第63話 『商業国家ミカレリア』にて
メイレーナが住む邸宅から立ち去ったプルメリーナは、現在住んでいる『国』へと一度戻ることにした。
そこで相談を持ち掛けたのは、プルメリーナを奴隷商から連れ去った人物。『商業国家ミカレリア』の若き王、リスディック・ミカレリアであった。
「おかえりプルメリーナ、なんだか浮かない顔をしているようだね」
「そうなの。お願いと相談があるのだけれど、聞いてくれる?」
「勿論だとも、妻の願いを叶えるのが私の幸せだからね」
なぜ、リスディックがプルメリーナを奴隷商から連れ出したのか。
それは単純明解、プルメリーナを愛しているからだ。
十代の頃、『漆黒の魔女』と呼ばれるプルメリーナに出会ったリスディックは、一目で恋に落ちてしまった。いわゆる一目惚れというやつであった。
その日から数年、自分を磨くことに性を出していたリスディック。基本的な能力値は秀でたものがなかったが、商人としての才能はずば抜けていた。
ここは商業国家ミカレリア、王子として産まれたリスディックに商才があるのは運命と言えた。
そして、その商才があったことが、プルメリーナを囚われの身から解放し、リスディックが最も欲しいもの······そう、『愛』を手に入れる結果をもたらしたのであった。
「――ほう、メイレーナがそんな事件を起こしてしまったのか。『奴隷』を引き取るのは良いとして······犠牲者を出しては、何の罰もなく終わらせるのは難しいかもしれないね」
「私を救い出したあなたでも、メイレーナを救うのは難しいのね······」
戦力を持たない国『ミカレリア』は、商品と情報を重要視する。
リスディックは、『トゥーレイ王国』の王と交渉することによって、プルメリーナを連れ出すことに成功する。
『トゥーレイ王国』が多くの騎士団を創る理由と、この大陸で起きている争い。その情報を手にしたリスディックは、『トゥーレイ王国』の王と取り引きをしたのだ。
『帝国の侵略』、数十年、あるいは数年後に起こる争いにプルメリーナが必要となる。それを説き、来たる戦時には『プルメリーナ』と『ミカレリア』は『トゥーレイ王国』に従う。そのように交渉した。
「救えないなんて言ってないさ。もう直、帝国が勝利を治める。メイレーナも高い実力者なのだから、交渉には乗ってくれるよ」
プルメリーナと同様、メイレーナも同じ手口で引き取ろうとリスディックは考えていた。
以前より帝国の脅威が近づいたことは、交渉を有利に進めてくれるはずだ。
「交渉が上手くいっても、当人のメイが納得しないのよね······その辺は良い考えがないかしら?」
「あぁ、それこそ難しい問題だね。損得で動かない人は苦手なんだ、メイレーナを止める手立ては、君の愛情しか思いつかないかな」
話は続き、奴隷商から連れ去った『奴隷』の受入や、事件の落とし所は思いつくリスディックであったが、問題の大元······メイレーナを止める手立ては中々思いつかない。
リスディックから良いアドバイスを貰えなかったプルメリーナは、1人自室で思い悩むことになった。
(『トゥーレイ王国』から追放、その後は『ミカレリア』で受入れる。そこまで話を進めなければならないのに······大人しく納得させる方法がないのよね)
リスディックが言った落とし所は良いとして、メイレーナを納得させるにはどうしたものか······。
(メイレーナ1人なら、無理矢理連れて来ても良いのだけれど、協力者も居る······早く戻らないと、ディオンもずっとは止めていられないわよね)
結局悩んでも答えがでないプルメリーナは、『トゥーレイ王国』へもう一度足を運ぶことを選択するのであった。
✩✫✩✫✩
国から国への移動、奴隷商から連れ去った『奴隷』の受入、2人の子供との時間。
プルメリーナが『トゥーレイ王国』へ戻れたのは、奴隷商襲撃から大分日数が経過してしからであった。
――まずは、『トゥーレイ王国』に残り情報収集をしていたクマルから話を聞く。
「長旅ご苦労様でした。メイレーナ様、プリム様、お2人に関して幾つか情報が御座います」
クマルはプルメリーナに命じられ、メイレーナとプリムの動きを探っていた。
メイレーナに関しては、ディオンが毎日説得を試みているのだが、諦める様子は見られないのだと報告する。
「メイレーナは頑固なのね、私はこんなにも素直なのに······誰に似たのかしら?」
続いて話すのは、プリムの数日の動き。
奴隷商襲撃より前に、プリムの行方はつかんでいた。メイレーナとは違い、平凡だが楽しく暮らす姿を確認したプルメリーナは、あえて接触するのを止めることにしていたのだ。
「プリム様、厳密には一緒に居られる白崎翼という者が、プルメリーナ様とメイレーナ様を調べています」
クマルは、翼とプリムが『青い果樹園』へ行った後に調べ始めたことから、マグズに何か聞いたのではと予想していることも話す。
「それとですね、プリム様はプルメリーナ様から魔法の才能を色濃く受け継いでいる可能性があります」
プリムのエアサークルで何度か発見されたことや、新しい魔法を習得したこと。そして今日の昼間、その新しい魔法がヴァンスにも通用したことを才能がある理由として話した。
「ヴァンスに通用するなんて凄いわ。プリムが魔法を使うようになったのは最近なのよね、本当に将来が楽しみだわ」
(はぁ、私の子は穏やかに暮らすことができないのかしら······プリムも復讐を望むの?)
「クマル、プリムに手紙を書こうと思います。今日は遅いので、明日にでも渡しに行ってくれるかしら?」
「分かりました。明日は狩りに行くと思われますので、その帰りを狙って渡します」
(プリムはどう思うのかしら······それに、一緒に居る異世界人。この国にはない考えを持ってるのなら、少し興味を惹かれるわね)
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