第64話 先輩との狩り
プリムがヴァンスへと一撃を入れた後、ヴァンスも含めた5人で会話をしている時であった。
今がチャンスだと言わんばかりに、屋敷の中からぞろぞろと使用人が出て来る。
客人が来たこと知った使用人達は、ヴァンスとの戦闘を全員揃って見守っていたのであった。
「ようこそウィルネクト家へ。私はこの家の使用人、グウォン・マストラルで御座います」
使用人の纏め役であるグウォンが挨拶をすると、昼食を用意してあるので皆で食べていくように勧める。
「もう昼か、俺も随分楽しんでいたみてぇだな。翼もプリムも遠慮しねぇで食ってけよ」
「ん、腹ペコ。翼、プリム、祝勝会」
――屋敷の中へ案内された翼とプリムは、大きなテーブルの上に用意されていた食事に驚いた。
テーブルの上には、肉、肉、肉、それと少しの野菜······。
「うわっ、大っきいお肉がたくさんです。これ全部食べれるんですか?」
「プリム、ミスティア様とヴァンス様の胃は無限に入るみたいなんだ。多分私達とは人種が違うのかもしれない······」
ルッコスの冗談をプリムが真に受けているのを見て、使用人達は微笑んでいる。
普段より喋るルッコス、それと純粋なプリム。2人の関係を見て楽しんでいた。
「ん、食べていい? 翼も、ここ座る」
「良しっ食うぞ、頂きます」
ヴァンスが食べ始め、他の者も手を付け始めた。
豪快に食事をしている5人、その様子を鋭い視線で使用人達は見つめていた。
(ま、まさか、ミスティア様が隣に座るように言うとは······そういうことなのか?)
(ミスティア様の表情、いつもより楽しそうだな······隣に居る男か、そいつのことを)
(駆け出しの魔獣ハンター、白崎翼。ミスティア様に相応しいのか、試す必要が有りそうじゃな······)
使用人がそれぞれ想像を膨らましている間に、肉が次々とヴァンスの胃袋へ収められていく。
ミスティアも、父親の姿を見て負けるものかと肉を口の中いっぱいに詰め込んでいた。
(ミスティアさんの食べた物は、小さな身体のどこに入ってるんだろう?)
まだまだ色気とは程遠いミスティア。使用人がその姿見ると、鋭い視線がやや丸くなっていくのであった。
――食事が終えると、翌日にバッディオ狩りの約束をして外へ出る。
帰り際、使用人のグウォンが翼に一言伝えると、今日は解散する流れだ。
(グウォンさん、いつでも来てください。そう言ってくれたけど······目が恐いんだよな)
翼は、来る時に貰ったアドバイスも思い出し、なるべくウィルネクト家には近づかないと心に誓い、帰っていくのであった。
✩✫✩✫✩
――翌日、朝早くから国の外へ通じる門で待ち合わせした翼とプリムは、無事にミスティア、ルッコスと合流することができた。
翼とプリムにとっては、初めての森の中だ。初遭遇の魔獣もいるであろう状況に、普段よりも緊張していた。
「ん、おはよ」
「おはようございます。ミスティアさん、今日はどんな感じで行くとかありますか?」
「プリム索敵、私と翼討伐、ルッコス荷物持ち、うん」
「えっ、俺は荷物持ちですか······」
「今日、たくさん狩る、プリム期待」
プリムのエアサークルがあれば多くのバッディオを発見できる。そうなると、今までより多くの獲物を持ち帰ることになる。
ミスティアの言いたいことを理解したルッコスは、大きな手押し車を借りに行くことにした。
「プリム、バッディオ特徴、判る?」
「えっと、大きさは2メートルぐらいで、背中には棘が生えていて、尻尾の先端は丸い。こんな感じですかね?」
「ん、正解」
「翼、バッディオ動き速い、攻撃のが弱い。でも尾には注意」
「えっと、普通の攻撃は弱いけど、尾の攻撃は強いと。あと、素速いから要注意ってことですね」
「ん、良しっ、ルッコス戻ったら行く」
ミスティアは、経験者、又は魔獣ハンターの先輩としてアドバイスをしていた。
屋敷の人間以外と接する機会がなかったミスティアが、率先して言葉を伝えるのは成長していると言えた。
