第44話 御礼と願い
翌日も、意気揚々と家を出る翼とプリム。
昨日に引き続き、草原に居る魔獣を全力で狩るのだと張り切っていた。
――門を出て草原へと足を踏み入れると、少し先に赤い髪が特徴的な女の子が目に入った。
「ん、発見」
「おはようございます。えぇと、ミスティア様が白崎様とプリムに会ってお礼を言いたいと待っていたのですが、少しだけ時間いいですか?」
草原で2人に声を掛けるのは、ミスティアとルッコスであった。
自由奔放なミスティアでも、助けられた礼は人並みにしなくてはと考え、門の近くで翼のことを待っていたのだ。
「あっ、ルッコスさんとミスティア様だ。おはようございます」
「おはようございます。2人共元気そうで良かったです」
翼とプリムも挨拶する。
唯一知り合いになれたハンターに会えるのは、2人も嬉しく思い笑顔になる。
「ありがと。お礼したい、何がいい?」
ミスティアが翼を見つめ、礼は何が良いのかと問う。
そんなことをいきなり言われ、翼は戸惑い固まっていた。
「ん、何がいい?」
戸惑っている翼に催促するミスティア、ルッコスが助け舟を出そうかと迷っていると、翼がお願いしたいことを一つ思いついた。
「······じゃぁ、ちょっとお願いと言うか、質問してもいいですか?」
「ん。何でもいい」
ミスティアの言葉をOKだと捉えると、翼は最近気になっていたことを質問する。
「自分達だと、どれぐらいの魔獣までなら相手にできそうですかね?」
「······見る、一緒に狩りする」
「あの、ミスティア様は、一緒に狩りをして、2人の実力を見たいそうです」
この時、ミスティアは少し期待していた。
1ヶ月前に見かけたへっぴり腰の翼が、先日ヴァリアンの剣を受け止めた所を見ているのだ。ヴァリアンが魔法を得意としているとはいえ、その辺の新人にはできない芸当なのは確かであった。
「えっと、どうしたらいいですかね?」
「ん、いつも通りでいい」
この中で一番やる気を出していたのは、実はプリムであった。
翼とミスティアの会話を聞いて、自分のエアサークルを見てもらいたくて仕方がないのだ。
「翼様、格好いい所を見せましょう。私もミスティア様に教わったエアサークルを見てもらいたいので······全力でいきます」
早速プリムはエアサークルを使っていく。
最近のプリムは、エアサークルの使い方を工夫するようになっていた。
まだ国を出て間もない位置だったこともあり、円ではなく向かいたい方向へ扇状で使ったのだ。
「やっぱり、まだこの辺には居ませんね。もっと森の方へ進みましょう」
「うん。それじゃ行こうか」
翼とプリムが走り出すと、ミスティアとルッコスが後ろから2人のを観察する。
翼が手押し車を引きながら前を走り、プリムはその後ろから、時折エアサークルを使っているのが確認できる。
「翼様、右手方向にプラティオンを発見です。距離は、600メートルぐらいです」
プリムが魔獣を発見すると、翼は手押し車をその場に残して全力で走り出した。
(ん、速度はまぁまぁ)
「魔物じゃないですよね······」
翼は魔獣を発見すると、一声掛ける。そして何も言わずに襲ってきた所を一撃で仕留めた。
「良しっ」
(ん、首への一撃は悪くない······まだ声を掛けてる?)
