第24話 ハンター組合
『トゥーレイ特階級高等学校』の運動場にて、凡庸な剣を振り回すのは白崎翼だ。それと、その周りの地面をでこぼこにしているのはプリムの大鎚であった。
「多少は剣術も様になってきたがよ、まだまだだぞ。本当に得物はそれでいいのか?」
「はい、素速い魔獣や、プリムとの連携を考えたら、僕は剣かなと思いますので」
――魔獣ハンターになると宣言してから、直ぐに魔獣の種類を学ぶ機会が訪れる。すると翼は、魔獣が多種多様に存在する事実を知るのであった。
その日の夜に、翼とプリムは連携について話し合った。
能力値や身体強化の練度を考慮して、翼が前に出て囮役を務めることを主張する。そこで速さを求めた結果が、大剣ではなく剣を選択する結果となったのだ。
プリムは、翼と魔獣が戦闘している隙を見て、大鎚で大きなダメージを与えるのが役割となる。
プリム的に納得してはいなかったが、身体強化や武術も翼より上手くできないため、今は反論ができなかったのだ。
「魔獣ハンターになってからも、訓練はできるからな。無理せず上達してから実戦に移すんだぞ」
「勿論です。なるべくプリムを危ない目に合わせたくないですし、自分の力がまだまだだって自覚してますから」
この時には、特別指導の期間がもう残り3日となっていた。
そして翌日には、魔獣ハンター経験者ビスディオの提案で、ハンター組合で翼の登録をする予定であった。
「良し、今日はここまでだな。明日は朝からハンター組合に行く、初日は長ったらしい説明があるから覚悟しとけよ」
「覚悟って。先生と違って、そういうの僕は大丈夫ですから······」
この日、帰り道からずっとご機嫌なのはプリムだ。久しぶりに、翼と知らない場所へ行けることが嬉しくてはしゃいでいた。
「ほんっとに、楽しみですね。魔獣ハンターってどんな人が居るんですかね?」
「魔獣ハンターは、色んな階級の人が居るらしいから、良い人と巡り合えたらいいよね」
騎士団は、殆どが上流階級の人間で構成されている。対して、魔獣ハンターは一般階級も居れば上流階級も居るらしい。だが、上流階級の人間は少なく、変わり者が多いとの噂だ。
「そうですよね。それと目標はどうしますか、早くランクを上げて最強のハンターを目指します?」
「プリムは気が早いな、実戦はもっと力を使い熟せてからだからね」
――翌日、翼は早くから目を覚ますと、庭に出て訓練を開始していた。
(以前よりは身体強化も上手くできるし、継続もできるようになったな。今日は人が居る場所にプリムを連れて行くんだ、集中していかなきゃ)
第4騎士団での出来事がトラウマになっていた翼は、ハンター組合に行くことよりも、プリムを人前に連れて行くことに意識を割いてしまう。
嫌な想像をしていると、プリムから声が掛かった。
「翼様、朝ご飯できましたよ。一緒に食べましょう」
気を取り直して朝食を食べてると、予定した時間よりも早く迎えがやってきた。
「白崎様、プリムちゃん、おはよっ」
「あれ、ビネットさん。今日はどうしたんですか?」
ビネットが来たことに驚いている理由は、本日はビスディオが案内をしてくれる約束だったので、前日ドーガへと、案内は不要だと伝えていたからだ。
「心配だったから来ちゃった。それにね、今日で2人の案内人はおしまいなんだから、断らなくてもいいでしょ」
今日を含め残り2日の特別指導だ、順番制での案内にしたため、明日の最終日がドーガで、ビネットは今日が最終日になっていた。
「そっか、ビネットさんに会えなくなっちゃうんですね。それは寂しいです」
「もうっ、会えなくなるは言い過ぎ。案内人が最後ってだけ、プリムちゃんには絶対に会いにくるから安心して」
「それは嬉しいです。そうだ、まだご飯の途中だったんです。ビネットさんは朝ご飯食べました?」
「食べてきたけど、プリムちゃんの手作りかぁ、それならちょっとだけ摘んじゃおうかな。それじゃお邪魔します」
(この2人、めちゃくちゃ仲良くなってるよな。2人を見てると、『奴隷』は人じゃないなんて、そんな国だと思えないよ)
朝食も食べ終わり、楽しく雑談をしているとビスディオが迎えにくる。
すると4人は、予定通りハンター組合へと向かうことにするのであった――
(ここがハンター組合かぁ、アニメに出てくる冒険者ギルドって感じだな)
到着して、翼が見た目の印象を頭の中で考えているうちに、3人は中へと入っていく。
翼も急いで中へと入りあたりを見渡すと、外で思ったことをもう一度繰り返す。
「ちょっと受付に行ってくる、翼は着いてこい。2人は待っててくれ」
(このビスディオって教師も、プリムちゃんのこと人って言うんだ。私が監査官だって知ってるでしょうに、ほんと大丈夫?)
ビネットがビスディオの言葉に衝撃を受け、よくよく考えて呆れていると、プリムがビネットの袖を引っ張りながら輝いた瞳で何かを言っていた。
「ビネットさん、聞いてます?」
「ごめん、ちょ、ちょっと考え事してた。どうしたの?」
「あの、あそこ見てください。あの男の人です、『奴隷』ですよね?」
プリムの視線には、屈強そうな男が佇んでいた。一見ただの魔獣ハンターだと思えるが、手にはプリムと同じ紋様が刻まれている。
「そうみたいね。1人ってことはないでしょうから、主人を待ってるんじゃない」
「それって、チャンスですよね。ちょっと行ってきます」
「えっ?」
ビネットは完全に油断していた。着いて直ぐに、プリムがこんな行動を起こすとは思ってもみなかったからだ。
当のプリムは、自分の行動を止めることができなかった。それも仕方がない、プリムが出荷されてから3ヶ月、初めて同じ境遇の『奴隷』を発見したのだ。
仲良く話ができる、そう信じてプリムは近づいて行くのであった。
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