第11話 相談事
家を出て、『トゥーレイ特階級高等学校』へ向う道中、ビネットが翼へと積極的に話し掛けていた。
「白崎様、見違えましたよ。随分と素敵な男性になりましたね、髪はどうしたんですか?」
「えっと、朝、プリムが梳かしてくれて······」
「ボサボサだったので良くないかなと思ってましたけど、綺麗にしたら長髪も悪くないですね。実は今日、髪の毛を切りに行く予定だったのですが······伸ばします?」
「そ、そうなんですか、できれば切りたいですね。好きで伸ばしてたんじゃないので······」
「分かりました、帰りに切りに行きましょう。所で、向こうの世界では彼女とか居ました?」
「い、嫌。彼女ができたことはないです······」
(ビネットさんってお喋りが好きなんだな、プリムのこと話したいのに、切り出すタイミングがないぞ)
「え〜、嘘でしょ。彼女ができたことないの? まぁ、今は私もフリーなんだけどね」
翼が相談事を切り出すタイミングを窺っている間も、ビネットはずっと喋っていた。このままでは、相談できない内に目的地へ到着してしまう。
「あっ、あの。そこの広場で、ちょっとお話をしてから行きませんか?」
「な、何っ。案内人をナンパするなんて······嫌、私がいけないのかな。私の美貌が」
「ち、違いますから。相談したいことがあるんですよ、もうっ聞いてください」
広場の木陰へと入ると、プリムを『トゥーレイ特階級高等学校』へは連れて行くことができるのか、どうすれば連れて行けるようになるのかを相談する。
「ふ〜ん、この相談をしたいから今日は私を案内人に選んだんだ。まぁ、真面目な兄さんに相談しても良い答えは貰えなかっただろうし、正解かな」
「はい。それで、どうなんでしょうか?」
「その前に、白崎様は危険思想の持ち主ってことでいいのかな?」
危険思想の持ち主とは、国に叛く者と同じ意味が含まれていた。
それは即ち、犯罪者を意味する。
「べ、別に、危険なことを考えてる訳じゃないんです。ただ、プリムが可哀想で······」
「そう······この国にも白崎様のような考えを持ってる人は一定数居る。でも、案内人兼王国監査官の私に話すのは不味いんじゃないのかな」
翼は王国監査官と聞いて、失敗したことに気付くと、背中に冷や汗が流れ始める。
犯罪者として囚われれば、自分も『奴隷』になってしまう。
「ははっ、そんな顔しなくて大丈夫だから。言ったでしょ、私で正解だって。それに、聞いた話は『奴隷』を連れて歩きたいってだけだからね」
「は、はい······」
「でも覚えておいてね。白崎様は言いたいことが顔に出やすいから、国の在り方を良く思っていないのはバレバレ。例え『王』に叛く考えを持っていても、人に知られたら終わりだと肝に命じておくこと。わかった?」
「はい。あ、ありがとうございます」
この後ビネットは、アドバイスをくれた。『奴隷』を強調して、物として連れて行けば可能性はあると。
でも許可を出すのは『トゥーレイ特階級高等学校』の人間なので、私に権限はないとも付け加える。
「それと、兄さんには言わないこと。兄さんは良い人だけどね、何度も言うけど真面目だから、下手をすれば審判にかけられるかもしれない」
「分かりました。本当にありがとうございます。最初にビネットさんに相談して良かったです」
相談が終わると、広場から出て歩き出す。『トゥーレイ特階級高等学校』はもう直ぐ側だ。
到着すると、門の前で翼とビネットは別れることになる。翼が学校へと入っていく後ろ姿を見て、ビネットは何だか不安に思うのだった。
(優しい子ほど、この国に馴染むのは難しいのよね。私のが少しだけお姉さんって歳なのに、白崎様が純粋な子供に見えちゃうから······)
翼が昨日と同じ教室へと入っていく、今日も机が一つ置かれ、その前にはサティアが待ってくれていた。
「おはようございます」
「おはようございます、白崎さん」
今日からは、午前中に座学をサティア先生が、午後からは別の先生が実技を担当すると前置きしてから、座学が始まった。
今日の座学は主に『トゥーレイ』王国の歴史であった。
翼は知らない世界の歴史を、物語のように楽しんで聞いているのだが、どうしても集中しきれない。
サティアにもプリムのことを相談する、どのように言ったら良いかと、頭の中で言葉を選んでいた。
授業中に相談するチャンスが来ることはなく、座学の授業が終了してしまった。
「あ、あのっ、サティア先生」
お昼にしましょうと立ち上がったサティアを翼は呼び止めると、考えていた言葉をサティアになげかける。
「ど『奴隷』を、つ······も、持って来ても、良いのでしょうか?」
「それには何か理由があるのですか?」
「えっと、休憩時間とか、暇なので······」
「良いですが、問題が起きても自己責任ですよ。色々な考え方の人間が居ますからね、十分気を付けてください」
(あれ? 私には、『奴隷』なんておかしいと昨日訴えてたじゃありませんか。もっとこの国を知ってから行動しても、遅くらないと思いますよ白崎さん。ほんと、その言い方は誰の入れ知恵ですか?)
今の所、翼が出会った人々は良い人間ばかりだったのか、プリムを連れて来ることを了承して貰えた。
だが翼は、『奴隷』を連れて歩く危険性は理解していない。今はただ、楽しい未来だけを見て進んでいくのであった。
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