先日の作戦が上手くいったのが、ミスティアにとって良い経験になっていたようだ。
――ルッコスが大きな手押し車を借りてくると、国の外へと出て行く。そして草原を越え、森の手前まで来ると陣形を整える。
「私と翼が先頭、その後ろプリム、最後ルッコス。プリムに魔獣接触は危険、それだけ覚えて」
「「判りました」」
「ん、ルッコス後ろお願い」
「はい、任せてください」
森へ入ると直ぐに、プリムがエアサークルを使い魔獣を探す。
すると、バッディオの特徴ではない魔獣が数体発見できた。
「私の知らない魔獣だと思うんですが、正面に2体と、右手方向に1体居ます」
「ん、私が先行する。翼は後ろから」
正面の魔獣へとミスティアは向かって行った。400メートルほど進むと、魔獣の姿が見えてくる。
森で最初に遭遇した魔獣はグーズル。その魔獣は、1.5メートルほどの熊のような魔獣であった。
「ん、1体は片付けた。もう1体は翼」
「はいっ」
ミスティアが離れると、グーズルは翼に標的を変えた。
翼は足を止め構えると、初めての魔獣グーズルを迎え討つ――
(そんなに大きくはないな。見た目的に気をつけるのは、爪と牙って所かな······)
翼が魔獣の特徴を観察していると、グーズルが唸り声と共に動き出した。
四足歩行で一気に距離を詰めると、その勢いのまま突っ込んでくる。
翼は思ったよりも冷静であった。
迫ってくるグーズルの頭部を剣の柄で叩くと、その反動を利用してグーズルを飛び越える。飛び越えると同時に身体を捻り、グーズルの方を向いて着地すると、今度は翼が距離を詰めた。
頭部にダメージを受け、反応が遅れたグーズル。体勢が崩れたまま振り返ると、翼の剣が上段から振り下ろされた。
「ん、上出来」
「ふぅ~、た、倒せました」
森へ入り、初めての魔獣を倒すと緊張が解れていく。
ミスティアの判断で、倒した魔獣を手押し車まで運ぶと、最初にエアサークルで発見した、もう1体の魔獣へと向うことになった。
「次1体だけ、翼が倒して」
「はい。ねぇプリム、どんな魔獣だったか解る?」
「さっきのとは違うと思います。もう一回エアサークル使いますね」
もう一度エアサークルを使ったプリムは、発見した魔獣を詳しく観察した。
ここで解ったのは、大きさがグーズルと同じ程度で、地面に伏した体型ということであった。
「そりゃ、マヌマットですね。この辺によく居る魔獣ですよ、翼様なら余裕でしょう」
「ん、行こう」
エアサークルで発見した位置まで行くと、ルッコスが言った通り、そこに居た魔獣はマヌマットであった。
マヌマットの見た目は、大きなヤモリと言った所だ。
(ミスティアさん、魔獣へのアドバイスはないんだな······必要もない魔獣ってことか?)
マヌマットが翼に気が付くと、素速く木へと飛び移った。そして木の上へ登り姿を暗ます。
(えっ、に、逃げたのか?)
マヌマットは、敵の視界から消え背後を狙うような闘い方であった。
登った木とは違う木の枝が揺れる。
マヌマットは音を立てず木の上から飛び出すと、翼の背後を狙っていた。
マヌマットの手のひらは小さな棘が無数に生えており、木に登る時に役に立つ。その手のひらで皮膚を撫でられれば、皮膚が抉り取られるほど危険な手だ。
――ブフォン。音と風圧に翼が驚いた。
それは、背後を取られたことに気が付かなかった翼を、ミスティアが援護した音であった。
「ん、翼。目で見るだけじゃ危険、気配感じないと······」
真っ二つになったマヌマット、翼はマヌマットを見て自分の失態に気が付いた。
「襲われてたんですね······あの、有難うございます」
自信がついたり失ったりと、短時間で多くを経験する翼。
自信がなければ良い動きはできず、失敗しなければ新たな課題を見つけられない。どちらも、翼にとっては大切な経験であった。
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