第15話 プラント青い果樹園

 『トゥーレイ王国』は、中央に王の住む城が立っており、その外側に上流階級1〜上流階級4の区画が広がり、またその外側に上流階級5〜上流階級10の区画が広がっている。

 更にその外側には、上流階級よりも3倍の敷地で一般階級の敷地が広がっているのだ。


「ちょっと白崎様、歩く速さをおとしてくれますか?」


 翼達は現在、上流階級9の区画へと向かっている最中であった。

 ビネットが翼の側へやって来たと思ったら、小声で話し掛けてくる。ドーガには聞かせたくない話があるようだ。


「は、はい」


 徐々にドーガとの距離ができると、ビネットが口を開いた。


「『階級9』は思ったよりも低かったですね。それはさて置き、話したいのはプリムちゃんのことです」


 ビネットが気にかけてくれたのは、この後住むことになる家での生活。それと、プリムに関してであった。


「えっ、な、何かありましたか?」


「白崎さんも、兄と一緒で気の利かない性格みたいですね。このまま新しい家に向うんですよ、荷物もない状態でね」


(そ、そっか。プリムの着替とかも、何もないんだった。うわっ、それは気が利かないって言われちゃうよな······)


「ごめんなさい。自分のことばかりで、プリムのことを考えてあげれてなかったです」


「まぁ、直ぐに反省できるだけ兄よりましですよ。私はこれからプリムちゃんと買い出しに行って来ます、白崎さんは兄と先に行ってください」


「は、はい。本当に色々とありがとうございます。プリムのこと、宜しくお願いします」


「流石に『奴隷』のことまで世話するのは、案内人の役目に含まれていませんからね。これは貸しですよ、大きな貸しだと思っていてくださいね」


 翼が歩く速度を上げて、ドーガへと着いて行くと、ビネットは、後ろを着いて歩くプリムの手を握り、連れ去るように来た道を引き返して行くのであった。


✩✫✩✫✩


 同時刻、奴隷商が扱うプラント『青い果樹園』の元へ、『奴隷』を買いに来ている者がいた。


「これはこれは、『商業国家ミカレリア』からのお客人とは珍しいですな。それにしても、わしのプラント『青い果樹園』へ買付に来るとはお目が高いっ」


 ご機嫌にお客様へと対応しているのは、マグズ・パラライであった。

 そのマグズが対応しているのは、『商業国家ミカレリア』の使節団、その団長自らが秘密裏に『奴隷』を買いにやって来たのだ。


「此処に目当ての『奴隷』が居ると聞いたもので······一つお願いがございます。代金は全て即金で支払いますので、私が買ったことを秘密にして頂けませんか」


「ほう、訳ありのご様子で。まぁ、『奴隷』を買うのを恥だと思う者もおりますでな、それは構いませんよ。それで目当ての『奴隷』とは?」


「はい、黒髪の『奴隷』が4人居ると聞いております。その全ての『奴隷』を買い上げたい」


 使節団の団長が言う黒髪の『奴隷』、マグズはその4人に心当たりがある。


「黒髪の『奴隷』。それは先に謝っておかねばならんのう、申し訳ないが今は2人しか黒髪の『奴隷』はおりません」


「そうですか。では、その2人は買わせて頂きます。残りの2人、行方は教えて頂けますか?」


「それはご勘弁を。この商売も信用が第一、商業国家から来たあなたなら判るでしょう」


「そうですね。信用第一なのは私共も同じです、仕方がない······大人しく諦めます」


「では、2人を連れて来るように指示を出しておきます、その間に会計を済ませておきますかな?」


 『奴隷』を見るまでもなく、使節団の団長は会計を済ます。

 しかも、他国の人間が『奴隷』を買う場合、料金は桁違いに高くなる。そう、自国民が金貨200枚ならば、他国民は金貨2000枚、十倍の値段で売らなければならない。それが、この国の決まりごとであった。


「来たようですな。1人は男の『奴隷』、歳は19歳。もう一人は女の『奴隷』、歳は15歳。昨日売ることができる歳になったばかりですぞ」


 2人の『奴隷』が連れられて来ると、黒髪であることを近くで確認する。


「確かに、本日のことはくれぐれもご内密にお願い致します。それでは」


 『奴隷』を連れて、使節団の団長は足早に『青い果樹園』から出て行くと、外で待機させていた馬車へと『奴隷』達を乗せ、急ぐように立ち去って行った。


「他国の人間が、誰に命じられて来たのか。危険に関わると知った所で、わしは奴隷商じゃ。金貨4000枚じゃ売らない選択などできる訳がないがのう」


 でかい声で独り言を言うと、マグズは落ち着きを取り戻していく。


(黒髪の『奴隷』が4人居ると知ってるのは、奴隷商でもわしぐらいじゃ。3人までなら他の奴隷商も数人程度は把握しておろうが·····それに、一番若いのは昨日売り物になったばかりじゃ、そこまで知ってるのは、もう母親ぐらいじゃろうな)


 マグズは嫌なことを思い出して、顔をしかめていた。だが直ぐに、考えを改める。

 手に掛かる重さが、奴隷商としての自分を宥めているのだった。


(これで縁も切れたはずじゃ。どうせなら異世界人に差し出す前に来てくれとったら、あと2000枚の金貨が貰えたのにのう。まぁあとは、何かが起きても儂まで火の粉が飛んで来ないことを祈るのみじゃな)

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