第14話 上流区画

 今日から『トゥーレイ特階級高等学校』へは、翼とプリム、それと案内人の3人で向うことになる。

 プリムが辺りを見渡して歩いていると、ドーガが翼へと話し掛けてきた。


「白崎様、『奴隷』を連れて歩く時に注意することは判りますか?」


「えっ、注意ですか。あの、物として扱うとかですかね?」


 ドーガは、事前にビネットから言われていたことがあった。

 今日から翼が『奴隷』を連れて『トゥーレイ特階級高等学校』へ行くことと、『奴隷』を連れている時の注意事項を教えてあげることだ。


「それは、当たり前のことですね。『奴隷』なんですから」


「はい······」


 やっぱりドーガの言い方は苦手だと翼は思っていたが、その後に教えてくれた内容は、聞いておいて良かったとドーガに感謝することになる。


「『奴隷』を所有しているのは、お金に余裕のある人間か異世界人ぐらいです。それだけ高価な物なんですよ――」


 一つ目は、高価な物を人に見せびらかす行為は敵を作る要因になりかねないこと。

 二つ目は、階級の低い者が『奴隷』を連れていた場合、階級の高い者に良い印象を与えない、揉め事になれば『奴隷』を壊され兼ねないこと。

 三つ目は、『奴隷』が粗相を犯せば主人が罰せられること。


「この三つは気を付けておいてください、『奴隷』関連でよくある問題なので。ですが、暗黙の了解で他人の『奴隷』には関わらないことになってますから、そこまで構える必要もないんですけどね」


(ドーガさんは危険を伝えてくれたんだよね? なんか違和感があるんだよな······でも聞いておいて良かった、ちゃんとプリムにも伝えておかなきゃな)


 話を聞いて翼は、『奴隷』であるプリムを守らなければと強く思う。それと同時に、力を使い熟せていない今の状態で連れてくるべきではなかったと少し後悔もしていた。


 こんな話をしている内に、『トゥーレイ特階級高等学校』へと到着する。ドーガとは門の前で別れて、翼とプリムの2人だけで校内を歩いていく。


「翼様、緊張してきました。すっごく楽しみなんですけど、初めてって緊張しますよね?」


「そうだね、初めては誰でも緊張するよ。僕なんて、まだ緊張してるからさ」


 プリムは緊張すると言いながらも、顔はとても楽しそうで、緊張しているようには見えない。

 そんな楽しい雰囲気を壊しなさたくない翼は、ドーガから教えて貰った注意事項を伝えることができなかった。


「ここが教室だよ。良し、入ろうか」


 教室へ入ると、翼がまず挨拶をする。そんな翼よりも、大きく元気な声で挨拶をしたプリムを、サティアが優しい目で見つめていた。


「はい、おはようございます。白崎さん、一応椅子を二つ用意してありますから、自由に使っていいですよ」


 本日の授業は、階級についてであった。自分達にも大きく関わる内容に、翼もプリムも真剣な顔付きで聞くのであった――


「ちょっと早いですが、本日の授業はここまでになります。残りの1時間は、白崎さんの測定結果と、これからの生活についてお話しましょう」


 サティアが、翼に一枚の用紙を渡す。

 それは、翼の能力測定の結果が書かれた用紙であった。


「まずは、自分の能力値を見てみましょうか」


「はいっ」


 翼は、プリムにも見えるように、折りたたまれた一枚の用紙を開いていく。

 まるで小学校の時に、通知表の結果を見るような気分に、翼は懐かしさを感じていた。


 結果は、『影』と『光』の適正欄に斜線が引いてある以外は、全てがAと記入されている。


「翼様、全部Aって凄いんじゃないですか。やりましたね」


「す、凄いのかな? 僕には判らないんだけどさ······」


 翼がサティアを見て答えを求めると、サティアが一般的な解答をくれる。


「能力値的には、とても高いですよ。ですが、特別な待遇を受けるまでではなかったようですね。はい、これもどうぞ」


 能力測定の結果以外にも、大事な物をサティアは預かっていた。

 それは、銀色に輝くプレートに『階級9』と

文字が刻まれた、翼の階級を現した物であった。


「こ、これって。僕のですよね?」


「そうですよ、銀色は『上流階級』を表していて、『階級9』は文字通り、階級9を表しています」


 サティアはプレートを渡すと、自分の見解を付け加える。

 能力値的には、もっと高い階級でも良いほどの数値だが、異世界人だと1から訓練を始めなければならない。それを考慮された結果が階級9なのだと。

 それと、特殊能力が『つばさ』なのも低評価の原因だと予想もしていた。


「私が気になっているのは、白崎さんの『つばさ』が、身体変化じゃないのではないかという点です。特別な能力が隠されていれば、もっと高い階級に変えて貰えるかもしれませんよ」


「そうなんですね。でも、僕は結果に不満はないので。それよりも、力を扱えるように頑張りたいです」


「そうですか。それは、良い心掛けですよ。3ヶ月だけですけど、力になりますので一緒に頑張りましょう」


(白崎翼さん、この世界に馴染むことができるのですか? 今日の2人を見て、私は心配ですよ。2人共、とても良い子なんだから······)


 午後の授業は、走り込みや筋トレ、体を作る基本的なことを1からやっていく。これを毎日繰り返すことをビスディオは翼に奨めるのだった。


「元々の力を高めることができれば、身体強化した時にもっと高い力が出せる。翼は貧弱だからな、伸び代だけは世界一だろう」


「はぁはぁ、は、はっい。が、頑張ります」


 体力作りだけで、午後の授業は終わってしまった。プリムも、翼と同じだけの運動量をこなしていたのだが、息もきらさず物足りなさを感じている。


(翼様、体力無さすぎですよっ。私よりないじゃないですか······)


「ビ、ビスディオ先生、ありがとうございました。明日も宜しくお願いします」


(つ、疲れた。ビスディオ先生は、プリムに一切触れなかったな······どう考えているんだろう)


 外へ出ると、そこには案内人の姿があった。

 本日はドーガの出番の筈が、ドーガとビネットの2人が揃って待ち構えている。


「お疲れ様でした。このあと白崎様が住む区画へ行きますので、私も特別に同行しますね」


「私だけで十分だと言ったのですけどね、どうしてもって言うので仕方なくビネットも連れて来たのです。早速、上流区画へ向かいましょう」


 翼の『階級9』が決まったことで、宿屋暮らしは終了となっていた。

 話には聞いていたが、いきなりの話で困惑する。そんなことはお構いなく、翼とプリムは、これから住む場所、階級9の上流区画へと案内されるのであった。

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