第62話 4人の連携
ヴァンスと向かい合った4人は、ミスティアが立てた作戦通りに動き出す――
「ん、行く」
まずミスティアが大剣で斬り掛かり、ルッコスがその隙を狙い、死角から打撃を打ち込む。
そのすぐ後に翼とプリムも続いていく。
序盤は、翼とプリムがヴァンスという人間を知ることから始まる。
武器を持たないヴァンスが、どうやって攻撃を捌くのか――
(身体に触れる前に弾かれる······これが『魔力操術』か)
ヴァンスの特殊能力は、『魔力操術』という力であった。
体内の魔力を感じ、操り魔法にする。これは誰でもできる魔力の使い方だ。更にヴァンスは、体外にある魔力をも操ることができる。
ヴァンスが今使っているのは、魔力を身体に纏って闘う基本のスタイルであった。
(うぅ、混ざれない······全然使ってなかったけど、大鎚持ってくれば良かったです)
翼は果敢に戦闘に参加していたが、プリムはヴァンスの手前で立ち止まってしまう。魔法の腕は上達してきたプリムであったが、闘いなど殆どしたことがない。『直接触れて確かめる』という序盤の行動に苦戦していた。
戦闘が開始され、3人が必死に攻撃を繰り出しても、ヴァンスは余裕を持って捌いている。
それでも、戦闘で楽しませるような相手ではなくてもヴァンスは実に楽しそうだ。
(ほぅ、翼もいい剣撃じゃねぇか。この世界に来てからそんなに月日は立ってねぇよな······それに比べてプリムは闘いには向いてなさそうだ、巻き込むのは可哀想だろ)
「おい、ティアっ。せっかく翼も加わったんだ、人に合わせることも考慮して動くんだぞ」
「ん、分かってるっ」
徐々に息の合ってきた3人は、上下左右にと攻撃に工夫が見えてきた。
ミスティアが上段から斬り掛かれば、翼はヴァンスが大剣を受け止めた右手の隙を狙う。そしてルッコスは、翼の斬撃を防ぐであろう右足を防ぎに掛かった。
(おっ、しっかりと連携できたじゃねぇか)
ヴァンスはミスティアの大剣を受け止めると、回転して翼の剣を蹴り飛ばした。
「まぁまぁだな」
「ん、まだまだこれからだからっ」
ミスティアが目で合図を送ると、中盤の予定へと駒を進める。
まずミスティアが上段から斬り掛かるのは変わらないが、次の行動から変化がでる。ルッコスが同時にヴァンスの顔面に殴り掛かった。
ヴァンスが右手でミスティアの大剣を防ぐと、ミスティアは自身の足をヴァンスの右手へと絡ませる。
そしてルッコスは、殴り掛かったと見せかけ、ヴァンスの左手を掴む。
厳密にはヴァンスの腕ではなく、腕に纏った魔力ではあったが、両腕を封じることに成功すると――
「ん、翼っ」
翼が高くジャンプすると、上段から斬り掛かるが······。
両腕を掴まれたヴァンスが、上を向くと。
「あれ、剣が動かない······」
ヴァンスの『魔力操術』は、身体に魔力を纏えるだけじゃない······空気中にある魔力を使って、翼の剣を受け止めたのだ。
「父様の能力、ズルすぎ······」
「ティア、能力も含めて実力だろ。それに、強くなりたきゃ強い相手と闘うのが一番だからな」
まるで、特殊能力を使わないと防げないと思わせる言動だが、ヴァンスは幾らでも防ぎようはあった。
それでも特殊能力を使ったのは、特殊能力の強さを知って貰うためでもあった。
ヴァンスの考えなど関係なく、ミスティアの作戦は終盤に向かっていく。
ヴァンスの実力に触れ、腕を封じることを試せたら、いよいよヴァンスに一撃入れるための行動を開始する。
「ん、翼······いく」
「はいっ。『つばさ』解放」
ミスティアの合図で、翼が背中から『つばさ』出現させた。
ここ数日の訓練で学んだこと、魔力を打ち消す結界を出すには、まずは『つばさ』を出さないといけない。そして、『助けたい』『守りたい』などの強い感情が発動の契機になる。
