第28話 国の外へ

 翼とプリムはハンター組合を出ると、門がある方向へと歩き出した。


 『トゥーレイ王国』では、高い塀を創ることで魔獣から国民を守っている。そのため、国の外へ出るには唯一の門を通って外へ出ることが法で定められていた。

 その門を通るのにも許可証が必要なのだが、その辺は問題ない、魔獣ハンターの証明書が許可証の代わりになるのであった。


「道は合ってるよな。高い塀で囲まれてるって習ったけど、中々見えてこないね」


「塀なら、近くに行けば直ぐに分かりますよ。私が居たプラントから見たことがあるんですけど、見たらびっくりすると思います」


 ハンター組合の場所は、上流階級の区画と一般階級の区画、その境に建てられていた。

 上流階級の人間も魔獣ハンターを職業にしていることから、この場所に建てられたのだが、ハンターからはよく不満が寄せられている。


「プリムが暮らしてた場所は塀と近かったんだ。未だに塀が見えないってことは、僕が思ってたよりもこの国って大きそうだな」


 そう、この国は広い。それが魔獣ハンターから寄せられる不満に関係していた。

 一番多く寄せられたものは、魔獣の素材を運ぶ場所が遠いこと、国に入ってからハンター組合まで運ぶことへの不満であった。

 だがこれは解決済みだ、街中を魔獣の死骸が運ばれる様子は環境的にもよくなかったこともあり、門の近くに素材の引き取り所を造ることで解決に至ったのだが、残された問題は手つかずであった。


 依頼などを受ける場合は、ハンター組合へ顔を出さなければならない。

 他にも様々な実績を報告したりと、ハンター組合への用事はあるのだが、ハンター自体が組合へ寄り付かなかったりと悪い環境は継続している。これが、ハンター組合に人が少なかった理由であった。


「私もこんなに大きな国だったなんて知らなかったです。でも外はもっと大きいんですよね、考えるだけでワクワクしちゃいます」


 遠い距離を歩いていても、プリムと一緒に居れば苦になることはないのではないかと翼は思う。プリムが楽しそうに話すのを聞いていると、時間が立つのが早く感じた。


(プリムの前向きな所って尊敬しちゃうよな、元の世界にこんな人居たのかな? こんなに素敵な心を持ってる人が『奴隷』だなんて、やっぱり許せることじゃないよ)


 ――2時間以上歩いていると、やっと国を囲う塀が見えてくる。


「あっ、あれが塀? 塀って言うより、壁って言った方がいいんじゃないかな······」


「そうですね。あれなら、巨大な魔獣が襲ってきても大丈夫そうです」


 塀を眺めていると、門があることにも気が付いた。門は塀ほど大きくはないが、それでも予想以上に大きく、門を見るだけでも壮観であった。


「うわっ、鳥肌が立ったよ。こんなに大きな門って、なんだろう、格好いいって思っちゃった」


「これを造った人は凄い人ですね、確かに格好いいです」


 感動しながら門へ近づくと、5人ほどの門番がこの場を管理しているのが見えた。

 門の出入りも確認できるのだが、大きな門は開いておらず、何回りか小さな扉で行き来しているのが見える。


「外へ出る許可証を見せてください」


 翼とプリムが近づくと、門番が声を掛けてくる。

 翼が魔獣ハンターの証明書を見せると、「新人ハンターさんか、気を付けてな」と優しい言葉を掛けてくれる。


「あ、ありがとうございます」


 門を抜けて国の外へ一歩踏み出すと、壮大な風景が翼とプリムを待っていた――


「おぉ、また鳥肌が······」


「わ、私も鳥肌が立ちました」


 膝下ぐらいに伸びた草が、視界の一面に広がる。青い空と一面に広がる草原、景色を害するものがないその様子は、鳥肌が立つほど美しく感じられる。

 この景色を見て、翼は初めてこの世界が自然豊なのだと知るのであった。


(遠くに山が見えるけど、草原がずっと続いてるな。人の姿も少ないし······それに、今の所魔獣はいないよな)


 草原の様子を見るだけの予定であったが、国を出て直ぐに戻るのも気が引ける。

 翼は、辺りを警戒しながら少し進もうかと考えていた。


「少しだけ進もうか? プリムは僕の後で周囲を警戒してほしい」


「分かりました。魔獣を見つけたらどうします?」


 翼の腰には剣を持っているのがわかるが、プリムは何も持ってきていなかった。元々国の外へと行く予定ではなかったので、重い大鎚は置いてきたのだ。


「街に戻りながら僕が闘うよ、プリムは武器もないんだから魔獣に近づかないことを意識してね」


「はい。一応そんな感じでいきますけど、私もいざとなったら拳で応戦しますからね。それじゃ、行きましょう」


 翼は腰にあった剣を手に持ち、ゆっくりと進んでいく。

 あまりにも周囲を警戒する姿が、他人から見ると滑稽に映るだろう。


(ふぅ、草からいきなり襲ってくるかもしれないよな、集中だぞ)


 当の本人は、真剣そのものだ。美しい景色のことなど忘れて、魔獣の存在に意識の全てを捧げていた。

 同時にプリムも周囲を警戒している。翼との違いは、近くだけではなく遠くまで見れていることだが、それでも十分緊張はしていた。


 せっかく国を出て草原を進むのだから、魔獣との初遭遇を経験したい。そんな気持ちもある2人であったが、果たして魔獣とは遭遇するのだろうか。


 そんな2人の様子を見て、何やら話し合っている者が居る。その者達は、翼とプリムの跡を、静かにつけて行くのであった――

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