第38話 力の差

 大地が揺れ、周辺を渦巻くように風が吹き出すと、ヴァリアンの恐ろしい瞳が翼達を睨みつける。

 その瞳には、翼の創り出した能力を力で捻じ伏せる意思が強く込められていた。


「私を邪魔する者に、制裁を。大地よ貫き、風よ吹き飛ばせ――」


 ヴァリアンが魔力に指向性を持たせると、まずは大地が蠢き出し、突起した地面が翼達に襲いかかる。

 更に、風が渦巻き、竜巻になるまで速度を上げる。それが4つ創られ、翼達を囲み四方から襲いかかった。


(うっ、うわっ。天変地異かよ······僕の能力って、これを防げるのか?)


 能力を発現した直後で何をしたら良いのか判らない翼は、心の中で防ぐことや守ることを只管念じていた。

 共に居る2人は、翼を守ることに専念する。翼を中心に、ドーガとミスティアは翼を守る姿勢で構えているのであった。


 突起した地面が翼の能力に触れる。すると魔力を消失したからか、地面が球体の周りで動きを止めた。

 そこへ、竜巻が襲いかかると、地面を吹き飛ばし球体へと接触して勢いを止める。


 だが、砕けた地面の欠片が翼達へと吹き飛んでくる。それは、ドーガが剣で打ち落とし、ミスティアが大剣で受け止める。そして竜巻も球体へと触れた後には、勢いを失くし緩やかな風へと姿を変えた。


「いつまで、保つ?」


 ミスティアが、翼の様子を見て声を掛ける。

 翼の額には大量の汗が吹き出し、息も荒くなっていたのだ。

 ヴァリアンの魔法が翼の能力へ触れる度に、翼は力を奪われるような感覚に襲われる。それに負けないよう、踏ん張った結果が今の姿であった。


「わ、分かりません。ず、ずっとは続けられないと思います」


「それでしたら、次耐えた後にでも仕掛けましょう。ウィルネクト様、どうでしょうか?」


「ん」


 ドーガの提案にミスティアが賛同すると、次の行動が直ぐに来るだろうと予想ができた。

 ヴァリアンの周りが電撃で弾けているのだ、直に放たれる電撃の狙いは、又も翼の能力であった。


 先ほど、地面の欠片が球体に阻まれなかったことは見ていたヴァリアンだったが、そんなことは関係がない。魔女の自負が、力で捻じ伏せること望んでいるのだ。


「白崎様、ビネットが意識を失った状態で病院に居ます。ここで私が命を落としたら、応援に来た者に声を掛け助けに向かって欲しいのです。それだけ約束してください」


 ドーガは凄まじい魔法を目にして、無事に切り抜けられるなど安易な考えは持ってはいない。せめて、次の魔法を創り出す間に接近し、剣を突き立てるのだと集中する。

 ミスティアも似たような心境だ、大剣を持っている手に力が入った。


 ――全員が次の行動に命を賭けると思っていた矢先、眩しい光が視界を一瞬奪っていった。


 翼が目を開くと、ヴァリアンの直ぐ側に人が立っているのが眩んだ目に映し出される。


「もう来てしまったのね、タルケ······」


「ヴァリアン、やっぱり君だったんだね。残念だよ」


 ヴァリアンの両手両足には、光の矢が深く刺さり動きが封じられていた。先ほどの光の正体は、タルケが使ったこの魔法だ。


「残念ね······ここへ来たのは貴方1人かしら?」


「そうだよ、僕だけだ。それがどうかしたかい?」


 先ほどまで激情していたヴァリアンであったが、冷静さは取り戻している。それでもヴァリアンは、タルケの言葉を聞いて最後の手段に出るのであった。

 ヴァリアンの足元から、静かに白蛇が3匹放たれタルケへと忍び寄っていた。


(もうこの出血じゃ闘えないわね······あぁ、せめてタルケにも私の力を教えてあげないと)


「はぁ、ヴァリアン。君には聞くことがたくさんあるから、生きたまま捕まってくれなくては困るんだ。僕には敵わないから、抵抗はやめなよ」


 タルケが尋常ではない速さで動き、ヴァリアンの首へと打撃を叩き込むと、ヴァリアンは眠るように倒れ意識を刈り取られた。

 それと、タルケの動いた跡には、頭の部分を小さな光の矢で貫かれた白蛇が身動きを取れずに蠢いている。それも、時間が少し立つと消えていくのであった。


 そうこれが、この国で『階級1』を持つ人間の実力であった。


「ふぅ、ドーガ。向こうに居る男は君が連れて行ってくれるかな」


 タルケがヴァリアンを担ぐと、ドーガへと声を掛ける。

 ドーガへ連れていけと言った男とは、ヴァリアンと共に居たザンのことだ。少し前にルッコスとザンの闘いは終わり、ルッコスがザンを引きずって歩いてくる。


「タルケ様、申し訳ありません。急用が、何にも替えられぬ急用がこざいます。ウィルネクト様、借りは返します、私の代わりをお願いします」


「んなっ、待っ」


 ドーガは闘いが終わりを迎えたことに気付くと、タルケの指示をも断って翼に声を掛ける。


「白崎様、ビネットの元へ急ぎましょう」


 翼は現状への理解が追いついていなかったが、ビネットの危機と聞いて動かない訳にはいかなかった。

 ドーガの後を追い、草原の方角へと走り出した。


 直ぐに草原が見えてくると、翼は一度ドーガへと声を掛けた。


「ドーガさん、プリムが待ってます。プリムはおいていけませんからっ」


 もう既に距離が離れたドーガへ、大声で叫ぶとドーガは慌てて戻ってくる。


「ど、何処です? プリムさんは、何処ですか?」


 少し東に向うと、翼が森へ入った位置になる。そちらの方角だと翼が言うと、ドーガが先に走り出した。

 そして、手押し車の傍で大人しく待っているプリムを見つけ、ドーガはプリムを抱えて翼の方へと又も走り出した。


「プリムさん、急を要するので失礼します。勝手に触れたこと、後で好きなだけ殴ってください」


「えっ、えっ。つ、翼様は? てゆーか、ドーガさん? ど、ど、どういうことですか?」


 直ぐに翼とは合流を果たすが、プリムに説明している時間はない。


 勿論理由を知れば、プリムは自分を置いてでも先に行けと言っただろう。

 今は何も判らず、手押し車を置いてきてしまったことが気掛かりなプリム。


 ビネットが意識を失ってから、もう1日が経過している。

 助かるか否かは、ビネットの生きていたいと願う気持ちに掛かっていた――

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