第32話 20年前の事件
――魔獣を狩る生活を始めて、1ヶ月が経過した頃。順調に魔獣を狩っていった翼は、魔獣ハンターとしてのランクをFランクからEランクへ上げることができていた。
「おめでとうっ、1ヶ月でランクを上げられるなんて凄いよぉ。前に会った時は何にも知らなかったのにねぇ」
「ありがとうございます、僕は生活のために頑張っていただけなんですけどね。闘うより、たくさん魔獣を見つけるのが大変でしたよ」
実際、プラティオン1体を狩って銅貨3枚では大した金額にはならない。その分多く狩る必要があるのだが、思ったより魔獣の数が少ないのか、1日に発見できた魔獣は、プラティオン以外の魔獣も含め多い日でも5体程度だ。
「だから凄いんだよっ。草原では1日に1体見つけるのがやっとだって聞いてるよぉ、森には魔獣がたくさん居るらしいけどねぇ」
「草原より先に進めるのは、Dランクからでしたよね?」
「そうだよぉ、EランクからDランクに上げるのはもっと大変だから頑張ってね」
草原の魔獣を1体狩ると、買取り所で金銭の他に1ポイントを貰うことができる。今回ポイントが100ポイント貯まったことでランクを上げることができたのだ。
Dランクへ上げるには300ポイントが必要なので、次は3倍の時間掛かることが予想できる。
Dランクに上がると草原より先に行けることもあり、次のランクが上がる時には実力審査もあるとの話しだ。
「はい、頑張ります。その時はまたお願いします」
✩✫✩✫✩
翼とプリムが、魔獣ハンターとして順調に成長している頃。ドーガとビネットは、事件の手掛かりが何も掴めずに苦戦する日々を送っていた。
(はぁ、全く手掛かりがないなんて······どうなってるのよ)
この1ヶ月、ビネットは精神攻撃を使える人間に会って話を聞いていた。
だが話を聞いても、怪しい素振りを見せる者は見当たらない。
能力を見ても疑問が残る。抵抗した形跡がないことから、かなり強力な能力だと予想しているのだが、そんな能力を使える者は見当たらないのだ。
(うちの新人はそんなに弱くないのよ。私が会った能力者じゃ、無抵抗で殺害するには無理があるし······本物の犯人が偽ってる可能性はあるけど、怪しい人は居なかったのよね)
ドーガの方も、手掛かりを掴むことができていない。幾ら聞き取りを行っても、新しい『漆黒の魔女』の目撃情報は出てこないのだ。
(そっちの線は関わりたくなかったんだけど。仕方ない、プルメリーナ・サスティヴァ様『漆黒の魔女』を調べるしかないか)
有名人である、『漆黒の魔女』ことプルメリーナ・サスティヴァ。ビネットは、表面上の情報は把握していたが、それ以上の情報を調べなければ、今回は意味がないと考えていた。
(20年前の事件からかなぁ、それならボスに聞くのが手っ取り早いよね。それより前はどうやって調べよう······)
現在ビネットが居るのは、王国監査官の本拠地となっている建物だ。
その最上階に、ビネットがボスと呼ぶ人物、タルケ・ハンクラインが居る。
――この日ビネットは、本拠地の最上階へとやって来ていた。流石のビネットでも、組織の長であるタルケに会う時は緊張する。それだけ、タルケは格上の存在なのだ。
扉をノックすると、中から「入れっ」と声が聞こえてきた。
「失礼します、監査官殺害の事件を調査しておりますビネット・クビラヘルです」
ビネットが扉を開けると、眩しいほどの金髪で、小柄な少年のような人物がソファーに座って居る。
この人物が、王国監査長であり、『光の一族』の長でもある、『階級1』を与えられたタルケ・ハンクラインであった。
「久しぶりだねビネット、まぁそこに座りなよ。なんだい、僕に聞きたいことって?」
「は、はい。し、失礼します。あの、事件の手掛かりが掴めない状態でして、『漆黒の魔女』のことをお聞きできたらと······」
「プリメリーナのことか······で、何が聞きたいんだい?」
「に、20年前の事件を、できるだけ詳しく教えて頂けますか?」
「そうか······キミは優秀だと聞いている。僕が知っていることは全て話そう、だから必ず事件解決に役立ててくれよ」
穏やかな顔つきから一変、真剣な顔つきになったタルケが、20年前の事件を語り出す。
その事件は唐突に起きた――
プルメリーナを含む女性の騎士団長が行っていたお茶会での出来事だ。
参加していたのは、当時第3騎士団長を務めていたプルメリーナ・サスティヴァ、第5騎士団長を務めていたヴァリアン・ミリーノ、第8騎士団長を務めていたルーシル・フェルクトル、第11騎士団長を務めていたサブリナ・ベルメスト、それとお付きの者達4人の合計8人だ。
お茶会の目的は、各団に起きた問題などを話したり、女性ならではの悩みなどを話したりと、力を合わせることを目的として集まっているのだった。
だがこの日、様子のおかしな者が1人居たのだ。
第8騎士団長のルーシル・フェルクトルが、第3騎士団長のプルメリーナ・サスティヴァに悪意を持って話し始めた。
騎士団の位としても、階級の位にしてもルーシルの方が低いのに、まるで挑発でもしている物言いで――
そんな挑発には乗らずに、プルメリーナは表情も変えずに受け流していた。だが第8騎士団に在籍して居た、プルメリーナの遠い親戚の話になると顔付きが険しくなっていく。
ルーシルが親戚の者を罵倒し、命の危険までを匂わせる。そして「私が殺したら、貴女はどうします?」と投げ掛けたのだ。
すると、プルメリーナは立ち上がり「貴女を殺すわ」と言い、手を前に突き出した。
すると、その瞬間にルーシルは命を落としたのだ。
「僕が聞いた、事件の始まりはこんな感じだ、続きも聞くかい?」
「は、はい······お願いします」
その後、その場に居た者から責め立てられたプルメリーナは逃げ出すことを選択する。
お茶会は第5騎士団で行われていたこともあり、その場に居た者と第5騎士団がプルメリーナを追う形になった。
上流区画から一般区画へ移動し、塀を破壊して国の外へ出ると、プルメリーナは別の追手に追い詰められることになる。
現れた追手、1人は今話しをしているタルケ・ハンクライン。もう1人はヴァンス・ウィルネクト、2人は階級1を持つ国の実力者であった。
最初は2人の追手を相手に応戦したプルメリーナであったが、突然と動きを止めた。
プルメリーナの視線は、闘う2人ではなく、自分が移動してきた跡を、破壊してしまった街を見つめているのであった。
「この後はね、プルメリーナは罪を認めて大人しく囚われの身になった。僕は裏があるとは思ったんだけどね、プルメリーナが全て自分の罪だと認めたから、これにて事件は解決ってなってしまったんだよ······」
「あの、お茶会に居た人達は何か言ってましたか?」
「プルメリーナが殺害した事実だけは目撃したと口を揃えていた、他は何も判らないと······」
「そうですか······ありがとうございます。貴重なお話でした、聞いたからには必ず事件を解決してみせます」
「············なぁ、僕達は恨まれていると思うかい?」
「えっ······どうなのでしょう」
タルケの話が終わると、ビネットは考え込む。事件が起きる前の経緯や、各団長とプリメリーナの関係性が分らない······。
それでも話の中に、今回の事件を解決する糸口がある。
そんな予感がするのであった――
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