第23話 選んだ道
――『トゥーレイ特階級高等学校』へ通い始め、早くも2ヶ月の時が経過していた。
この2ヶ月の間に、第4騎士団以外からも招待を受け、翼は他の騎士団にも顔を出したのだが、プリムがお願いしても翼は連れて行くことはしなかった。そのせいで、プリムは座学と実技の授業を受けるだけの日々が続いていた。
本日も、午前はサティア先生による座学の授業からだ。
「あっという間に2ヶ月が立ちましたね。残り1ヶ月、白崎さんは身の振り方を決めていかなければいけません」
以前にも聞いていたが、残りの1ヶ月が経過したら何かしらの仕事に就かなければならない。
「残りの1ヶ月もあっという間なんでしょうね。僕なりに考えてることは一応ありますので、後で相談させて貰えますか?」
翼は授業で聞いた情報と、プリムのことも考慮して今後のことを考えていた。
「白崎さんならちゃんと考えてると思いましたよ。それに、そろそろ白崎さんが行う仕事を元にした授業に切り替えようと思っていたので、できれば今相談してください」
「分かりました。それではまず、僕が就こうと思う職業······それは、魔獣ハンターです。でも相談と言うか、魔獣ハンターについて全般的に教えて欲しいんですよね」
翼が魔獣ハンターになろうと考えていることは、今初めてプリムも聞く。
そのことについてはプリムも不満があったようで、話に割り込むのであった。
「翼様、騎士団に入るんじゃないんですね。良い騎士団がなかったんですか?」
「あぁ······第4騎士団に行った日から、実は騎士団に入るつもりはなかったんだ。それに、授業で魔獣ハンターは稼げるって聞いた時から興味はあったんだよね」
プリムは、騎士団の中に『奴隷』の解放を企む人間が居ると信じていた。このことは、未だに翼には伝えていない。
そして、その情報を手に入れるには、騎士団に所属するのが最善だと考えていたし、翼が他の騎士団にも顔を出してるのを見て、騎士団に入るのが当たり前だと思い込んでもいたのだった。
プリムの考えなど知らない翼が魔獣ハンターを選んだのは、プリムのことを考えてのことでもあった。
騎士団に所属しては、一緒に行動するのは難しくなる。そうなると、プリムは家で留守番の日々が多くなり、外に出たがるプリムにとっては良くないだろうと考えたのだった。
他にも、2人で強くなりたいとか、稼いだお金で家具を揃えたいとか、階級での差別がある分、魔獣よりも人間のが危険だとか、翼は色々と考えて決めたことでもあるのだ。
「むぅ、大きな決断の時は相談してくれてもいいと思います······」
珍しく不満を見せるプリムを見て、翼は意外だと思ったが、直ぐに反省する。
「プリムの人生にも関わることだもんな。そこまで頭が回らなかったよ、ごめん。まだ決まった訳でもないからさ、ちゃんと話して決めようか?」
「えっ、あっ······翼様が謝ることはないです。あの、ちょっと寂しかっただけですから」
拗ねて変なことを言ってしまったと、プリムは顔を赤くしていた。
翼に隠し事をしている自分が全て悪いのだと考えると、翼とはいつか何でも話せるようになりたいと強く思った。
「白崎さんもプリムさんも、また考えが変わったら言ってください。とりあえず、今日から魔獣ハンターについて詳しく説明していくことにしますね」
サティアが、2人の会話を聞いて気を利かせてくれる。この後始まった授業は、魔獣ハンターの成り立ちから語られたのであった。
午後の授業である実技でも、翼の進む道が共有されていく。
ビスディオ先生からは、魔獣ハンターに必要な技術や、おすすめの武器などを教えて貰えるようだ。
「翼が魔獣ハンターを選ぶとは思わなかったぞ、だが俺は嫌いじゃない。残りの1ヶ月で全てを叩き込むからなっ」
元々熱い人だが、今日は特に熱を放っていた。
翼とプリムは、若干引きながら話を聞いていると、ビスディオ先生は勝手に自分のことを語り始める。
「実はな、昔俺も魔獣ハンターをやってたことがあるんだ。多くの魔獣と闘った経験もあるし、魔獣の生息域もある程度は知っている。これからは、先輩だと思って頼りにしていいからな」
どんどんと話が進んでいくと、自分も魔獣ハンターであった話から、おすすめの武器へと話が変わっていく。
「最初は大剣や大鎚のような威力重視の武器がおすすめだな。技術が伴ってきたら、急所を一撃で仕留められる武器に変えてもいい」
ビスディオ先生は更に詳しく説明してくれる。魔獣の駆除や、肉を目当てで狩るのなら、大剣や大鎚でも問題はないのだが、素材を目当てで狩る場合はなるべく傷をつけないで狩れるレイピアのような武器が良いのだと言う。
初心者に大剣や大鎚をおすすめする理由としては、技術もそうだが、レイピアなどの細い武器では壊れてしまうことと、威力が足らないとダメージを与えられない魔獣が存在するからであった。
「プリムには大鎚がいいんじゃないか、叩き潰すだけで魔獣を倒せるからな」
ここ最近の話なのだが、ビスディオ先生がプリムにも普通に接するようになっていた。
プリムが『奴隷』だから無視をしていた訳ではなく、人の持ち物である『奴隷』への接し方がわからなかっただけだったようだ。
いつも後ろで、翼と同じように訓練をしているのは見ていたのだが、困っている姿が目に入り、アドバイスをしたのがきっかけで話すようになったのであった。
「大鎚ですか? 私はスマートで格好いい武器がいいです」
「身体強化も最近できるようになったんだぞ、技術もクソもねぇのに我儘を言うんじゃない」
話をするようになって間もないプリムだったが、ビスディオ先生は話しやすいようで、翼とビネットの次ぐらいには仲良くなっていた。
この後は、ビスディオ先生が色々な武器を持ってきてくれて、扱い方の指導や素振りなどをして授業は終了する。
そして家に帰り、翼は夕食を食べながら「今後のことをちゃんと話そう」と切り出すのであった。
「そうですね、魔獣ってどんなのが居るかとかも調べなきゃですよ」
「う、うん。そうなんだけど、そうじゃなくてさ······」
「あれですか、まずは連携をどうするか決めます?」
「確かに連携も大事だけど、そうじゃなくて」
「魔獣ハンターやりましょう。翼様と一緒に行動できる魔獣ハンターのが、騎士団より何倍も良いですからね」
「えっ、いいんだ······プリムが良いなら僕もいいんだけどさ。それじゃ魔獣ハンターについて話そうか」
これからも2人で行動できる話をするのはとても楽しみで、寝るまでの時間がいつもより早い気がする。
(『希望の書』に書ける内容を探すよりも、大事なことはあるんですね。焦っても仕方ないですから、翼様とゆっくりと前に進んで行きたいです)
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