第46話 昇級と失言

 ミスティア達と、バッディオを狩る約束してから数日。翼とプリムはランクを上げるため、順調に狩りをする日々を続けていた。

 この日は帰ってくると、知っている顔が家の前で待っているのであった。


「おかえりなさい。今日もハンターの仕事を頑張ってきたようですね」


「あれっ、ドーガさん。僕達に何か用事があったんですか? もしかして待たせちゃいました」


「待つのも仕事ですから、気にしないでいいですよ。それより、今日は良い報せを持ってきたのです」


 ドーガが報せにきた内容は、翼の階級を上げるというものであった。

 ミスティアとビネットの命を救った功績で一つ。もう一つは、能力の評価が再検討されたこと。再検討とは、翼の能力が身体変化だけではなく、魔法を無力化させる結界だと判明したことだ。

 この二つの功績により、二つも階級が上がることになる。


「現在の白崎様は『階級9』なので、『階級7』へと上がることになります。私も嬉しいんですよ、おめでとう」


「翼様、やりましたね。最近良いことばかりじゃないですか」


 頑張れば報われる。この世界に来て数ヶ月だが、翼は努力を怠る日はなかった。

 それが結果として現れたことに、翼はとても嬉しいと思う。

 それと、なぜか思い出したのが『努力を続けていれば必ず強くなれますよ。それが、こちらの世界での当たり前ですからね』と、ヴァリアンが話してくれた言葉であった。


「ありがとう。あの、ドーガさん······第4騎士団の団長さん、あの人はどうなったんでしょうか?」


「ヴァリアン・ミリーノ団長ですか。捕まった後は、魔力を封じられて牢獄の中ですね。もう私達が会うことは無いと思いますよ」


「そうなんですね······」


 襲われた身ではあったが、以前に一度会った日を思い返すと悪い人だとは思えなかった。

 なぜあんなことをしたのか······第4騎士団の団長を務め、更には『階級2』の地位。翼には理解できない何かがあった、そう思うことしかできないことが心に引っかかる。


「私が言うのも何なんですがね、犯人のことは忘れた方が良いでしょう。それよりも、伝えることはまだあるんですよ」


 ドーガの役目は、明日翼を城へと連れて行くことであった。城で昇級を言い渡され、新たなプレートを貰い、本当の意味で昇級が実現するのだ。


「明日一緒にお城へ行くんですね。あの、プリムは同行できるんですか?」


「大丈夫ですよ、人がたくさん集まる訳じゃないですし、今回はタルケ様が昇級を言い渡す役目ですから」


 一通り伝え終えると、ドーガはまた明日迎えに来ると言って帰って行く。

 この日、翼とプリムは初めて城へ行くことに緊張しながら眠りについた。


 ――翌日、朝の訓練を終え朝食も済ませると、2人は準備万端でドーガが来るのを待っていた。

 約束の時間丁度にドーガが迎えに来ると、3人で城へと向うことにする。


「うわぁ、近くで見ると大きいですね」


「遠目でもお城があるのは見えてたけど、近くで見ると迫力が違うよね」


 翼とプリムが城を見て感動しているのを見て、ドーガは少し嬉しく思う。


(なぜでしょうかね、この2人を見てると心が和むのは······ビネットもこんな気持ちだったのか)


「さぁ2人共、この国の偉大さに感動するのも良いですが、早く中へと入りますよ」


 ドーガに促され、城へと続く階段を上がって行くと、普通の人が入るには大きすぎる扉が見えてくる。

 ここへ来る途中にも警備をしている人達が大勢いたが、階段や扉にも人間が配置されていた。


 翼とプリムが扉の前まで来ると扉は開かれ、扉を開いてくれた人達がお辞儀をして迎えてくれる。


「あ、ありがとうございます。し、失礼します」


「失礼します」


 城へと入ると、より緊張してしまう。そのままドーガの後を着いて行くと、1階にある一室へと案内された。


「失礼します。白崎翼をお連れ致しました」


 ドーガがドアをノックして中へと入ると、男が2人、部屋の中で待っていた。


「ようこそ、白崎翼。どうだい城へと案内される気分は? 特別感があって良いものじゃないかな」


 気軽に声を掛けてきたのは、タルケ・ハンクラインだ。

 今回、昇級を言い渡す役目をタルケが引き受けたのは、タルケ自身が願ってのことであった。部下の命を救って貰った礼を言いたかったことと、一人紹介したい人物が居たからだ。