――1時間で3体の魔獣を倒した所で、ミスティアが声を掛けた。
「ん、一旦待って。ん〜、ここじゃ測れない、かな」
「たぶん、草原の魔獣じゃ白崎様の実力は測りきれないって言いたいのかと。俺もプラティオンじゃ、能力的に格下すぎると思いますよ」
「それとエアサークル、私より上。それは凄い」
ミスティアの言葉数の少なさが、ルッコスの通訳を必要とさせるが、プリムを褒めた言葉に通訳は必要なかった。
プリムのエアサークルは翼も凄いとは思っていたが、教えたミスティアより上だとすると、プリムの才能が想像以上に凄いのだと実感する。
「えっ、えっ、もしかして私のエアサークル、褒めて貰ってます?」
「あぁ、俺から見ても凄いぞ。ミスティア様だって近くに発動させるのが基本なんだ、遠くを調べるって言っても、精々100メートルがいい所だ。そうですよね?」
「ん、本気出せば200いける」
ミスティアの言うことが本当だとしても、プリムはその3倍以上の距離を調べることができる。プリムが有能だと証明されれば、後は翼の番だ。
「ルッコス、翼と闘う?」
「俺が手合わせしますか······まぁ、それが手っ取り早いですかね。白崎様はどうでしょうか?」
「えっと、それじゃ胸をお借りします」
急遽ルッコスと手合わせすることになった翼は、どうしても動揺してしまう。それでも、自分がどれだけ闘えるようになったのかが知れると思うと、楽しみでもあった。
数ヶ月前、第4騎士団のゼレクト・マーベラルには、あっという間にやられてしまった。他には、模擬戦で手も足も出なかったビスディオ先生。
今回相手をしてくれるルッコスは、先日第4騎士団のザンに勝利している強者で、格上なのは確かだ。
(まだ4ヶ月ぐらいだけど、頑張ってきた成果を見せたいな······良しっ、やってやるぞ)
心の準備が整うと、武器の使用は控えた素手での闘いが始まった――
先制攻撃は翼に譲られ、ルッコスは様子を見ることから始める。
翼の拳が振られる度に、ルッコスが手を使い受け流し、蹴りに対しては足でガードして凌いでいく。
(ぐっ、蹴りの威力は結構高いな。パンチの速さも中々だし、防戦だけじゃ辛いか······)
翼を相手なら、素人だと余裕を見せるつもりであったが、ルッコスは何度か攻撃を凌ぐと考えを改める。少しでもダメージを与え、防御にも神経を使わせる方向に切り替えた。
翼の拳を躱し、腹にカウンターで一撃。そう考え、絶好のタイミングで放ったルッコスの拳は、予想外に空を切った。
(このタイミングを躱すのか······)
翼は闘いに集中できていた。身体中に行き渡るよう身体強化も施し、ルッコスの動きもよく見ている。
ルッコスが初めて攻撃に転じた瞬間も、翼は目で捉え素速く後ろへ飛び躱すことができたのだ。
(ふぅ、やっとルッコスさんも攻撃してきたな。こっからが本番ってことか)
対してルッコスも、考えを更に改めていた。手加減をして、ミスティアの前で負ける訳にはいかないと――
次の攻防も、仕掛けたのは翼からであった。技術面で敵わないのは仕方がない、それならと手数で勝負にでる。
ルッコスは又も防御に徹するような動きであったが、実際は違った。
最初は翼の拳を受け流していたが、何度目かの拳を受け流す瞬間、手首を掴むと脚払いと共に投げ飛ばした。
翼は、受け身を上手く取れずに背中を強く打ち付けてしまう。
草原がクッションになっていたとしても、呼吸がしづらくなる程度にはダメージを受けていた。
「ん、そこまで」
ミスティアは手合わせの終了を告げると、ルッコスに感想を話すように手で促した。
「失礼かもしれませんが、思ってた以上に白崎様は強かったですよ。経験を積むか、しっかりと師を取れば、もっと強くなれるんじゃないですかね」
「ありがとうございます、少しは自信がついた気がします。因みに魔獣だとどうですかね?」
「まぁ、魔獣で言ったら、DかCぐらいまでならいけると思いますよ。どうですかミスティア様」
「ん、翼は強くなる」
この時、初めてちゃんと認められた気がして、翼は嬉しいと感じていた。
そして、次は勝てるようにもっと訓練を頑張ろうと意欲を燃やす。情けない姿を見せるより、格好の良い姿を見せられるように。
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