第8話 『つばさ』

 翼は目をつぶり、1時間程夢中になって自分の中にある魔力と向き合っていた。


(面白いや、地球に居た頃はこんな感覚なかったもんな)


 どんなに集中しても、血液の流れを感じることはできないが、身体の中にある魔力は全然違っていた。

 異物があるように思えるのだが、嫌な感じはなく、温かいふわふわした何かが身体の中に流れている、そんな感覚が身体中全てからしてくるのだ。


(先ずは『火』だよね、手のひらに魔力を集めて、イメージする。イメージは、焚火みたいな感じかな······)


 熱を感じて、翼は目を開いた。魔晶石に魔力を注ぐ練習のつもりが、手のひらに集めた魔力が火魔法となって形を成しているのだ。

 びっくりはしたが、慌てずに魔力を集めるのを止めると、火はどんどんと小さくなって消えていく。


(熱は感じるけど、手を火傷したりはしないんだ。何でだろう、自分の魔力から創ってるからかな?)


「あら、火魔法が使えましたね。魔力の感覚が掴めたのですね?」


 思ったよりも簡単に魔力の感覚を掴めたのは、アニメや小説で剣と魔法のファンタジーに触れていたからかもしれない。

 翼は記憶にある小説の設定から、色々なパターンでイメージを膨らましていたのだ。


「は、はい。できたみたいです」


「では、魔晶石に魔力を注いでみましょうか。魔晶石の中へ『火』の魔力を注ぐイメージでやってみてください」


 言われた通りに、魔力を注いでいく。

 手のひらから火魔法が発動することもなく、3分の時間が経過する。


「止めてください。それでは、手のひらを開けてみましょうか」


 手のひらを開けると、透明だった魔晶石が真っ赤な色に変化しているのだった。


「濃い赤になってますね、色の濃さで適性の判断ができるのですよ。正確な判断は、専門の方に渡してからになりますが、高い適性があるのは間違いないんじゃないですかね」


 この調子で、他の属性も測定していく。

 『水』なら大雨、『雷』なら落雷、『土』なら大きな大地、『風』なら台風、『癒』なら傷が治る瞬間、『影』なら自分にできた影、『光』なら目を開けられない程の光をイメージして魔力を注ぐ。


(ふぅ〜、何だろう、凄くやりきった感じがあるな。楽しかったかも)


「うんうん、流石異世界人。『影』と『光』以外はどれもいい色してますね、これならSランクも有るかもしれませんよ」


 魔法の適正値は、ランク別けされている。

 上から、S、A、B、C、D、Eの6段階で評価されるらしい。


(『影』と『光』以外か、適正ってどうやって決まるのかな?)


「次は、身体強化を測りましょうね。これを握ってくれますか」


 握力を測る機械を渡される、それは地球にあった物に似てるが、デジタルの物ではなく、一昔前のメモリが動く形の物であった。


「握った力を測れるので、まずは魔力で強化するようなイメージはもたないで握ってください」


「はい」


 全力で握る、翼は歯を食いしばって腕が震える程の全力を出す。

 結果は、32.6とこの世界でもかなり低い値が表示される。


「全力っぽかったけど、随分と低いですね。まぁ見た目通りなんで信じられますが······」


「あの、ちゃんと全力です。な、何年も運動してなかったせいだと思います······」


 サティアは「この世界では身体強化がありますから」とフォローしつつ、身体強化のやり方を説明する。

 身体強化もイメージが大切で、力を強くしたければ筋肉を強くするイメージ、攻撃を受ける時などは身体を硬くするイメージ、それが一般的な身体強化のやり方らしい。


 腕と指先に魔力を集中させ、格闘家の様な筋肉と岩を砕く瞬間をイメージして握力計を握ってみる。

 すると、握力計のメモリが勢いよく動き、229.1という数字まで達していく。


「おお、凄い。えっと約7倍ぐらいですね、これは適性でいうとAランクの身体強化を使えることになりますよ」


「す、凄い。こんなことができるんだ······」


 ここで一旦昼食をとり、休憩をはさむ。

 翼は窓の外を眺めると、学生らしき人影が小さく見える。その風景を眺めながら考え事に浸っていた。


(ここは、こんな簡単に力を強くできたりする世界なんだ。もし、何も知らないで襲われでもしたら、何もできないまま終わってしまってたかもしれないな)


 まだ異世界に来て2日目であったが、優遇されていることに気付いて心の中で感謝をする。それとは逆に、『奴隷』という違和感が、親切と比較して大きくなった気がするのだった。


「本日最後の測定をしましょうか。まぁ測定と言うより、調べてみましょうって言った方が良いかしれませんが」


 お昼の休憩明けに行うのは、翼が特殊能力を持っているのか調べるというものだ。

 異世界人は特殊能力を持っていることが多く、戦力も求められるが、それとは別に、国に必要とされる人材になれる可能性があるのだ。そのため、翼も同様国からの手厚い支援を受けているのであった。


「特殊能力の調査は、時間が掛かるかもしれません。過去の事例から参考となる方法を伝えますので、自分の中で試してみてください」


 サティアが試してと言った方法。その一つ目は、8属性とは別の属性が翼の中に有るか探るというものだ。

 それは、翼自身が見つける以外に良い手段がない。

 二つ目は、翼の身体に違和感がないか探るというものであった。こちらも、翼が自分で発見しなければならない。


「それじゃ、頑張って探してみます」


 ――探り始めて2時間が経過する。

 8属性以外の魔法から探してみたが、気になるものは見つけることは出来なかった。

 だが、自分の身体中に感覚を広げた瞬間、背中に違和感を感じる。


「あっ、あのサティア先生。な、何か背中に変な感覚が有るかもしれませんっ」


「背中ですか? それじゃあ、変化させるイメージとか、解放するイメージで何か起きるか試してみてください」


 翼がイメージを膨らませ、解放しようと心に強く思い描いた瞬間、真っ白な大きな『つばさ』が現れる。


「あら、凄く綺麗な『つばさ』ね。翼だけに『つばさ』なのかしら······」


 サティアがつまらない冗談を言うのだが、過去に名前から由来する能力など聞いたこともない。翼から『つばさ』が現れたのは偶然の一致だった。


「あ、あの、自分では見えないんですけど、鏡ってないんですか?」


 この世界にも鏡は存在している。サティアが持って来たのは小さな鏡であったが、鏡のお陰で翼も確認することができた。


「真っ白なんですね、凄いのかな?」


 身体変化の能力は、特段良い能力とは言われていないのだが、『つばさ』だけが生えるのは珍しいと言えば珍しい。

 色々と試してみたのだが、この時はまだ、他にも効果を確認することはできなかった。


「能力測定はこの辺で終わりましょう、後は気になることを質問して頂いて、今日は終わりにします」


 翼は質問する内容を決めている、やはり一番気になるのは、一緒に居ることになった少女、プリムの存在に関してだ。何故、少女が『奴隷』などと呼ばれなければならないのか。

 その疑問を口にすると、自分の中で抑えきれない感情があることに、翼は気付くことになる。

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