第25話 同じ境遇

 見知らぬ『奴隷』に足早に近づいていくプリム、その後ろには焦りながら追いかけるビネットの姿があった。


「こ、こんにちは。少しだけ話がしたいなって、今大丈夫ですか?」


 プリムが声を掛けると、『奴隷』の男は声を出さずにプリムを見る······なぜ『奴隷』に声を掛けるのか、何が目的なのかと疑問を膨らませた。


「あのぉ、聞いてます。えっと、ほら私の手。同じですよね?」


 男はプリムの手にある紋様を見てやっと理解した、プリムが同じ『奴隷』を見つけて声を掛けてきたことに。


「まぁ同じだな······」


「ですよね。私、初めて会ったんです。なんだか嬉しくなっちゃって、我慢できなくて声をかけちゃいました。今は何をしてるんですか?」


「主人を待ってる······」


 プリムの後ろで、ビネットはとりあえず見守ることにした。一生懸命に話し掛けるプリムを、止めることができないでいたのだ。


「そうなんですね、私も同じですよ。そうだ、名前。私はプリムです。あなたは?」


 プリムが名前を聞いた瞬間、ビネットがプリムの腕を引っ張り、自分の後ろへ隠す。

 『奴隷』の主人が、凄い形相で向かって来るのに気が付いたからだ。


「ルッコス、こいつら何?」


「同じ『奴隷』みたいですね」


 髪の色が真っ赤で小さな女性が、この『奴隷』の主人のようだ。プリムとビネットを睨みつけながら、自身の『奴隷』に何が起きたのか問いかけていた。


「ごめんなさいね、私は案内人のビネット。ビネット・クビラヘルと申します」


 ビネットの胸には『階級5』のプレートが付いており、相手の胸には『階級7』のプレートが付いていた。

 それでも、謝罪して丁寧に挨拶をするのは、プリムと翼の今後を考えてのことだ。


「案内人。何でこんな所に案内人が居る?」


(何この小娘。私がちゃんと名乗ってるのに、挨拶もできないって言うの······)


「案内をしている異世界人の方が、魔獣ハンターを希望しております。その付き添いで参りました」


「ふ〜ん。で、何か用?」


(こ、この娘。私に喧嘩売ってる?)


 ビネットの顔に、青筋が浮き立たつのをプリムは見てしまった。

 絶対に怒っていると確信したプリムは、上流階級の人間相手に喋ってはいけないと判っていたが、一か八か話し掛けることにした。


「ご、ごめんなさい。私が勝手に声を掛けてしまったんです。同じ『奴隷』に会うのが初めてで、話してみたかったので······」


「ルッコス、どうする?」


「少し話して、忠告などできればと」


「これから狩りに行くから、5分」


 まさか話す時間を設けて貰えると思わなかったプリムは、どうしたら良いか分からず固まってしまっていた。

 その姿見た『奴隷』の男は、さっきまでの勢いはどうしたのかと思いながらも、自己紹介をする。


「俺はルッコスだ。プリム、声を掛けてくれてありがとう」


「あ、いえいえ。あの、私のご主人様は凄くいい人なんですけど、ルッコスさんのご主人様もいい人なんですね」


「あぁ、そうだな。それより、戦闘の経験はあるのか?」


「戦闘経験はありません。でも3ヶ月ぐらい訓練はしましたよ」


「ちゃんと身体強化ができてないと、命の危険があるからな。魔獣を甘く見るなよ」


「そうなんですね、私の身体強化じゃ厳しいかもしれません。忠告ありがとうございます」


「あぁ············それじゃぁな、無理はするなよ。ミスティア様、行きましょう」


「ん」


(こいつ、んってどんだけ短い返事なのよ。『階級7』に名前はミスティアか······なんか、聞いたことあるような気がするな)


「ビネットさん、いい人達でしたね。でも、ビネットさんの顔を見た時にはびっくりしましたけど」


「いい人、まぁ判断に迷う所ね。でも、ありがとう。プリムちゃんのお陰で喧嘩にならないですんだわ」


 一方翼は、ビスディオがハンター組合の人間と何やら揉めているのを、後ろから冷ややかな目で見守っていた。


「だからよぉ、俺が説明は済ましたから大丈夫だって言ってるだろ」


「そう言われましても、組合のルールは守っていただかないと······」


「会長は居ないのかよ、知り合いだから呼んでくれって」


 ビスディオは、翼が『トゥーレイ特階級高等学校』で魔獣ハンターについて教育されていることを理由に、講習を免除して貰おうと交渉をしていたのだ。


「あのぉ、ビスディオ先生。僕的には講習受けたいので、無理を言って貰わなくても······」


「そうか、同じような内容を聞くことになるんだぞ」


 魔獣ハンターの先輩として良い所でも見せたかったのか、無理を言う姿は、教師とは思えないほどに強引なビスディオであった······


「それではこちらの個室で講習を行いますので、着いて来てください」


「翼、俺はプリムの所に戻ってるからな。頑張れよ」


 ようやく講習が始められる――

 翼は真面目に話を聞いていると、ビスディオが言っていた通り、ここでの話は既に習った内容と同じものが殆どだ。


 それでも翼は、大事な内容はメモをしていく。

 一番大事な内容はこれだろうと翼が考えたのは、魔獣と『魔物の国』の国民を間違えてはいけない。あまり聞いたことがない内容であった。


(魔獣を狩る前に声を掛けるのは、どう考えても不利だよな。似たような見た目で、意思を持ってるか持ってないかの違いなんて本当なのかな)


 言語魔法のお陰で、魔物の言葉も理解できるのだ。魔獣は言葉を持たないので、声を掛けて判別するのだと言う。


 他には、先に魔獣を発見したハンターに権利があるとか、ハンター同士での争いは禁止だとか、よくありそうな内容を説明される。

 それと大事なことがもう一つ、魔獣ハンターとしてのランクが低いと、行動範囲を指定されるようだ。それは、実力の伴わない者を守るためのルールであった。

 基本的なことだが、依頼の受け方や素材の持って行く場所などの説明は、翼にとって有り難かった。


 時間的には、2時間も掛かっていない。ビスディオはどれだけ気が短いのかと思いながら、翼は講習を終えるのであった。


「お疲れ様でした。魔獣ハンターの証明書を受付で受け取ってから、帰ってくださいね」


 白崎翼・Fランクと書かれたプレートを受け取り、本日のハンター組合でのやることは全て終了となった。


 ――帰り道では、プリムの行動を聞いてびっくりもしたが、プリムが良い人達だったと言ったことで安堵する。

 これからも楽しみだと、4人で楽しそうに帰っていくのであった。

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