『つばさ』を出現させると、終盤への準備は万全だ。
『つばさ』を見たプリムも、魔力を高めて自分の役割を達成するため気合を入れた。
(おっ、ここからが本番って感じかぁ。俺の魔力を消して一撃入れる作戦なんだろうが······残念だったな、翼の能力は聞いてるんだよ)
4人が、ヴァンスとの距離を少しづつ詰めていく。
それをヴァンスは、気付かないふりをして待ち構えた。
最初に動き出すのは、ミスティアとルッコス。2人がヴァンスに攻撃を仕掛けている間に、翼が魔力を打ち消す結界を創る――
(翼の能力は後出しか······そうだな、能力の効果を知られる前に俺の動きを止めないとな。いい判断だ)
ヴァンスは、迫りくる2人に掴まれることだけ注意して対応する。
ミスティアの大剣を手刀で弾き、ルッコスの打撃も平手で弾いた。
(ちゃんと発動してくれよ······ミスティアさんとルッコスを絶対に守るっ)
翼が、ヴァンスに攻撃するミスティアとルッコスを見て強く念じた。その瞬間、翼を中心に結界が拡がっていく。
(翼様の能力が発動しました。次は、私の番です······)
プリムの役目は、結界が拡がり切ると同時に、エアシールドを結界の外ぎりぎりに創ることだ。ヴァンスを結界から逃がしては作戦が失敗になってしまう、集中して結界の拡がりを感じとる。
結界がヴァンスに触れる――ヴァンスが纏う魔力にも効果があるのか。それが、最初の難関だ。
(くっ、魔力が奪われるみたいだ······凄い能力だが、結界から出てしまえば問題じゃないぞ)
無事に効果を発揮した結界。その結界から抜け出そうと、ヴァンスは後ろへ飛び退くが······
「くっ······なっ、何だ」
背中に凄まじい衝撃を受け、ヴァンスは結界の中に留まることになってしまった。
ヴァンスの動きより少しだけ早く、プリムの魔法が創り出されたのだ。
ヴァンスが一瞬だが動揺する。その隙にミスティアとルッコスが再度近づいていき、攻撃すると見せ掛け、両腕を捕まえた。
「「翼っ」」
ミスティアとルッコスの声が響き、最後の一撃を託される翼。
だが、当の翼は地面に膝をつき、大量の汗を地面へと垂らしていた。
(うぅ、もう結界が保たない······)
ヴァリアンの魔法ですら何度か耐えた翼の能力であったが、ヴァンスの魔力を打ち消すのはそれを上回る力を必要としていた。
結界の維持も限界······そう、翼が諦めかけた瞬間――
「えいっ」
自身が創り出したエアシールドの風に乗り、ヴァンスへ近づくことに成功したプリム。可愛らしい掛け声と共に、ヴァンスの横っ腹へと拳を当てる。
翼の能力も解け、一瞬の静寂を間に挟む。
「ん、か、勝った」
「······今のは、攻撃だったのか?」
「や、やりました。皆さん、一撃、一撃入りましたよっ」
「はぁはぁ。さ、流石プリムだっ」
(いい連携じゃねぇかよ······プリムの魔法を最後まで隠すのも良かったし、翼を囮にする演技なんか完全に引っかかっちまったな)
ヴァンスは少し考えると、4人の実力を認めることにした。
そして、ミスティアの外出禁止が解かれる。翼の能力とプリムの魔法、防御の面ではかなり優秀で、いざという時に時間を稼ぐには十分であった。
「いい連携だったぞ。今回4人で一撃だったからな、4人でバッディオを狩る時だけ外出を認めてやるよ」
実のところ、翼が囮になったことと、プリムが攻撃を当てたことは作戦にはなかったのだが、無事にヴァンスへ一撃を入れることには成功した。
こうして、ミスティアの外出が解かれると、念願のバッディオ狩りへ向うことができる。
やりきった4人は、満面の笑顔でお互いを称えるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます