第7話 能力測定

 涙を流しているプリムを、翼は静かに待つことにした。テーブルに運ばれた食事には手をつけず、優しい瞳で外をただ見つめて。


「あ、の、ごめんなさい、もう落ち着きましたから······」


「うん。夕食がもう運ばれてきてるけど、食べれそう?」


 プリムが頷くと、テーブルに向かい合って座る。翼は今日の出来事を話したかったのだが、プリムの様子がおかしかったためプリムが口を開くのを待つのだった。


「さっき泣いちゃったことは、気にしないでください。ちょっとホームシックってゆうか、1人が寂しかっただけなんで」


「そうなんだね、僕で良かったら話を聞くからさ、まぁ僕ぐらいしか、話せる相手がいないんだけどね」


 翼に、少しだけ心境の変化があった。

 プリムが若く『奴隷』と言われている割に純粋なことと、歳が5歳も年上だってことで、自分が支えてあげなければと思っていた。

 まずは話しやすくする、打ち解けるために敬語をやめてみたのだ。


「それとさ、自然な会話ができるように、敬語はやめたんだけど、呼び方もプリムさんからプリムちゃんにしていいかな?」


「あの、プリムちゃんは嫌かもしれません。凄っごく子供っぽいです、それだったらプリムでお願いできませんか?」


「うん、それじゃプリムって呼ばせて貰うよ。僕のことも翼でいいからさ」


「私は翼様って呼びますよ、『奴隷』が呼び捨てで呼んでたら問題になりますから」


 和やかな雰囲気で食事を始められた、これなら自分の話をしても良いかと翼は今日あった出来事を話し出した。


「今日さ、能力測定ってのをやったんだけど、話してもいいかな?」


「そうなんですね、それは是非聞いておきたいです」


 プリムが、能力測定の結果を聞いておきたと思ったのは、結果によって階級に影響があるからだ、特に異世界人は能力で最初の階級が決められると聞いたことがあった。

 翼の階級によって、自分の生活も変わる。それを気にするのは当たり前だが、プリムはどのように生活が変わるかまでは分かっていない。

 それでも、今後の人生を左右するであろう結果に、プリムは息を呑んで翼の話を聞くのだった。


✩✫✩✫✩


 ドーガと共に宿屋から出て行った後、向かったのは『トゥーレイ特階級高等学校』という場所であった。

 翼が学生として学校に通う訳ではないが、そこで3ヶ月だけ特別に指導をして貰える。本日は能力測定をするという話だ。


「この世界では、魔法を使うことができます。魔法の種類によって適性が変わるので、今日はそれを測定します」


 ドーガが向かっている最中に、向う先や今日行うことを説明してくれる。

 翼は説明を聞きながら、何も判らない異世界で、こんなに親切にしてくれる案内人に感謝して着いていく。


 説明を聞いていると、あっという間に『トゥーレイ特階級高等学校』に到着する。学校の中へ入ると、一般の生徒が入らない教室へと案内された。

 ここでドーガとはお別れのようだ、「また帰る時には迎えに来ますので」と言ってドーガは去っていく。


(この教室みたいな所に入るのか、うっ、なんだか胸が苦しいや、やっぱり学校って場所は苦手だな······)


 学校がトラウマになっていることを、翼は改めて痛感していた。それでも克服するには良いチャンスだと思い、扉に手を掛けて静かに開ける。

 翼の世界にあった学校の机よりも、立派な机と椅子が目に入った。一つしかないのを見ると、ここが個別指導をする場所だと判る。


「し、失礼します、白崎翼です」


「おはようございます。今日から色々とサポートさせて頂きます、サティア・ミクローニです。宜しくお願いします」


 緑色の髪に、眼鏡をかけた女性が出迎えてくれる。本日の能力測定と、3ヶ月間の内、座学を担当してくれるのがサティアであった。


「こちらこそ、よ、宜しくお願いします」


「それでは、そこに座って貰えるかしら。簡単な質問と、今日の説明をしていきますね」


 質問されたのは、名前や性別、それと年齢、あと翼が居た世界の名称や、今までやってきたスポーツも聞かれる。

 翼は、特別何かを得意だったことがなかったので、胸を張って解答することはできなかった。


「あぁ、地球から来たんですね。確かこの国にも、地球から来た人は居た筈ですよ。個人情報は言えないので、運良く出会ってください。こんな感じでしか言えないんですけどね」


 翼は、地球に良い思い出がなくとも、流石に気になる情報をさらりと教えてもらい困惑していた。

 会ってみたいような、会いたくないような、感情は複雑に翼の心を刺激するのだった。


「まずは、能力測定の方をしていきましょうか。その後に質問タイムを設けますね、聞きたいことはたくさんあるでしょう?」


 サティアが能力測定のやり方を説明してくれる。魔晶石という魔力の結晶に、『火』『水』『雷』『土』『風』『癒』『影』『光』8つの属性をそれぞれイメージして魔力を注ぐ。

 すると、魔晶石が特性を持った物に変わっていき、『火』の魔力を注げば、赤い『火の魔晶石』へ変わるのだと、教えてくれた。


 飴玉サイズの魔晶石を手の中に握りしめ、『火』の魔力を注いでみる。


(え〜と、火をイメージして魔力を注ぐ······ん? 魔力を注ぐってどうやるんだろう)


「サティア先生、あの、魔力を注ぐってどうやったらいいんでしょうか?」


「魔力の注ぎ方から教えてあげなくてはいけませんでしたね。異世界人の方は久しぶりなので、ごめんなさい忘れていました」


 基本『トゥーレイ』では、幼少期には魔力の使い方から能力測定まで習得しているのが一般的だ。大人になって、一から能力測定をするのは異世界人ぐらいであった。


 説明は、もっと根本的な部分から始まる。

 自身の魔力とは、まず大気中にある魔力が酸素と共に肺へ吸い込まれ、血液に混ざり全身へおくられる。

 そして、身体中のどの部分にも魔力が存在するようになっていく。


 身体から魔力を放つ方法は、自身の中にある魔力を感じることから始まり、魔力を感じることができれば、魔力を意識して動かす。

 魔力を動かせたら、身体中の魔力を一点に集めたり、手のひらから放出したりできるようになるとのことだ。


「子供でしたら、半日もあればできるようになります。大人だと個人差が大きくなるかもしれませんね。焦らずに、ゆっくりやっていきましょう」


 翼は『魔力の使い方』なんて、異世界でしか味わえないことを、わくわくしながらチャレンジしていく。

 異世界に来れて良かったと、初めて思った瞬間であった。

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