第18話 初めての招待
早く起きたプリムは、身支度を終え自分の部屋へ行くと、大きな窓から降り注ぐ朝日をたっぷりと浴びていた。
「とってもいいお天気です。この部屋、最高ですよね」
独り言が出てしまうほど、自分の部屋を気に入っているプリム。身体中に陽の光を浴びて元気が溢れ出すと、今日という一日がとても良い日になる予感に、自然と笑顔になっているのだった。
――上流区画へ移動してから、自分の部屋が貰えたことや、知らないことを学ぶこと、新しい暮らしに満足した日々も一週間が経過していた。
それと、『トゥーレイ特階級高等学校』へ行くにも、食材の買出しに行くにも2人は行動を共にしている。そんな姿を傍から見ると、まるで恋人のように見えるのであった。
家に帰れば、プリムが夕食の支度をして、翼は庭で身体強化の練習をするのが日課になりつつある。恋人とゆうより、新婚だと言っても良い生活であった。
「ふぅ〜、やっぱり身体強化を全身でやるのは難しいね。長時間やれるようになるのはいつになるんだろう······」
「翼様、そんなに焦らなくてもいいんじゃないですか。ビスディオ先生も上達が早いって褒めてくれてたじゃないですか」
翼も、理由がなく鍛えているのではなかった。座学の授業で教えられたこと、3ヶ月のサポート期間が終了した後は、翼も何らかの仕事に就かなければならない。
能力値の高い上流階級の人間は、主に戦闘に関わる仕事に就くことが定められている。その情報を聞くと、3ヶ月は短過ぎる。
「それでもさ、力を使い熟せていた方が何かと便利だと思うんだ。それにね、良い仕事に就ければ給料だって多く貰えるから」
現在の生活は、何不自由なく暮らせているのだが、好きな物を好きなだけ買うことはできていない。
翼が給料を多く貰いたいと思うのは、自分達の欲しい家具など、将来的に高価な買い物もしたいと願ってのことであった。
「確かにそうですね。それじゃ、私もできるだけサポートします。一緒に頑張りましょう」
(プリムの笑顔が見たいなんて、恥ずかしくて言えないよな)
高価な物の中には、プリムの部屋に必要な物も含まれている。まだベットなどもなく、自分の部屋で寝ることもできないのだ。
――翌日、いつものように翼とプリムは『トゥーレイ特階級高等学校』へと到着すると、教室へと入って行った。
この一週間、座学に実技と同じような日々が続いていたのだが、今日は特別な用件が翼に待っている。
「おはようございます、白崎さん。ちょっと授業の前に、午後の予定を話しておきますね」
サティアが翼に話す予定とは、能力値の高い者になら必ず訪れる――そんなイベントだ。
「第4騎士団からお招きがありましたよ。本日の午後、第4騎士団の拠点へと来て欲しい。団長がお話がしたいと連絡がありました」
『トゥーレイ特階級高等学校』では、翼のような異世界人だけでなく、学校に通う生徒達も同様に招待を受ける場合がある。
どの仕事に就くのかは自分で選ぶことができるのだが、前もって環境を知れるのは大きい。それに、相手方が欲していれば、高待遇で雇って貰える場合もあるのだ。
「騎士団に行くんですか。えっと、行ったら何をすればいいんですかね?」
「特にしなければいけないことはありませんよ。何かをしたいと言うなら、礼儀正しく、自分の長所をアピールすれば良いと思います」
今後のために、良い印象を与えることに越したことはない。サティアのアドバイスはそんな所だ、あと翼自身も相手を観察すべきだと言うが、この世界をまだまだ知らない翼には難しいだろう。
(何だか面接に行くみたいだな、まぁ行ったことないんだけど······緊張しちゃうな)
――座学が終わると、いよいよ第4騎士団へと向うことになる。
「少し早いですが、今日の授業はこれまでにします。第4騎士団までの地図を渡しますので、判らないことがあったら今のうちに聞いてくださいね」
第4騎士団の拠点までは、案内人に連れられて行くのではなく、地図を見て向うようだ。
上流階級の区画は、規則正しく道が作られているため、異世界人の翼でも地図があれば1人で到着するのも難しくはない。
「翼様、騎士団ってどんな所なんでしょうかね、ちょっとワクワクします」
「僕的には、鎧を着た屈強な男達が訓練してるイメージだな。何か、かっこよさそうだよね」
地図を見ながら、翼とプリムが話していると、サティアが不安そうな顔で声を掛けてくる。
「プリムさんも連れて行くつもりですか?」
「えっ、深く考えてなかったんですけど、プリムを連れて行ったら危険ですかね?」
「招待された身ですから······危険はないと思いますが、良い印象ではないと思いますよ」
サティアの話を聞いて、翼がプリムに家で待っているかと聞いてみた。
「お留守番なんて嫌ですよ、私も行きます。私だって、騎士団は見てみたいです」
(騎士団と言えば、『奴隷』解放を企んでいる可能性があるんですよ。この機会を逃す訳にはいきませんからっ)
プリムは、まだ翼にも言えていない理由で騎士団を見ておきたかったのだ。それでも、翼に負担を掛けることには、心苦しい思いがあった。
「そんなに行きたいなら一緒に行こうか。危険がないのなら、僕は構わないからさ」
翼の判断は、相手の意志を尊重するものであった。『奴隷』ではなく、『人』として対等に接する。これが翼が求める関係なのだから。
この判断が、2人の心に傷をつくることになったとしても······
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