第31話 訓練と狩り
プリムがミスティアから教わった魔法、エアサークルの練習をしている。
それを見てる翼は、サティア先生から習ったことを思い出していた。
(魔法の上達は、適性値に依存してるって話だったよな。でも、そっか例外もあるって言ってたっけ)
サティア先生の授業で言っていた例外。それは、適性値に関わらず、魔法を器用に操ることができる存在。
女性にだけ極稀に現れる、魔法に愛された者。この国では、そのような存在を魔女と呼ぶのだと教わった。
(魔女······魔法を得意とする女性の中で最高峰の称号だったかな。プリムが魔女か、それは流石に期待しすぎかな)
「翼様っ、椅子だと思います。どうです、当たってますか?」
「おぉ、正解。次はもう少し小さい物にするからね、当てられるかな」
エアサークルの練習を始めて、もう4時間は経過していた。
昼食を食べ終わり午後になると、プリムがどこまでエアサークルを使えているのかを確かめることにしたのだ。
(良しっ、次も当ててみせますよ。集中です)
翼は台所からスプーンとフォークを持ってくると、地面へと突き刺す。
(この違いは難しすぎるか。これができたら、将来は本当に魔女って呼ばれるかもしれないよな······)
プリムは、目隠しをされた状態で庭に立っていた。その場を動かず、自身を中心として周囲に風を創り出す。
創り出された風が、周辺をまるで手探りのように確認しながら、ゆっくりと拡がっていく。
(生えた草に小石、この辺は変わってないですね。翼様、どんなに小さくても当ててみせますよ)
風が触れた物は、プリムの脳内にシルエットとして映し出される感覚だ。
他にも、風で揺れる物は柔らかく感じ、草が生えている情報と組み合わさると、目を瞑っていてもプリムには鮮明に見えているような気がする。
(あっ、さっきまではなかった物を見つけました。ん? これは、地面から生えてるのかな)
スプーンとフォークを見つけると、風の円がサイズを変えずに固定され、何度も撫でるように発見した物体を確かめていた。
(地面から生えてる物は2つ、似てるけど少し風の通り方が違うかな······地面より上にいくと先端が大きい、だけど、その部分に違いがある)
ある程度物の形を風で把握すると、一度プリムの意識は家にある物を思い浮かべた。
物の形と大きさ、似ている物で先端だけが違う物を考えれば、答えは見えてくる。
「解りましたっ、スプーンとフォークですっ」
翼が驚いていると、プリムは目隠しをとって自分で答えを確認する。
「やった、正解ですね。あれ、翼様どうしたんですか?」
「いや、ちょっと凄すぎてびっくりしてる。ここまで正確に解るなんて思ってなかったからさ」
「私も正解できてびっくりはしてます。でもそれ以上に嬉しいんですけどね、次も絶対に当ててみせますよっ」
プリムがもう一度挑戦すると意気込んでいると、翼は別のことが気になり始める。
(どこまで正確に把握できるかも気になるけど、魔獣の位置を探るのが目的なんだ、エアサークルの範囲も知っておきたいよな)
「なぁプリム、今度はどこまで探知できるか調べてみない? 遠くまで把握できればめちゃくちゃ役に立つ能力だよ」
「あっ、そうですね。それなら、限界まで試してみます」
早速試してみることにしたプリムは、自身の周りにエアサークルを創り出した。
先程よりは速く円を拡げていくと、自宅とゆう障害物があるのに気が付く。
(あれ、大きい物があった場合はどうしたらいいのかな?)
風を迂回させるのか、自宅の上を通るのか悩むが、今回は上を通ることにする。
自宅の外壁を風が昇って行き、屋根まで到達すると、また円が拡がっていく。
(はぁはぁ、越えられました。これは、思ったよりも疲れるかもしれません)
エアサークルを途切れさせないための集中力が必要で、精神的に負担が大きい。それでも、限界を知るためにエアサークルを拡げていった。
(誰か人が居ますね、動いていると分かり易いです)
半径100メートルは拡げた辺りで、自分が何を見てるのか理解できなくなる。情報量の多さに、プリムの脳が悲鳴をあげていた。
「うっ、はぁはぁ。もう限界です······」
「だ、大丈夫っ? プリム凄い汗だよ、ちょっと休もう」
家に入りプリムをソファーに寝かせると、本日のエアサークルの訓練は止めにする。
プリムが休憩している間、翼は残りの時間で身体強化の訓練をして、今日という1日が終了する。
――翌日2人は、国を出て草原へと訪れていた。現在は、草原へと出て少し進んだ場所に居る。
「いよいよエアサークルの実戦ですね、役に立てると良いのですが」
「あんまり無理はしないでいいからね、ゆっくり上達していこうよ」
プリムの心は、翼の言葉よりも、役に立ちたいという思いの方が上回っていた。絶対に魔獣を発見してみせると意気込んで、エアサークルを発動させる。
エアサークルを拡げていくと、昨日よりも簡単に拡げられていることに気が付く。
(あれ、昨日よりも辛くないです。障害物が少ないからでしょうか)
目の前に広がる草は意識しないように、エアサークルを拡げていた。それが障害物が少ない点以外にも、負担が少なくなった要因だ。
昨日は100メートルが限界であったが、今日は200メートルほど拡げても限界は感じてこない。
「かなり遠くまで拡げられたんですが、魔獣はいないみたいです。先に進んでから、もう一度エアサークルを使ってみますね」
草原を更に進み、もう一度エアサークルを使うと、少し離れた位置に魔獣を発見することができる。
「翼様、何か生き物を発見しましたよ。大きさ的にプラティオンだと思うんですけど、あっちの方角です」
プリムが指を差して場所を示す。すると翼は、プリムへと声を掛け、指差す方向へ走り出した。
「先にちょっと見てくるね。プラティオンなら僕1人でも大丈夫だから、プリムは後から着いてきて」
走り出した翼にプリムも着いていくが、身体強化した翼はプリムよりも何倍も速く、あっという間に距離を離されてしまった。
そしてプリムが到着した時には、既に翼がプラティオンを倒していた。
「あれ、もう倒したんですか?」
「うん。前回は酷い目にあったからね、剣を使わないで倒したんだ」
翼は前回の経験から、プラティオンよりも自分の能力の方が大きく上回っていることは把握していた。
それと、前回プラティオンの買取価格が銅貨2枚と低くなってしまったことを考慮する。だから今回は、剣を使わず外傷を少なく倒すことを目標にしていたのだ。
「お疲れ様です。これなら、ちゃんと銅貨3枚で買い取って貰えそうですね」
「そうだね。良しっ、エアサークルも問題は無さそうだから、もう少し狩りをしてから帰ろうか?」
「はいっ」
草原での狩りは、プリムのお陰で順調に行える。
新人の魔獣ハンターでありながら、破格のスピードで魔獣を発見できる2人は、どんどんと経験を積んでいくことになるのであった。
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