「は、はい。お城を見た時は感動しましたが、今は凄く緊張しています」


「それなら狙い通りだね。早速だけど、これを渡すよ」


 タルケは、『階級7』が刻まれた銀色のプレートを翼へと渡す。

 翼がイメージしていたのは、王様の前で跪き、賛辞と共に昇級を言い渡される。そんな光景だったのだが、あっさり昇級は叶ったようだ。


「別に城じゃなくても良かったんだけどね、僕からのサプライズだと思ってよ。本題はさ、お礼を言いたかったんだ」


「えっ、そ、そうなんですか?」


「あぁ、ビネットのことだよ。僕の部下を救ってくれて本当に感謝しているよ、ありがとう」


 予想外な展開に翼が動揺していると、タルケの隣に居た男が口を開いた。


「ちっと、俺も話していいか。まぁ、まずは自己紹介か······」


 話し出した男がヴァンス・ウィルネクトと名乗ると、娘の名前も口にする。


「ティア、ミスティアの親父だ。娘を助けてくれてありがとうな、この借りは必ず返すからよ」


「えっ、ミスティアさんのお父さんですか。えっと、僕は白崎翼です」


「そりゃ知ってるよ。あのよ、借り返してぇから何か叶えたい願いとかねぇの?」


 唐突に叶えたいことを聞かれた翼は、ハンターランクを上げることや、家の家具を揃えたいことなどが頭を過るが、一番叶えたいことは別にある。

 そのことを考えると、独り言のように口に出してしまった。


「えっと、叶えたいのは······奴隷を無くすことですけど」


 この言葉を聞いて、反応した人間が2人居た。

 その1人はプリムだ、初めて会った日にも似たようなことを言っていた翼が、今でも同じように思ってくれていて、凄く嬉しく感じていた。

 そしてもう1人はタルケであった······プリムとは違い殺気に近い雰囲気を放っている。


「僕の前でそんなことを言うとは······君は、命が惜しくないようだね」


「おいおい、祝いの場でもそんなことを言うのかてめぇ。ティアの恩人に手を出すなら俺が相手になってやるぞ」


 この場の雰囲気に、翼とプリムの緊張が最高潮に高まっていく。

 その雰囲気も、悪くした張本人の溜息と共に和らいでいった。


「部下を助けて貰った借りは、さっきの発言を見逃すことで返しましょう。ですが、王へ反逆の意思がないかは聞かせてもらうよ」


「は、反逆の意思なんてないです。ただ······プリムのことは大事な『人』だって思っています」


「············」


 翼は、嘘偽りなく本音だけを話していた。この場でプリムを『奴隷』と言うことは、嘘になることも嫌だったが、曲げられない意思も示したかった。


 引かない翼を見て、タルケが無言の圧力を掛ける。その沈黙に口を挟めるのは、『階級1』のヴァンスぐらいだ。


「おうっ、この辺で解散だな。翼は俺と飯を食いに行くぞ、タルケもそれでいいな?」


「まぁいいでしょう。白崎翼、昇級おめでとう」


 タルケの言葉を最後に、この場はお開きとなる。翼とプリムは、ヴァンスに着いてこいと言われ城を出て行くことにした。


「なぁ、ドーガ。僕が怒った時、止めに入ろうとしてたね」


「は、はい。申し訳ありません」


(ドーガは妹と違って真面目だったのにね。妹のために必死だったんじゃなくて、白崎翼とプリムの影響で変わったのか······はぁ、あまり影響力があるのも困ったものだけどな)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る