第60話 守りたいもの

 オリジナル魔法が完成した後、精度を上げる練習と、他の用途を試したプリム。翼やビネットに見せれるレベルだと満足し、ドーガと共に家へと帰ることにした。


 帰りの道中では、ドーガがプリムの魔法に感激して褒めちぎる。

 魔法の完成とドーガの言葉、プリムのご機嫌は最高潮であった。


「ただいまっ。ビネットさ〜ん、聞いてください」


 家の中へ入ると、大声でビネットを呼びながらリビングへと向かう。

 リビングには、会話を中断した翼とビネットがプリムを待っているのだった。


「プリムおかえり、ドーガさんとどこに行ってたの?」


「あっ、翼様も帰ってたんですね。それじゃぁ2人共、聞いてください。やりましたよ、エアシールド『破』が完成したんです」


 満面の笑みで、プリムはオリジナル魔法の完成を報告する。

 翼はプリムの笑顔を見ると、この笑顔を守りたい、そう強く思うのだった。


 ――ビネットとは、この日以降も何度か相談することになる。

 それと、翼は特殊能力の練習にも時間を割く必要があった。好きな時に発動できなければ、守りたいものも守れないからだ。


 これだけ忙しい日々を過ごすことになり、翼は魔獣ハンターのランクを上げるのに、時間が掛かってしまったのだ。


✩✫✩✫✩


 ポイント達成から更に5日、ようやくランクアップの試験を受ける日が来た。


「ふぅ、凄く緊張してるよ。だ、大丈夫かな?」


「大丈夫です。翼様は強くなってますから、たくさん訓練したのを思い出してください」


 ハンター組合へと向う準備を終え、家を出ようとしている時に弱音が漏れる。

 翼は、特に対人戦には自信が持てないでいた。でもそれは仕方がない、今まで一度も勝利した経験がないのだから。


「皆褒めてくれるけどさ、自分ではいまいち分らないんだよね。出会った人達って僕よりずっと強いしさ」


「そんなことないです。私より翼様のが強いですよ」


「う、うん。有難う······、まぁとりあえず行こうか」


(魔法有りならプリムのが強い。でも、僕の能力を使えば······ってプリムと比べてどうするんだよ)


 翼はプリムの励ましを素直に受け取ることにして、ハンター組合へと向うために家を出る。


 それなりの緊張を残したまま、ハンター組合に到着した翼は、大きく息を吐いてハンター組合の中へと入っていった。


「おっ、来たな翼っ」


 いの一番で出迎えてくれたのは、何とビスディオ・クルドォだ。実技を教えてくれていた教師が、なぜかこの場で翼を待っていた。


「えっ、ビスディオ先生。ど、どうしたんですか?」


「実はな、翼がDランクに上がるタイミングで連絡を貰えるように手配してたんだよ。しかも、試験の相手に立候補してなっ」


 ビスディオがここまでするのは、翼やプリムが心配なのもあるが、実技の授業で後悔している部分があるからだ。


 本来なら魔法や武術、それに専門的なことも教えていく筈だったのだが、翼には基礎体力の向上が何よりも大切だと判断した。

 色々と教えることができなかったのには、翼が騎士団へ所属するだろうという考えも影響していた。組織に所属すれば、他の人達から学ぶ機会もある。そうなれば、尚更基礎体力は必要になる予定であった。


「それじゃ、試験で相手して貰うのがビスディオ先生ってことですか?」


「そうだっ。あれから数ヶ月だが、どれだけ強くなったか楽しみにしてるからな」


 翼が魔獣ハンターになったことは、ビスディオにとって嬉しい誤算というやつであった。

 草原から先へ進む、この一番危険なタイミングで実力を試す。そして、試験はより厳しい目で見る。

 色々と教えられなかった分、ビスディオが翼やプリムにしてやれる、これが最後の授業なのだ。


「ビスディオ先生、翼様は強くなってます。びっくりして、腰を抜かさないでくださいよ」


「おう、翼の体つきを見ればそれは分かるぞ。それじゃ、行くかっ」


 ハンター組合の裏手には、翼がまだ行ったことがない建屋があり、そこで試験は行われる。

 建屋に入ると、ハンター組合の人間が3人居るのが見えた。その1人は、いつも気軽に話してくれる受付の女性だ。


「あっ、来ましたねぇ。私も試験官の1人なので、頑張ってくださいよぉ」


「は、はい」


(見に行くとは言ってたけど、試験官なんだ。ハンター組合って人手不足なのかな······)


 Dランクへの昇格試験は、森へと入る実力があるのかを試すのが大半の目的を占めている。

 木剣での模擬戦を行い、それを見た試験官が合否を決める形だ。


「よっしゃ。来い、翼」


(ふぅ。ビスディオ先生が相手だ、緩急をつけて最初だけでも一撃を入れたいな)


 ゼレクト戦で学んだことを活かす。過去の翼を知ってる者は、油断している可能性が高い。最初が最大のチャンスであった。


「お願いします」


 翼がゆっくり近づいて来るのを、ビスディオは微動だにせず待っていた。翼の初手を受け止めることを楽しみにしているのだ。

 翼は、ビスディオがまずは攻撃を受けるだろうと予想し、2手目に全てを賭けて挑む。


 上段に構え、木剣が届く位置まで近づくと両手で木剣を振り下ろす。

 翼の大勢が歪になっているのは次の動きに素速く移るためだ、ビスディオの木剣に触れた瞬間、素速く木剣を引き、右手一本での横薙ぎの一撃を全力で振るった。


 その一撃は空を切る。

 ビスディオは後ろへ下がり、翼の一撃を躱していた。


「それは流石にバレバレだぞ。だが、びっくりするほど太刀筋が良くなったな」


 躱したつもりだったのだが、軽装のビスディオは、胸辺りの服が切られていた。更に胸からも赤いものが見える。

 翼の狙いが分かっていたにも関わらず、傷を負ってしまったのは、予想以上に翼の斬撃が速かったからだ。


(これは、真面目な翼が毎日訓練した証拠だな。次は俺からいくか······)


 今度は、ビスディオの斬撃を翼が受ける番だ。

 一撃二撃と回数が増えるたび、速さも衝撃も上がっていく。翼はとっくに、以前の模擬戦よりも強い斬撃を受け続けていた。


(受けるので精一杯だ······でも、負けたくないっ)


 反撃に移れない翼であったが、ビスディオの上段からの斬撃を受けると、そのまま流れるように、柄でビスディオへと迫る。

 だかその柄は、ビスディオの左手で掴まれてしまう。その隙に、ビスディオの木剣が再び翼を狙っていく。

 

(ま、まずい。でもっ)


 迫ってきた斬撃、木剣を掴まれた翼は武器を封じられている。それならと、左手の手刀でビスディオの木剣を叩き折った。


 ビスディオが翼の木剣から手を離すと、距離をとって口を開く。


「やるじゃねぇか。どんな場面でも諦めない、申し分なく合格だろう」


 ビスディオの言葉に、3人の試験官は合意する。短時間の模擬戦であったが、翼はDランクへ上がる条件を見事にクリアしたのであった。

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