第53話 プリムが聞かされたこと

 襲撃を受けた後の『青い果樹園』、そこでプリムはマグズを見かけ話を聞くことにした。

 そして声を掛けられたマグズは、プリムと翼に敷地の中へ入るように言うと、まずは起きた出来事から話し始めるのであった。


「よく来てくれたとは言わんぞ、その理由もわしの話を最後まで聞けば判るからのっ」


 マグズは、「全容は判らんが」と前置きしてから話し出した。

 『青い果樹園』が襲撃され、ここに居た『奴隷』の大半が連れ去られたこと。

 ディオンと闘った警備の者も、プルメリーナの魔法で記憶を消されていたため、マグズ以外の人間が誰一人犯人を見ていないこと。

 そして、犯人の内1人だけ遭遇した人物、プルメリーナ・サスティヴァについても隠さずに話す。


「お主らは、『漆黒の魔女』プルメリーナ・サスティヴァは知っておるのか?」


「あっ、『漆黒の魔女』なら聞いたことあります。『黒の一族』の人で、凄い人だって」


 プリムは、ビネットとの会話で『漆黒の魔女』という単語が出ていたことをよく覚えていた。理由は判らないが心に引っかかる、そんな話だったように記憶している。

 翼は誰なのか全く知らなかった。だが、最近聞いた『白銀の魔女』と似た言葉に不吉なものを感じていた。


「プリムだけは知っとるのか、怪しい者が周りにおるのかもしれんな······まぁいい、その『漆黒の魔女』が現れたんじゃ」


 『漆黒の魔女』が現れたと話した後、マグズは周囲に気を配る。

 野次馬以外にマグズ達を見ている者は見当たらなかったが、それでもこの場でする話ではないと思い至り、奴隷商の住居へと2人を連れて行くのであった。


 住居の周りは黒く焦げ、嫌な匂いがしていた。

 焦げ跡を跨ぎ扉から中へ入ると、マグズの部屋へと案内される。


「ここなら誰かに聞かれる心配はなかろう。まぁそこにでも座れ、大事な話をするからよく聞いておくようにのぉ」


 マグズが話すのは、『漆黒の魔女』プルメリーナに会った後に気付いたことと、元から知る情報とを掛け合わせたものであった。


「建物の周りが焦げておったのは、わしらが建物から出れんように炎に囲まれていたからじゃ。まぁ、その炎が犯人の手掛かりに繋がってしまうのだかな」


 マグズが見た炎は、辺りを照らすことのない暗い炎であった。黒い炎を使う者と言えば、第7騎士団の団長、メイレーナ・ティディスだと知っている者は多いと話す。


「第7騎士団の団長がなぜ、と普通の人間なら疑問に思うじゃろう。だが、他の者が知らぬ情報をわしは持っておるのだ」


 その情報とは、メイレーナも元は『奴隷』であったこと。

 メイレーナはここで産まれ、高い能力値だと知った者が『王』の許しを得ると、『奴隷』であったことを隠しながら『人』として生活することができたのだ。


(それって、『希望の書』に書いてあったやつだ。奴隷から人になれたって、メイレーナ様って人のことだったんだ)


「だからのぉ、メイレーナ・ティディスにはここを襲う理由があるんじゃ」


(えっ、『奴隷解放』の組織もメイレーナ様が創ったってこと? うわっ、同じ人の話だったんだ)


「そして、『漆黒の魔女』が現れた理由はメイレーナ・ティディスにある」


 プルメリーナの子、その長女がメイレーナであることを話すと、マグズは真剣な顔でプリムを見つめる。


「プリム、お前がここを去った少し後、『漆黒の魔女』の子を指名して買った者がおってな。買いに来たのは別の人物であったが、わしは母親である『漆黒の魔女』の指示で買いに来たと思っておる」


 そして、マグズの考えではプルメリーナにここを襲う理由はなく、娘が起こしたことの尻拭いをするために姿を現したと予想していた。


「それと、『漆黒の魔女』にはもう1人子供がおるのだ」


 『希望の書』の答え合わせをしていたプリムは、言葉の意味を直ぐに理解することはできなかった。

 だが隣に居る翼は理解してしまった、プリムの母親がプルメリーナであることに。


「プリム、お前のことじゃ······」


(ん······えっ、わ、私。えっ、私のお母さんが『漆黒の魔女』で、お姉ちゃんが『奴隷解放』の組織を創ったってこと······)


 意味は理解できたが、混乱しているプリムは何か言おうと口を開くが、中々言葉が出てこなかった。

 その姿を見て、マグズが溜息をつく。


「まぁ混乱するのも無理はない。白崎さんだったか、君は冷静に話を聞けそうか?」


「えっ、あ、はい。大丈夫です」


「わしが全てを話したのは、ちゃんと意味があるんじゃ。この後話す言葉を覚えて貰わんと意味がないからの、しっかりと聞いてくれ」


 プルメリーナの子供でまだ再会を果たせていないプリムの元へ、プルメリーナは必ず会いに来るとマグズは予想していた。

 その時のために、伝言を頼みたい。それがマグズの狙いであった。


「わしが全て気付いていたことと、監査官にはプルメリーナ様の話ししかしとらんこと、それを伝えてくれ。それと、これは貸しじゃと。この件が片付いたら、わしを『商業国家ミカレリア』に紹介するようにも言っておいてくれ」


 翼とプリムに詳しく説明したのも、メイレーナが主導していることに気付き、『商業国家ミカレリア』に精通していることにも気付くほど、自分が優秀だとアピールするためであった。

 それと、マグズは襲撃から短時間で考えたことがあった。プルメリーナに「違う商売をすることをオススメしておきますね」と言われたことを、本気で実行することにしたのだ。


(わしならこの国でも商人としてやっていけるが、どうせなら世界を目指さんとな。それには『商業国家ミカレリア』と繋がりを持っておいて損はなかろう)


「話は終わりじゃ、それじゃ伝言はたのんだぞ」


「は、はい。プリム、大丈夫?」


「ちょっと待ってください。えっと、マグズさん。あのっ、ビクレイ姉様達はどうなったんですか?」


「あぁ、『奴隷』は殆ど連れて行かれてしもうた。探すならメイレーナ・ティディスを当たるのがよかろう」


「もうここには居ないんですね······あの、ありがとうございました」


 翼とプリムは、最後の最後に聞きたかったこと聞くと『青い果樹園』から出ていく。


 ――帰り道、プリムは頭の中が混乱から抜け出せずに話すこともできなくなっていた。翼は、その姿を見て自分は何ができるかと考える。

 これまでのように、楽しい生活だけ考えてはいられない。この事件には、プリムの家族が深く関係しているのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る