第45話 ハンター仲間
闘う所や、狩りをする姿を見て貰った翼とプリム。
せっかく先輩ハンターであるミスティアとルッコスが側にいるのだ、もう一つ気になっていることを質問してみる。
「ちょっと聞いてもいいですか。あの、バッディオって魔獣は知ってます?」
「ん、知ってる」
「実は、ランクを上げられたらバッディオを目標にしようかってプリムと話してまして、強さとか知ってたら教えて貰えませんか?」
翼から質問されると、細かい説明はルッコスの担当だと言わんばかりに、ミスティアが目線を送る。
「そう言えば、もう時期繁殖期ですね。俺とミスティア様も何度か狩ったことある魔獣ですけど、強さで言ったらCの上位だと思いますよ」
Cの上位と言われても、正確に理解できない翼であったが、先ほど『DかCの魔獣までいける』と言って貰ったことから、ぎりぎり狙える範囲なのだと考える。
「それって、僕達でもぎりぎり狙えるんですかね?」
「え〜と、いきなりバッディオはオススメできないって所ですかね。もう少し経験を積んだ方が安全かと······まぁ俺は思うんですけど。ミスティア様はどう思います?」
「ん······バッディオ一緒に狩る。プリム役立つし、翼は経験積む。うん」
「あぁ、それは良い考えですね。流石ミスティア様。白崎様はどうです?」
「是非お願いしたいです。確かに、プリムならバッディオを見つけるのも早くなります。僕が言うのもあれですが、プリムのエアサークルは役に立ちますよ」
それとプリムのエアサークルは、魔獣の発見だけではなく、魔獣の種類まで特定できる精度があるのだと付け加える。
その証拠として、前の練習でスプーンやフォークまで見分けることができたことも話した。
「ん、優秀。バッディオたくさん見つけるの期待する」
「はいっ、役に立ってみせます。翼様、絶対繁殖期までにランク上げなきゃですね」
この後は、1日中草原での狩りを4人で行ってから別れることになった。
次一緒に行動する時は、森の中で魔獣バッディオを共に狩る。その約束をして――
「今日もお疲れ様です、翼様。4人で狩りするのも楽しかったですけど、次の約束ってわくわくしませんか?」
「そうだね。ミスティアさんもルッコスさんも良い先輩だし、僕もバッディオを狩る時が楽しみだよ」
「魔獣バッディオを恐いって思ってましたけど、今は全然恐くないです」
2人は、同じハンターであるミスティアとルッコスに出会えたことに感謝すると、いつか追いつき対等な仲間になれたらと願う。
今はまだ経験が足りな過ぎるが、謙虚に邁進して、隣に並べるようにとやる気を漲らせるのであった。
✩✫✩✫✩
ヴァリアンが捕まってから2日の時が経過しても、事件の後処理に追われているのは王国監査官や一部の騎士団達だ。
後処理の中には、団長を失った騎士団の再編成など、直ぐに解決できない問題もある。
その中でも早めに解決したい問題には、監査官の長であるタルケ自らが動き、処理に当たっていた――
「戻ったと聞いて伺ったのですが、事件の話は聞きましたか?」
「何の話か分からねぇな。それに俺の家にまで来るとは珍しい·······嫌な予感しかしねぇが、話してみろよ」
タルケが訪れていたのは、ミスティアの父親、ヴァンス・ウィルネクトが住む屋敷であった。
ヴァリアンの狙いがヴァンスであったことから話し、ヴァンスの動揺を誘うためにミスティアの命が狙われたことを報せる。
「はぁっ、なんだそりゃ。ティアは、ティアはどこだっ」
「落ち着いてください。娘さんは無事ですから、それにヴァリアンも捕まってます」
タルケが急いでヴァンスに会いに来た理由は2つ。
一つは、娘が狙われたことでヴァンスが暴走するのを防ぐこと。
もう一つは、20年前の事件。その真相を伝え、今後起きうる事態な備えることだ。
「この事件は、プルメリーナの事件にも関わるんです。詳しく説明するので、まずは大人しく聞いてくださいよ」
タルケが全ての真相を話し終わると、頭に血が上ったヴァンスも冷静さを取り戻す。
娘に手を出したヴァリアンを叩きのめすよりも、重要なのは今後の備えだとタルケが言いたいのが良くわかった。
「一つ言いてぇ。てめぇは2人と長い付き合いだったろうが、『漆黒の魔女』が犯人じゃねぇって気付けなかったのかよ」
「薄々は気付いていたんですよ。それでも僕が介入するべきじゃないって、あの時は思ってしまったんだ······」
タルケが長い付き合いとは言ったが、特別仲の良い関係でもなかったのが本当の所だ。
それでも、気付くことや聞いたことがタルケの行動を邪魔したのだ。
ヴァリアンがプルメリーナを疎ましく思っているのは、周りに居た人間なら知る事実であったが、プルメリーナがヴァリアンを友と呼ぶのは、タルケを含め数人しか知らない。
(ヴァリアンに嵌められたことに気付けたとしても、当人のプルメリーナが受け入れたっていうのに、僕が口を出したら······無粋にも程があるだろ)
いつも飄々としているタルケが険しい表情をしているのを見て、ヴァンスもこれ以上責めることはできなかった。
気を取り直して、今後の対策を話そうと言葉を掛ける。
「まぁそれよりよ、『漆黒の魔女』が復讐に来るってのは本当なのかよ。俺もお前も捕まえるのに関わってんだ、復讐の標的にされてもおかしくねぇからな」
「プルメリーナが本気で行動を起こしたら、僕でも止められる自信はないからね。だからこれを持ってきたんだ」
タルケが持ってきたのは、連絡用の魔導具であった。
「随分高価なもんを持ってきたな。二対あるが、俺とお前を繋ぐもんと······俺とティアの分でいいのか?」
連絡用の魔導具。2つで対となっており、対になった物を一つづつ持っていれば、離れていても会話ができるという代物であった。
この魔導具が高価な理由は、親子でのみ念話をする魔獣から取れる器官が素材であり、作るための素材が滅多に手に入らないのだ。
そしてヴァンスは、娘の分まで用意してきたタルケが、如何に本気であるのかを悟る。
「勿論。これで、協力体制を築いてくれるかい?」
「はぁ、今回ばかりは俺も願う所だ。何も起きねぇ方がいいがな······」
用件も済み、タルケがこの場から立ち去ろうとして一つ思い出す。
「そうだっ、大事なことを伝え忘れるところだった。娘さんを助けたのは、最近この世界に来た異世界人なんだよ。しかも、魔法を無効にする能力に目覚めたらしい」
「なにっ、ティアの恩人か······」
「娘さん以外に僕の部下も助けられたんだ。能力の覚醒も含めて、近いうちに昇級させるんじゃないかな。その時は連絡を入れるよ」
翼は自身の知らない所で、2人の大物に貸しを作っていた。
それが今後大きな意味を持つことなど、ヴァンスやタルケも思ってもみないのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます