第48話 階級7に昇格して
昇級を言い渡された日から2日後。朝の訓練が終えて朝食も食べた2人は、今日もランクを上げるために狩りへ出ようと支度をしていた。
そこへ、準備が整ったことを伝えるために人が訪ねてくる。その準備とは、翼の階級が上がり、別の区画へ引っ越す場所······新たに翼とプリムが住む家の準備が完了したのであった。
「やっほ~、今日は私が2人を案内しにやって来たよ」
「あっ、ビネットさん。もう元気になれたんですか?」
ビネットには後遺症などは診られなかったため、検査と体力回復が目的で入院させられていた。
前日にようやく退院の許可おり、ドーガと共に自宅へ向う途中で翼とプリムの話題になったのだ。
そこで階級が上がったことと、明日引っ越すことを聞くと、絶対に自分が案内するのだとドーガから仕事を奪ったのであった。
「元気過ぎるし、暇過ぎたのよ。もうっ、プリムちゃんが毎日お見舞いに来てくれると思って期待してたのにっ」
「うぅごめんなさい。それじゃ、今日はたくさんお話しましょう」
多少の雑談をした後、ビネットは引っ越しについて話してくれる。
まず今日は、階級7の区画に行き新たに住む家を見ること。既に住める準備は整っているため、そのまま住むことも可能だということ。
それと、完全に引っ越す準備が整えば、数人の引越し業者が荷物を纏めて運んでくれる。しかも、国の管理の元行われるため無料なのだと言う。
「その辺のサービスは凄いですよね。でも元々あった荷物以外は殆ど増えてないんで、行くなら持って行っちゃっていいですかね?」
これから裕福になる予定の翼とプリムには、今はまだ持っていく荷物など無いに等しいのだ。
それでもこの家には愛着があるのだが、国の決まりなら仕方がない。
「そんなに貧乏生活だったんだね······命を助けて貰ったお礼もしたいし、色々買ってあげようか?」
「いやいや、皆さん借りを返すって言うんですけど、本当にそんなつもりじゃないですから。それに、ビネットさんには特にお世話になってて、恩返しができて良かったって思ってるんです」
それと、貧乏生活にも少しだけ異議を唱える。
今現在は確かに貧乏かもしれないが、最近の魔獣狩りは順調でお金も貯まってきているのだ。欲しい物を買っていないのも、ランク上げを優先して買い物に行けていないと理由を話した。
「そっか、ランクを上げてヴァンス様の娘とバッディオ狩りに行くんだ。ふ〜ん、何だか2人が盗られちゃうみたいで寂しいな」
翼とプリムが魔獣ハンターとして頑張っていることには素直に応援できるのだが、他のハンターと協力することを聞くとやきもちを焼いてしまう。
自分も魔獣ハンターになり、一緒に頑張っていけたらどれだけ楽しいだろうかと、想像して溜息が出た。
(私は何を考えてるんだか······今の仕事も好きでやってるのに、子供みたいなこと考えちゃったな)
――ビネットにはリビングで待ってて貰い、2人は自分の荷を纏めることにした。荷物の内容は、服と武器、それと食材ぐらいのもので少ないのだが、翼が居た世界で持ち歩くには不可能な量だ。
(この重さも軽々持てるんだもんな、身体強化って便利過ぎるよ)
「プリムちゃん、その大槌は私が持ってあげるよ。それにしても、ゴツい武器を使ってるのね」
「今は翼様のサポートに専念してるので、全然使えてないんでけど······。ビスティオ先生に貰った大事な武器なんです」
プリムの持ち物では一番の重量物をビネットが受け持つと、この家とはお別れとなる。
翼とプリムは家の全容が見える位置まで歩くと、家に向かってお辞儀をした。心の中でお礼を言って別の区画へと歩き出す――
30分程度歩くと、2人の新しい家が見えてきた。
「ここだよぉ。前の家より少し大きくなってるけど、見た目は似てるでしょ」
白を基調にした外観を見ると、翼とプリムは嬉しそうな笑顔を浮かべた。その2人をビネットは見ると、兄が成長したことを実感する。
「この家は兄さんが選んだんだって、2人は似た家の方が喜ぶだろうって言ってたよ。兄さんも何だか成長したよねっ」
家の中を見て回り、変わりなく生活できることが判ると、翼的には今日も狩りへと行こうと考える。だが、プリムとビネットの会話を聞く限り、それは諦めた方が良いと悟った。
昇級祝いと退院祝い、今日は朝までパーティーだと2人は盛り上がっているのだ。
(プリムも嬉しそうだし、今日の狩りは休みでいいか。僕は無理してるつもりじゃなかったけど、毎日狩りに行くのは良くなかったかもしれないな······)
この後は、買い出しから始まる。
パーティー用の食材をプリムとビネットが買いに行ったのだが、最初に買ってきたのは大きなベットであった。
もう一度買い出しに行き、食材やお酒を大量に買ってきてから庭でのバーベキューが開始された。
――楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
翼はバーベキューなど子供の頃以来やっていないこともあり、懐かしい気分を堪能する。プリムは会話を楽しむ以外にも、ビネットと料理することや魔法を教えて貰うことなど1日中笑顔で過ごしていた。
ビネットも楽しんでいる様子だったが、夜が近づくにつれお酒の量が多くなり、いい感じに出来上がっているのだった。
「プリムちゃん今日は泊まっていくから、あの大っきなベットで一緒に寝ようね」
「はいっ、大っきなベットだから2人で寝ても大丈夫ですよね」
(ビネットさん泊まっていくんだ······ん、元々そのつもりであんなに大きいベットを買ったんじゃないのか)
少し気疲れした翼であったが、プリムとビネットが楽しむ姿を見て満足もしているのだった。
今日という日が終わったかと思うと、翌日の朝日と共にドーガがビネットを探しにやって来た。
翼は最初、無断で外泊したビネットを心配して探しにきたのかと思ってたが、ドーガが来たのは別の理由だ。
それは、又しても大きな事件が起きたという不吉なものであった――
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