第6話 希望の書
簡単に人を信じてはいけない、過去を思い出し、そう自分を戒めているプリム、それでも翼を信じて共に歩む選択が必要になる。
その理由は、単純に『奴隷』1人では何もできないからだ。
(そうだ、あの本はもう見れないから、忘れない内にメモをとっておこう)
プリムはただの『奴隷』として、何もしないで生活する気なんて毛頭なかった。そう、プリムには達成したい目標がある。
その目標とは、あの本と呼んだ、プラント内で『希望の書』と名付けた本。その本に関連する内容であった。
『奴隷』が返品されプラントへ戻った際、皆の前で恐怖を語ることは奴隷商に強制される。反対に『希望の書』とは、自分達の意思で、プラントの外で経験した良いことを記録したものであった。
(え〜と、書くなら一番重要なことからだよね)
宿屋に置かれた紙とペンを持って、プリムは深く考えると、『希望の書』に書かれた内容を写していく。
一番重要なこと、それが真実であれば人に知られる訳にはいかない、本当に重要で危険な内容を書き写す。
(奴隷解放の動き有りと、確か上流階級で噂になってるって書いてあったよね。騎士団が怪しいとも書いてあったかな)
この内容を見て、プリムは自身の目標も『奴隷解放』にしたのだ。
噂の真相を確かめて、真実ならばその奴隷解放に加わる。自分を、プラントの仲間達を、『奴隷』と呼ばれる全ての『人』に自由を与えるんだ。
(他には、『奴隷』から人になれた。こんな噂もあったよね、能力が高くて引き取られたって書いてあったんだ)
これも真実ならば、元々『奴隷』だった人に会うことで力を貸して貰えるかもしれない。
そんな思いから、この話も達成したい優先度は高い、プリムはそう考えているのだった。
(ご主人様と本当に愛し合っていた。何てのも書いてあったね、まぁ翼様も髪を切って服装も整えたら······って、私は、な、何を考えてんのっ)
プリムは、この内容は書き写さないことにする。
それでも、年頃の女の子が惹かれる内容で、現実的という意味では、一番希望があると言って良い内容であった。
(他の国には、『奴隷』がない国がある。ってのもあったね、皆で亡命出来たらって話していたっけ······)
この後も、思い出せるだけの内容を書いていく、『希望の書』には好き勝手に書かれていたため、必要な事か判断しながら時間を掛けて書くのだ。
(ゔ〜、疲れたよぉ。書いておいた方が良いのは······こんなものかな。私も『希望の書』にいっぱい書けるように頑張らなくちゃ)
翼が宿屋を出てから直ぐに書き始めたプリムは、もう時刻が昼になるのに気がつく。
朝食もとってないし、昼のご飯はどうなるんだろう、そんな事を考える。
(誰かが『奴隷』は『おもちゃ』みたいな物って言ってたよね、『おもちゃ』にご飯は必要ないってことですか?)
自分で考えて、その言葉で落ち込んでいく、それでも強く生きていかなきゃと、強かに生きていかなきゃと自分に言い聞かせるんだ。
部屋の扉を開けると、宿屋の入口にあった受付へと足を運ぶ、プリムはそこで、昼食の事を聞いてみることにする。
「こんにちは、ちょっと聞きたいんですが、お昼ご飯ってどうなってますか?」
「なに、あなた『奴隷』だよね? ご主人様が用意しなかったんなら、ご飯はなしってことなんじゃない······」
翼への対応はとても丁寧だったと記憶していたのに、『奴隷』だけで来るとこうも違うのか、プリムは現実を突きつけられる。
それでも、強かに生きると誓ってここへ来たのだ。
「そうですか、翼様があなたの対応が素晴らしいから、あなたに言えばご飯を用意してくれると言っていたもので。無知ですいません、翼様にも思い違いだったと、よく言っておきますので」
生意気だと罵倒されることになっても、何も言わなければ何も変わらない。一言だけでも仕返しができたと思うことにして、部屋に戻ることにする。
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ。お客様に変なこと言わないでよね、ご飯持っていってあげるから、私が素晴らしい対応をしたってちゃんと言いなさいよね」
「はいっ、有難うございます」
プリムは心の中で(やったご飯食べられる)と思い、それと同時に(嘘偽りなく今のやり取りを伝えてあげますからっ)と誓うのだった。
――無事に昼食を食べることができたプリムだったが、強かに生きると思った矢先、不意に寂しさが襲ってくるのを感じる。
(プラントだったら皆が居たのに、1人ってこんなに寂しいものなんだ······)
また『希望の書』に書いてあった内容を思い出す、メモには写すこともない、他愛もない内容であったそれは、1人でできる趣味についてだ。
(裁縫とか、料理とか、ご主人様にとって役に立つ趣味がオススメって書いてあったよね。今はどれもできないんだけどね······)
翼が帰って来たら言ってみようか、今日じゃなくても良いしその内に、何て考えたが······その考えは直ぐに変えることにする。
(ゔ〜ダメダメ、噂の真相とか調べなきゃいけないし、あの人に着いて外に出ないと何も判らないもんね。1人で寂しいと逃げたくなっちゃうよ······)
――考え事をしている内に、机に伏しながら眠ってしまっていた。上体を起き上げると、毛布が掛けられているのに気が付いた。
「おはよう、疲れてるんだね。大丈夫?」
「ご、ごめんなさい。わ、私寝ちゃってたんですね······うぅっ」
自分の不甲斐なさに、プリムは目に涙を溜める。
朝の失態に続いて、ご主人様を出迎えもせずに眠っているなんて、人としてもダメだろうと恥ずかしくなる。
でも、涙が流れた原因はそれだけじゃないことは判っていた······
「ど、どうしたの? な、何か嫌なことでもあった?」
プリムの涙を見て、翼が慌てている。毛布を掛けてくれたことといい、その優しさがプリムの寂しい心を包み込んでいた。
それでも、まだ心を許すことなんてできない。寂しさで弱くなっただけ、それが涙の原因なんだと、プリムは思うようするのであった······
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