第22話 力のある一族

 プリムが聞きたかったもう一つのこととは、第4騎士団の団長、ヴァリアン・ミリーノという人物についてだ。


「翼様と接している時は、優雅な大人の女性って感じなのに、私にはすっごく怖い目で睨みつけてきて······そのギャップも変だと言うか」


「第4騎士団だと、『白銀の魔女』だね。そっか、そういうことかぁ」


 ビネットが1人納得しているのは、プリムを睨みつける理由が思いついたからだ。だが、このことをプリムに話すかどうかが悩ましく、ビネットは適当な言葉を発しながら考えるのであった。


(プリムちゃんに関係があるとは言い切れないし、余計な心配をさせちゃうかな? でも知っておけば、事前に気を付けることもできるよね······後はどこまで話すか、かな)


「少し話が長くなるけど、聞く?」


「勿論です。是非聞かせてください」


 そしてビネットが語りだしたのは、この国ができる前の話。王様が訪れ、『トゥーレイ王国』が建国される、それ以前の話であった。


 ――元々この土地には、小さな村が幾つも密集しており、建国される前には力を持った3つの一族が周辺の安全を確保する形で生活が成り立っていた。

 それでも、魔獣の被害は絶えることなく、決して豊かで平和な暮らしではなかったのだ。そこへ王が訪れることによって生活が一変した。


 ここまで話すと、ビネットはこの話は別の機会にと言って話を戻す。


「3つの一族の1つが『白の一族』。『白銀の魔女』はその末裔って所ね」


「『白の一族』、確かに真っ白で綺麗な人でした。それが、どう関係するんですか?」


 次にビネットが話すのは、『トゥーレイ王国』が創られてから、少し時間が経過してからの話だ。

 平和で豊かな生活にはなったが、差別を助長する政策は、一族の間で亀裂を生むきっかけになってしまう。ヴァリアンが一族の代表になる頃には、『白の一族』には常に比較される別の一族があったのだ。

 比較されていても、切磋琢磨できる仲ならば良かったのだが、周りからの評価は『白の一族』の方が低く、常に上にいる存在が『黒の一族』であった。


「プリムちゃんは、黒い綺麗な髪だからね。『白銀の魔女』が睨みつけたのは、それが理由じゃないかしら」


「えっ、じゃぁ私は『黒の一族』ってことですか?」


「ごめんごめん、そうとも限らないから。白崎様も黒髪でしょ、それにいろんな色が混ざれば黒っぽくもなるしね。黒髪だからって『黒の一族』って訳じゃないのよ」


「それじゃ、翼様も睨まれるんじゃないですか? 私だけって、やっぱり変です」


「あぁ、えっとね。一族で比較された話をしたけど、『白銀の魔女』には同じ団長として比較されてた人物が居たのよ」


 ビネットがはっきりと喋らないのは、次にする話の中にはプリムに聞かせたくない内容が混ざってしまうからだ。

 そこには触れないようにして、ビネットは話し始める。


「『漆黒の魔女』、『黒の魔女』とも呼ばれていたかな。その女性は、とても美しくて優秀な方でね、次に『階級1』に昇格するのはこの人だって言われるほど、凄い人だったの」


 その女性と比較されていた『白銀の魔女』こと、ヴァリアン・ミリーノ。

 黒髪の女性とゆう共通点が、プリムだけ睨まれたのだとビネットは話すのであった。


「女性だから私だけ睨まれたんですね。確かに翼様は異世界人って確定していますし、私だけってのも判る気がしてきました」


「そ、そうゆうことよ。因みにもう一つの一族はね『光の一族』。私のボスがその末裔なんだっ」


「『光の一族』。何か格好いいですね」


「でしょっ、凄く若く見えて、顔も格好いいのよ。何より『階級1』なんだよ、凄くない?」


「本当に凄い人じゃないですか、もしかしてビネットさん、その人のこと好きなんですか?」


「えっ、わかっちゃう。プリムちゃんだけに言うけど、内緒だからね。私なんかじゃ釣り合わない人なんだけどさ、好きになるのは自由なんだから」


 ビネットの思惑通り、恋話にプリムは食いついてくる。

 翼のことはどう思っているのかなど、恋の話は終わることなく盛り上がり、この後に『漆黒の魔女』の話題が出ることはなかった。


「結構な時間になっちゃったね、白崎様にもお土産を買って帰ろうか」


「はいっ、凄く楽しくて元気が出ました。翼様は、私が楽しくして元気になって貰います」


 ――プリムが家に帰ると、翼は訓練に没頭していた。昨日は声を掛けられなかったが、今日は大丈夫。プリムは元気いっぱいで、前を向いているんだから。


「夕食はこれから作りますけど、その前にケーキ食べてください。このケーキ、私も食べたケーキなんです」


「そ、それじゃ夕食の後にデザートで頂くよ」


「そんなこと言わないで、今食べてくださいよ。感動するほど美味しいんですから」


「しょうがないなぁ、それじゃ食べようかな」


 皿とスプーンをプリムが持ってくると、翼はケーキを食べてみる。そのケーキは、美味しい生クリームと甘酸っぱいフルーツが乗っていて、日本のことを思い出す味であった。


「うん、凄く美味しいよ」


「でしょっ。私もこんな美味しい食べ物があるなんてって、凄く感動したんです」


 翼は美味しいケーキなんかよりも、凄く楽しそうに話すプリムを見て思う。


(ビネットさん、どんな魔法を使ったのかな。プリムをこんなに元気にするなんて、凄い人だよな)


 翼の言い方だと、プリムも凄い人になる。プリムの顔を見て、翼もいつの間にか気分が晴れていたのだから。


✩✫✩✫✩


 プリムと別れた後のビネットは、プリムとの会話で思い当たってしまったことについて考えていた。


(プリムちゃんの年齢と、時期的にもあり得るよね。あんなに綺麗な黒髪だし、『黒の一族』である可能性は高い。それに、悪い噂も聞いてるし、何かしら事件に巻き込まれないといいけど······)

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