守るルールに、自分がリスクを負ってまで刻む紋様。王様が、『奴隷』も国民だと思ってる証拠じゃないですか······。やっぱり、今この国に『奴隷』は必要ないんです」
王様がそう考えていても、簡単に変える決断はできない。
今まで『奴隷』として扱われた人々。これから先、罪を犯した者への罰。この国が発展した歴史。変える決断ができない理由はたくさんある。
「僕の知らない理由が、もっとたくさんあるんだと思います。それでも、王様はきっと後悔してるんです······」
ここまで話すと、翼は一呼吸置く。
続けて話すもう一つの考え、それはメイレーナが起こした事件についてであった。
「言葉は間違ってるかもしれませんが、メイレーナさんが起こした事件は······チャンスになると思うんです」
チャンスとは、『奴隷制度』が原因で事件が起きたこと。
これまでこの制度がうまく機能していたのなら、反対意見が通る可能性は低くなる。だが、『奴隷』のために犯罪が起きるのであれば、少なくとも王が考え直すきっかけにはなるはずだ。
(チャンスね······確かにそうかもしれないけど、具体的な案はあるのかしら)
「チャンスと言っても、メイレーナさんが起こした事件だけじゃ足りない気はします······王様が『奴隷制度』を見直したいって、心から思えるようなことを――」
翼は自分の言葉に疑問を持つと、話が途切れてしまった。
仮に今、王様へ『奴隷制度』を変えて欲しいと願い出ても、了承して貰えるイメージが湧かない。
「翼くんが言いたいことは分かったわ、私も何となく可能性が見えてきた気がする······。王の心を動かせるような案が浮かんだらまた教えてくれるかしら。それと、まだメイレーナのことで伝えることがあるの――」
プリメリーナは、リスディック・ミカレリアと話し合った内容を2人に伝えた。最終的に、犠牲者を出してしまったメイレーナを国外追放に持っていくこと。
翼に期待しているのは、メイレーナが納得する言葉か、あるいは行動だ。
「プリム、そんな顔しなくても大丈夫よ。国外追放になっても、『ミカレリア』で私と暮らすから安心して」
「はい······そうですよね、お母さんと暮らすなら大丈夫ですよね」
✩✫✩✫✩
この後プリメリーナは、暗くなってからメイレーナの屋敷へと向うのだと言う。
翼に良い案が浮かんだら、メイレーナの屋敷へ尋ねる約束をして今日は別れることにした。
――帰り道、プリムは大分疲れた顔をして歩いていた。
母に会えたことは勿論嬉しく、もっと一緒に居たいとも思う。だが、母の話しは衝撃が大きく、違う国の王様と結婚していたことや、メイレーナのこと、精神的に疲弊しない方がおかしい話が続いたからだ。
又近い内に会う約束して、プリムは翼と暮らす家へと帰ることを選択した。
「大丈夫?」
「大丈夫です。話の内容が凄すぎて、頭がぼ〜っとするだけなので······。お母さんは素敵な人でしたから、心は元気いっぱいですよ」
「それは良かった。今日は家に帰って、色々考えたい。それでいいかな?」
「はいっ。一緒に考えましょう」
この時翼は、「お母さんの所に残らなくて良かったの?」と声を掛けるか迷い、言うのをやめていた。
なぜ迷ったのか――プリムがどんな選択をしても応援するつもりだし、家族と暮らせるなら暮らした方が良いとも思うのに。
(プリムと離れることを考えたことなかったからかな。ずっと一緒に居たから、寂しく思うのは当たり前······だよね)
自分でもはっきりとしない感情、今はその感情に向き合う勇気は持ち合わせていなかった。
それよりも、考えることは別にある。そう意識を切り替え自宅へ到着すると、1人で考える時間を貰うことにするのであった。
(ふぅ。まずは、プリメリーナさんに聞いた情報を一度整理しよう)
一つ、メイレーナが母の言葉も聞かないこと。
二つ、最終的にメイレーナを国外追放にする計画があること。
三つ、王様が『奴隷』に刻む紋様が、痛みを和らげるものであったこと。
四つ、王様の目的が強い国を創ること。
(こんなものかな。後は、やりたいことだけど)
メイレーナを止める。これが一番重要な目的、やりたいことというより、やらなければならないことだ。
(『奴隷』を解放できれば、メイレーナさんを止めることはてきるよな······やっぱり、王様にお願いを聞いて貰う方法を見つけないと)
翼は、強い国を創るという所に注目する。強い国とはどんな国なのか――勿論個人の強さは関係しているが、組織として機能させるには、優秀な指揮官が居て纏まりのあることだと翼は考えた。
(奴隷制度を変えたい。そう思う人がたくさん居て、国を二つに分けるほどの争いが起きるとか······だ、駄目だ。大きな争いなんて、犠牲者が必ずでる)
『国を二つに分ける』この考えと、階級制度が頭に浮かぶ。この国で、最も実力があるのは『階級1』の人間。その人間が二つに別れて争ったら······。
(ヴァンスさん······)
以前ヴァンスに言われた、「本当に困ったら頼ってこい」この言葉を思い出した。
(今頼ってもいいのかな······こんな、大きな事件に巻き込むことに)
翼に、王様の考えを変える案が浮かんでくる。
だがそれは、とても危険な賭けであると同時に、他人を巻き添えにしてしまう。
行動を起こすべきか、外が暗くなるまで悩み、思いついた案を考えては、自問自答を繰り返した。
(中途半端じゃ、余計に悪い結果が待ってるかもしれないな······全力で取り組もう。それでも悪い結果になってしまったら、僕が『奴隷』になってでも責任をとる)
翼は自分の全てを賭け、思いついた案を実行しようと決意した。
大切な人のため、自分ができる最善を尽くす。良い結末がくることを信じて――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます