第50話 プリムの告白
プリムの手を握り、外へと飛び出して行った翼。
いつものように門がある方へと向ったのは良かったが、少し進んでから、肝心の目的地がどこにあるのか分からないことにようやく気付いた。
「あのさプリム······方向はこっちであってるのかな?」
「えっと、塀が見える場所なのは確かなんですけど、実は······私も正確な位置が分からないんです」
プリムが『青い果樹園』で生活していた時には、外出したことなどなかった。『奴隷』は隔離された生活のため、外の様子を詳しく知ることなどないのだ。
唯一の手掛かりは、国を囲う塀が、窓から見えていたぐらいか――
「誰か人に出会ったら聞いてみるしかないか、それまでは塀の方向に進もうか」
「はい······」
この時翼は、ドーガかビネットに場所を聞いておけば良かったと後悔していた。
一方プリムは、奴隷商のことも気になるのだが、翼に言えてなかったことを打ち明けるべきか迷っているのであった。
(関係あるかは分かりませんが、翼様にも言っておいた方が良いですよね······危険に巻き込まれるかもしれないんですから)
「あのっ、翼様。向うのはゆっくりでいいので、少しお話をしながら行きませんか」
「う、うん。それはいいけど、何か大事な話でもあるの?」
「私にとっては大事な話なんですけど。聞いてください」
翼に『青い果樹園』での生活を詳しく話すのは、初めてのことだ。
隠し事があったせいで、自分のことを話すことができないでいたプリム。翼には色々と知って貰いたいという思いと、翼がどのような反応をするのかという不安で胸が苦しくなる。
まずは、本題ではない『青い果樹園』での生活から切り出した。
姉のように慕うビクレイのことや、同年代のカルミアとハティヤなど、仲の良い人達が居ることを話し始める。
「特に無事でいて欲しいのがこの3人なんです。友達というか、家族みたいな人達だから」
「プリムには大事な人が居るんだね。うん、無事だって信じようよ」
翼が優しく応えると、プリムは続きを話し出した。次に話すのは『希望の書』についてだ。
プラントから出荷され、戻ってきた『奴隷』が話す希望、それを一冊の本に綴ったものが『希望の書』だと翼に説明する。
その中に書かれた内容が、伝えておくべき本題であった。
「『奴隷解放』そんな情報が書いてあったんです。だから······」
言葉の続きは『私も奴隷解放を企む組織に加わりたかった』だったのだが、言ってもいいのか急に迷ってしまった。
危険なことを考えてると知られれば、軽蔑されるかもしれない。それと、本当に理解したうえで加わりたいと思っていたのか、自分でも疑問に思ってしまった。
「えっと、事件に奴隷解放っていうのが関わってるって思ったのかな?」
言葉に詰まったプリムに、翼は優しく問いかけた。その後は、返事がくるのをゆっくりと待つ。
「ごめんなさい。自分でも良くわからないことがあって、どう言ったらいいのか······」
「うん、大丈夫。ゆっくりと考えていいからね」
優しい翼との日々を思い返すと、疑問の答えが判った気がする。
力で『奴隷』を解放することは、犠牲者を出すことも厭わないということだ。翼も含めて『奴隷』じゃない人とも仲良くなれたプリムは、前のように単純に考えることができなくなっていたのだ。
「翼様と出会った時は、私も『奴隷解放』の組織に加わりたいって思っていたんです。でも······それは良いことじゃない気がして」
「良いことじゃない、か」
プリムの言葉に翼も思う所があった。
翼の目標は、プリムを奴隷から解放することだ。それは『良いことじゃない』なんて思ったことは、一度もないと断言できる。
「なぁプリム、僕は奴隷から解放することが悪いことだとは思わないよ。でもさ、やり方次第では悪いことになるのかもしれないよね」
「やり方次第ですか······はい、そうかもしれません」
『奴隷』を解放する組織に入りたいと思っていたことを打ち明けたが、まだプリムはスッキリしてない。翼の反応が軽いのは、特に軽蔑などしていないと思って良いのか疑問であった。
「あの、私が言ったこと······どう思います?」
「ちょっと一つ、質問していいかな。プリムは『奴隷』を解放したいのか、『奴隷解放』を企む組織に入りたいのかどっちなの?」
「えっと············『奴隷』を解放というか、皆が同じ『人』として、仲良くなれるようにしたいです」
「うん、それなら僕も同じ考えだよ。『奴隷』なんてなくなれば良いって思うし、出会った日に言ったことは今も変わらないから」
翼が出会った日に言ったことは『僕が、救ってみせるよ。『奴隷』から解放して、自由になれるように』であった。
言われた日に、プリムがこの言葉へと返した思いは怒りだったが、翼の人柄を知った今、同じ言葉を貰えたなら素直に嬉しく思える。
「あの、ずっと言えなかったことが言えました。翼様と出会えて良かったって、ほんとに思います。えっと、これからも宜しくお願いします」
「う、うん。僕の方こそ、宜しくお願いします」
言えなかったことを翼へ伝え、翼の考えを聞くことができると、プリムは暖かい気持ちになる。それと、2人の空間が甘酸っぱい雰囲気になっていた······だが今は、良い雰囲気になっている場合ではない、元々行動していた理由は別にあるのだ。
この後無言の時間を挟み、2人は気持ちを切り替える。大事な人の安否を知るために、『青い果樹園』を探すことに集中するのであった。
――まず2人は門まで足を進めると、顔見知りの門番へと『青い果樹園』の場所を聞くことにした。
そして門番の男から、事件があった噂と『青い果樹園』の場所を聞くことができると、2人は早足で向かっていく。
「あっ、ありました。翼様、あそこです」
2人の視界に、破壊された建物が映し出される。
話には聞いていても、実際に破壊された建物を見ると心が苦しくなる――
「結構人が居るみたいだ、誰か知ってる人が居たら話を聞いてみよう」
野次馬に紛れて中の様子を覗っていると、翼にも見覚えがある人物を見つけることができた。
「あっ、マグズさんだ。あの人なら色々知ってる筈です」
声を掛けられる位置まで移動すると、プリムがマグズへと声を掛ける。
突然現れたプリムに、驚いているマグズであった――それでも、冷静になると2人を敷地の中へと受け入れてくれた。
この後、プリムは衝撃を受けることになる。マグズから語られたのは、プリムが知りたかった内容よりも、重大な真実であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます