第66話 『手紙』

 手紙を手に握り締め、固まっているプリムを見たクマルは、安心させようと優しく話し掛ける。


「プリメリーナ様は優しい方です。子供達全員の幸せを願っていますから、安心して手紙を読んでください。また近い内に私から顔を出しますので、その時まで色々考えてください」


「あっ、あの······手紙、ありがとうございます。えっと、お母さんにも、ありがとうって伝えてください」


 クマルは、プリムの言葉を聞いて微笑むと、「必ず伝えます」と言って去っていく。

 クマルが去り、プリムの視線は手紙に釘付けだ。


「プリム。直ぐに読みたいんだったらさ、どこかで休んで行こうか?」


「いや、お家でゆっくり読みたいです。ご飯の準備は手紙を読んでからでいいですか?」


「それなら、今日の夕飯は僕が作るよ。色々考える時間も必要だと思うし、僕のことは気にせず、ゆっくり手紙を読んでいいからね」


 翼とプリムは、自然と帰りの道のりが早足なっていた。

 家へと到着すると、「読んできます」と翼に言って、プリムは自分の部屋へと入っていく。


(凄く緊張します······お母さん、どんな手紙をくれたのかな)


 プリムは覚悟を決め、母からの手紙に目を通した――



 初めましてプリム。私の名前はプルメリーナ・サスティヴァ、あなたの母親です。

 何から話そうかとても悩みましたが、私の罪とあなたへの想いを語らせてください。


 私の罪は、囚われの身になった後、私の我儘で子を産む選択をしたことです。

 私を含めた黒の一族は、子に恵まれなかったことから存続の危機に直面していました。当時の私は、どんなに嫌な思いをしてでも子を成すことが、一族への恩返しだと本気で思っていたのです。


 プリム、あなたには3人の血の繋がった兄妹が居ます。1人は奴隷の道から離れることができましたが、プリムと2人の子供には、奴隷として生きることを強要させてしまいました。


 私自身も子供が欲しいとは思っていましたが、子孫を残すため、子供の歩む道を考えずに産むことは大きな罪だと産んでから気が付きました。

 情けないのですが、私は産む前に気付けてあげられなかった。だから、誕生日を祝うことも、辛い時に抱きしめてあげることもしてあげられなかった。本当にごめんなさい。


 こんな母親でも、あなたを愛してる気持ちに嘘はありません。囚われの身から助け出され、少し落ち着いて考えたことがあります。

 私は、子供達のために何をしてあげられるかと考え、答えは直ぐにでました。


 何でもしてあげたい。奴隷から助け出したい。この国と本気で争ってでも守ってあげたい。

 でも本当にしてあげたいのは、抱きしめてあげること。


 プリム、今あなたが、奇跡的に良い人とめぐり逢い、充実した毎日を過ごしている。そう聞いて私はほっとしています。

 それでも一度会いたい、会って抱きしめたい。


 手紙を渡した日から3日後に、もう一度クマルに会いに行って貰います。

 プリム、あなたが私に会う決心がついていたら、その時はクマルに着いて来てください。


 それと、一緒に居る異世界人の人、白崎翼くん。彼も連れて来てくれると嬉しいかな。

 プリムが私にどんな人として紹介してくれるのか、奴隷の主人として、それとも友達、もしかして好きな人。なんて言ってくるのか、凄く楽しみにしています。


               母より



(お、お母さん。翼様を好きな人って、な、何言って············でも、愛してるって書いてあった。私のお母さん)


 それほど長い手紙ではなかったが、謝罪と子供への愛は伝わっていた。

 プリムは何度も手紙を読み直して、手紙の送り主が、本当に自分の母であることを実感させていく――


(やっぱり会いたい。会って、本当に私のお母さんなんだって、私にはお母さんが居るんだって、ちゃんと実感したい)


 決心がついたプリムは、リビングで待つ翼の元へ、階段を駆け足で降りていく。

 そして翼の顔を見て直ぐに、「お母さんに会いたいです、翼様も一緒にお願いします」と言葉がでる。

 叫びに近い声量は、プリムの熱くなった感情を、十分に翼に伝えていた。


「嬉しいと思える手紙だったんだね、それは本当に良かった······」


「えっと、手紙は見せてあげられませんが······私のこと愛してるって、抱きしめたいって書いてありました。何度も読んでたら、私もお母さんに抱きしめて貰いたいって、抱きしめたいって想ったんです」


 少し顔を紅くして、正直な気持ちを翼には伝える。翼は絶対に応援してくれる、数ヶ月一緒に過ごした時間は、確実に信頼関係を深めていた。


 ――プリムは3日後にクマルが来ることも翼に話すと、夕飯を食べることにした。

 プリムが母に会うという気持ちは決まっている、自然と話題は、『家族』についてになっていくのだった。


「翼様の家族ってどんな人だったんですか? そういえば私、翼様のことは知らないことばっかりなんですよね」


 悪気のない質問。これから母に会うプリムは、『家族』とは何なのかと純粋に聞きたかっただけだ。

 翼もプリムの気持ちは理解していたが、過去の自分を振り返ると胸が苦しくなる······。


 苦しい思いを打ち明けたい。そんな考えが頭を過ったが、今話す内容ではないと気持ちを切り替え、翼は家族について話し始めた。


 母や父との、なるべく楽しかった時間を思い浮かべて――


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