第12話 強さの秘訣

 午後になると、実技の授業を初めて受けることになる。

 サティアに相談することができた翼は、心にゆとりができたからか、純粋に実技の授業を楽しみにしているのであった。


 昼休みが終わり少しすると、教室に人がやって来る、それは実技を担当する教師だ。


「おっ、キミが異世界からやって来た人間か? 何だ、もやしみてぇな身体じゃねぇかよ」


「えっ、はい······あの、白崎翼です。実技の先生ですか?」


「おうそうだ、実技を担当するビスディオ・クルドォだ。宜しくな、翼」


 ビスディオの大きな身長と、がっちりとした体型は翼に体育教師を連想させる。

 それと、最初から名前を呼び捨てにするビスディオの、良く言えばフランクな性格も体育教師っぽいと翼は思っていた。


「外で身体を動かしたい所だが、実技は強さについての理解を深めてからになるからな、まずは俺の話を聞いてくれ。わりぃな」


 ビスディオは、また机に座っての授業になることを謝るのだが、翼は何の不満も感じてはいない。

 それよりも、『強さについて』を教えて貰えることに心をときめかしていた。


「簡単に言うと、魔法ってのは強くない。より強い戦士になるためには、身体強化が不可欠になる」


 翼はビスディオの言葉を最初は疑っていた、筋肉質なビスディオを見ると、独自の解釈なんじゃないかと思ってしまう。

 だがこの後の説明で、納得する答えを翼は聞かされるのだった。


 魔法が強くないと言った理由は、この世界では誰もが使えることに関連していた。

 例えば、『火』の適正がAであれば、強い魔法を使えるのと同等に『火』に耐性も持っている。

 勿論、適正に差がある人間が闘えば、大きなダメージも期待できるが、それは強者と弱者の闘いであって魔法が強いことの証明にはならない。


「ダメージが少なければ、『癒』の魔法で回復できてしまうからな。だからこそ、身体強化と組み合わせた武術が最強なのだ」


 ビスディオは武術が最強だと話した後に、例外があることも付け加える。

 単純に、適正がSの魔法を使える人間は別格なのだと言う。他にも、特殊能力が魔法だった場合は、相手が耐性を持っていないため、大きなダメージを与えることができる等の、魔法が強いパターンも教えてくれた。


「基本属性の魔法でも、妨害に使ったり、移動に使ったりと用途はたくさんあるからな。ちゃんと魔法も教えるから安心してくれ」


 話を聞いていくと、ビスディオがまともな教師であることが解ってくる。

 翼は、脳筋なのではないかと思ってしまったことを心の中で反省するのだった。


✩✫✩✫✩


 その頃、翼の能力測定の結果が本人の知らない所で開示されていた。


「大した能力じゃねぇなぁ、特殊能力も身体変化系だしよ」


「そうよね、『つばさ』って空を飛べるぐらいしかできなそう。身体変化ってハズレ枠よね」


「てめぇら、俺の前でよく言えたな。表に出るか?」


「ちょっ、落ち着きなよ。あなたは別格だからさ、僕達も同じになんて思ってないよ」


 豪華な屋敷に集まっていたのは、4人の上流『階級1』を持った人間達だ。王を除き、この国で最も権力を持つのがこの4人であった。

 この国では、優秀な人材や異世界人の情報は、まず上位の権力者へ開示され、自分達の組織へ勧誘する権利が与えられていた。


「ほんとに怒っちゃいねぇよ。それより、この異世界人は第1騎士団には不要だ、異世界人は育てるのが面倒くせぇからよ」


「私も遠慮しとくわ。第2騎士団の戦力は足りているし、下位の騎士団にも悪いしね」


 この2人は、第1騎士団と第2騎士団の団長を務めていた。この国で騎士団と言えば、最高戦力として力の象徴になっているのだが、その中でもトップ2なのがこの二つの騎士団だ。


「僕の所にも要らないよ。新人に務まる仕事もないし、異世界人みたいな『王』への忠誠がない人間なんて必要ないからね」


 この男は、王国監査官の監査長を務めている。ドーガやビネットの上司に当たる人間であった。


「そもそも俺に人手はいらねぇからよ。毎回思ってたんだけどよ、俺は呼ばなくていいんじゃねぇのか?」


「ちょっと、『王』が決めた仕組みを否定するのですか? 解答次第では、僕も大人しくしてられませんよ」


「てめぇ何言ってんだ、喧嘩売ってんなら買ってやるぞ······」


 険悪な雰囲気が、この場を重くさせる。

 此処へ来ることを否定した男は、Sランクの魔獣ハンター、元々血の気の多い男だ。

 対して監査長を務める男は、普段は物腰の柔らかい人間なのだが、『王』に絶対の忠誠を誓っていることから、国に叛く行為や『王』を否定する言葉を聞くと人が変わってしまう、そんな人間であった。


「やめなさい。私達が本気で揉めたら、それこそ『王』も黙ってないんじゃないの」


「ははっ、冗談ですよ。あっそうだ、共有していきたい話があったんです」


 監査長の男が、こうやって集まることには意味があると前置きして語りだしたのは、この国に危険が迫るかもしれないという大事な話であった。


「『漆黒の魔女』······彼女が目撃されたって話です」


 ――『漆黒の魔女』とは、20年ほど前に大罪人として囚われた危険人物だ。

 上流『階級2』を持ち、長い間4人にしか与えられていなかった『階級1』に、最も近いと言われた実力者。

 その大罪人は、今は行方知れず······囚われの身から逃げ出し、足取りは掴めていないのであった。


「まじかっ、あれが復讐でも企んでいたら不味いんじゃねぇのか?」


「問題が起きたら、僕達の出番がやって来ますよ。その時は皆さん、協力してください」

 

 今回の会合は、異世界人の話よりも『漆黒の魔女』の目撃情報を伝えることの方が本題であった。

 『漆黒の魔女』が無差別に国へと攻撃を開始すれば、犠牲者が出ることは避けられない。

 それでも、被害を最小限に抑えるには4人の力が必要になる――

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