第86話 変わらない日常🏫6(自慢したいけど)

「……うふっ!今日の夜は、ソージにもらったの履くんだ!楽しみだな~」


「あーはいはい。わかったから、その毛布をバタバタするのはやめてくれないかな~、朝ご飯が飛んでいっちゃいそーだよ」


「え~、だってソージが、この格好はダメって言うから~」


 ベルが、ぺろっと毛布を広げてちょっと見せると、またすぐ包まった。確実に僕がベルの方を向いているのを狙っての確信犯だ。

 だって、その後の彼女は、嬉しそうにニヤケている。


「もー、ベル!……早くご飯を食べてくれよ!……僕はこれから学校へ行くんだから」

「え?冬休みじゃないの?……ソージは、お休みにならないの?」


「えっとね、子ども達は冬休みでも、先生は勤務があるの!……まあ、ベルは自由勤務だから家に居てもいいけどね」


「いや!……ソージが学校へ行くなら、あたしも行く!」

「じゃあ、早く食べて着替えておくれ」







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「さあ、出かけるよー。ベル、ずいぶん時間がかかったね。いつもは、すぐ準備ができるのに……」


「えへへ……シャワーも浴びて、ちょっとだけお化粧ってのをしてみたの、どうお?」

 うっすらと何かいい香りがする。僕は、よくわからないが、なんとなくきれいな感じがする。


「うん、いいんじゃないかな?……メグミに教わったのかい?」


「そうよ!お化粧品ももらっちゃった!」


 そう言われれば、唇や目元に薄い色味があるような気がする。ベルのお化粧は、昨夜も見たけど、今朝はさりげない感じがして、またかわいく見える。

 おまけに、今日はスカートなんだ。柔らかい生地で、茜色のロングスカートは、とても暖かそうだ。








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 学校に着くと、ほとんどの先生達は出勤している。

 年末とお正月の休暇以外は、たいていの先生達は学校で仕事をする。普段できない雑務が多いが、中には特別研修と称して、いろいろな所に視察へ行く人もいる。


「やあ、ベル君……昨夜は楽しかったかい?」

「な、な、なにを聞いてんですか?校長先生は……」


「おやおや、岸川教頭先生には、聞いていませんよ?

 私は、ベル先生に聞いているんです。

 なんせ、私は校長ですから、職員の福利厚生についても責任があるんですよ……」

 

 なぜか、薄笑いを浮かべているような気がするんだけど……


「えっとね校長、すっごいご馳走を食べたよ!ケーキもあったし、シャンパンも飲んだの!……それに星がきれいだったわ……」


「おやおや、とてもいいクリスマスだったようですね……」


 校長も嬉しそうだった。


「それにね、サンタクロースからプレゼ……」

「おい、ベル!サンタクロースは、秘密だから、あまり言いふらしたらダメなんだぞ!」


「……何ですか?教頭先生?……プレゼンをもらったのですか?ベル君は……。私も見せてほしいですね」


「うーん……あのね校長、このプレゼントはあんまり人には見せられないのよ。見せるとソージが、怒るの……ごめんね!」


「あー、それは残念だけど、仕方ありませんね………あははははは」


 ふうー。校長は、笑いながら行ってしまった。


「ベル、今日は学校で何をするんだい?」

「何って………何もすることがないから、メグちゃんでも手伝ってくることにするわ」








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「メグちゃ~ん、何か手伝う?」

「あ、ベルちゃん。学校に来てたの?」

「うん、ソージが仕事だって言うから、ついてきちゃった!」


「あ!お化粧もしてるのね!……うふっ!………ねえ、ねえ……昨夜はどうだった?何かいいことあった?」

「えへへ……あったよ、いっぱい!」


「わあ、嬉しそうな顔して………どんなだった?ねえ?ねえ?」


「どんなって?……美味しかったわよ!とっても。お寿司もお肉も、ケーキも食べたし、シャンパンも飲んだのよ……」


「ううん……他は?」


「他?……あ、星も見たのよ、きれいだったわ!」


「星ね?……ねえ、他にはいいことなかったの?」


「他?……え~と。……あ!」


「いいことあったのね!……教えて、教えて!」


「あのね、メグちゃん!……これ、内緒だからね」

「ゴックン……わ、わ、分かってるわよ……秘密にしてあげるから、早く話してよ!」


「ほら、これよ!」

「ベルちゃん?何、スカートめくってるの?…………うん?ずいぶんかわいいパンツはいてるのね……?」


「いいいでしょ!……これ、サンタクロースからのプレゼントなのよ!」

「は~ん……そっか、そっか。サンタクロースね!………良かったじゃない!」


「ところで、キッシーは、サンタクロースから何かもらったのかな?」

「そういえば、ソージのところには、サンタクロースは来てないわね……」


「そっか、キッシーかわいそうだね……」

「そうだね、ソージだって頑張っていい子にしてたのに。あんなご馳走をたくさん作ってくれたし、星も見せてくれたのに………」



「ベルちゃん、いいことを教えてあげる…………あのね、あなたがキッシーのサンタクロースになるのよ!……あ、もちろん内緒でね」


「でも、クリスマスって終わっちゃったよ」

「大丈夫よ。サンタクロースは、年中無休で頑張ってるの……キッシーにプレゼントするのは、いつでもいいのよ。考えておいてね!」


「うん、分かったよ、メグちゃん。……ありがとうね!」

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