第13話 行動は共に

 退屈な一日を過ごしていたプリムの元へ翼が帰って来たのは、日が暮れ始めた夕暮れ時であった。


「ただいま。これ、お土産」


「翼様、おかえりなさい。あっ、髪······切っちゃったんですね」


 ――『トゥーレイ特階級高等学校』からの帰宅途中、朝話した通りにビネットは翼を美容室へと連れて行く。

 他にも、日用品や食料などを買える店を紹介するために、商店街を見て歩くのだった。


「数日の間に、能力測定の結果とそれに応じた『階級』が決まります。そうなると、階級別の区画で生活することになります。宿生活と違って色々と自分で揃えなければならないでさからね、お店の場所は覚えておいて損はないですよ」


 翼は、やっぱりビネットさんは優秀なんだなと感謝して歩いていた。


「あの、ちょっと質問してもいいですか。さっきの話に出た階級別の区画についてなんですけど、階級によって住む場所が別れてるってことでいいんですよね?」


「それで合ってますよ。『一般階級』なら一括りの区画ですが、『上流階級』だと階級別に細かく別れます。白崎様のような異世界人は、能力値的に『上流階級』からのスタートになるでしょう」


 今聞いた話で、翼は一人暮らしを連想させていた。それと、『上流階級』という響きが貴族のような豪華な暮らしをイメージさせる。


(初めての一人暮らしか、でもプリムも居るから一人暮らしとは言わないよな。ちゃんと生活できるのかな······)


 一抹の不安と、それと同じぐらいの期待を胸に宿へと帰る。

 ビネットには、今日のお礼をしっかりと伝えて別れるのであった。


 ――宿へと戻った瞬間、髪を切ったことをプリムが残念そうな声で問いかけるのを聞いて、翼は髪を切ったのは失敗だったのかなと心の中で思っていた。


「に、似合わないかな。元々髪の毛を伸ばしていた訳じゃないんだ、僕的にはさっぱりしたかったというか、うん」


 翼はさっぱりと表現していたが、そこまで短い髪型にした訳ではない。肩より長く伸びた髪を、首元ぐらいまで切った感じだ。


「べ、別に変だなんて言ってないですから、もうっ、落ち込まないでください。あれです、お姉さんから、男の人って感じになりましたよ。それとですね、に、似合ってますよ」


 なんとなく甘酸っぱい雰囲気の2人、お互いに顔が少し赤くなっていた。

 次の言葉を選んでいると、扉をノックする音と共に宿屋の夕食が運ばれてくる。


 食事がテーブルに並べられ、2人が椅子へと座ると、翼は伝えたかった話をやっと思い出した。


「そうだ、プリムを連れて『トゥーレイ特階級高等学校』へ行くことができそうだよ。でも······自由にさせてあげられないと言うか、静かに見てて貰う形になるのかな」


「本当ですかっ、やった。見てるだけでも嬉しいですよ、勉強になるじゃないですか」


 どんな内容でも、プリムにとって知らないことを知るのは新たな情報を手に入れることになる。それが、とても嬉しいと思える。


「そうだっ、今日はどんな勉強をしたんですか?」


「色々あったけど、僕が一番気になったのは強さの秘訣が身体強化だってことかな」


 翼の話を聞いたプリムは、身体強化を詳しくは知らなかった。

 そこで翼は、身体強化のやり方から今日聞いた強さの秘訣までを丁寧に話して聞かせる。


(この情報は凄いです。これは希望の書に書ける内容ですよね、何だか幸先良いんじゃないですか)


 プリムは表情をコロコロと変えながら翼の話を聞いていた、それを見て翼も楽しくなっていく。


(プリムは、勉強が好きなのかな? それとも、僕と一緒······)


 異世界から来た翼は、魔法があるこの世界に魅力を感じるのは当たり前だと思う。プリムも『奴隷』という閉鎖された環境が、外の世界を魅力的に見せているのかと翼は考えていた。

 そう考えたのは、身体強化に詳しくないことが理由の一つだ。


「食事が終わったら、身体強化をやってみたいです。教えてください」


「まぁ、僕も詳しい訳じゃないから、一緒に練習しようか」


 翼がやったことがあるのは、握力を測る時の身体強化だ。それを再現するには、どうしたものかと考える。


(宿屋さんの物を壊す訳にはいかないしな、何か硬い物があれば······)


 今は食事を終えて、プリムがデザート代わりに翼が買ってきたお土産を食べている。

 お土産は、若者の間で流行っている金平糖のような砂糖菓子で、ガラス瓶に小さな粒がたくさん入っていた。


「ねぇプリム。そのお菓子って硬いのかな、指で潰したりできる?」


「ん? どうですかね、食べられる硬さですけど」


 プリムが試しに一つ摘むと、力いっぱい指で潰してみる。指にはお菓子の痕がついていて、少し痛そうだ。


「無理です、指だと潰せない硬さがありますよ」


「そっか、じゃぁ丁度良いね」


 身体強化を行うには、強化したい箇所に魔力を集め、自分の中で強化されるイメージを膨らませる。そう説明すると、翼はお菓子を一つ手に取った。


「僕だったら、自分が凄い筋肉質で、このお菓子が粉々になるってイメージをするかな。ちょっとやってみるね」


 指に魔力を集めると、イメージ通りに力を込める。指先に痛みを感じた所で、指が硬くなるイメージも追加すると、お菓子が粉々に砕けてテーブルを汚していく。


「おぉ〜、凄いです。わ、私もやりたいですっ」


「頑張って。そうだ、指を硬くするイメージも持った方が良さそうだよ」


 身体強化も魔力を扱うのも、イメージが上手くできないと難しい。翼は想像力が豊かだったので、習得するのに難しさを感じなかったが、プリムは中々できず時間が過ぎていく。


「先にお風呂に入ってくるね。明日から一緒に学校に行くんだから、プリムも早めに寝た方がいいよ」


「はい······むぅ、悔しいです」


 プリムは上手く身体強化ができないまま、この日は眠りにつくことになった。

 朝がやって来ると、翼よりも早く起きて身支度を整える。


(良しっ、完璧です。昨日は翼様の髪を梳かしてあげたので、それを習慣にしても良さそうですよね)


 翼も起きて身支度を整えると、仕上げにプリムが髪を梳かす。その後は、朝食を食べて、案内人の迎えを待っていた。


「今日は、私ドーガがお迎えに参りました。白崎様、行きましょう」


 今日からは、プリムも一緒に行くことをドーガに説明して宿を出た。


「それじゃプリム、一緒に学校に行こうか」


「はいっ、行きましょう。学校、とっても楽しみです」

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