第85話 変わらない日常🏫5(本当のおくりもの)

 次の日の朝、僕はいつもより早く目が覚めてしまった。


「……ん?……う、うーん……まだ、6時か……」


 外がやけに明るかった。

 寝室のカーテンを開けると、外一面が綿菓子で覆われたようになっていて、朝日を四方に反射していたのだ。


「昨夜はあんなに星空が見えたのに………明け方にでも降ったのかな?」


 今は、風もなく明るい日差しが立ち込めていた。







 そんなことを考えながらリビングに行くと、彼女はまだ、いつものところにいた。



「ベル~、……外がきれいになってるぞ~、そろそろ起きたらどうだ~?」


 まだ、微かな寝息をたて、昨夜のまま布団にくるまって、ソファーベッドで丸くなっている。

 僕は、そのまま放っておくことにした。




「朝食の準備でもするか………」


 昨夜の残りをワンプレートに盛り付けた。お寿司、オードブルのおかず、少し残ったケーキも添えた。

 そして、オニオンキューブを解凍した。

 これは、前もってじっくり時間をかけて玉ねぎを煮込んで、少し濃いめのスープを急速冷凍にしてキューブ状にしたものだ。


 解凍後、塩コショウだけで味付けをした。それでも、香ばしく薫る甘い玉ねぎの風味が、食欲をそそり、冷えた体を温める効果がある。



 朝食の準備ができたところで、僕はもう一度彼女に声をかけることにした。

 今度は、ソファーに腰掛けて、耳元で呼びかけてみた。


「ベルー……ベルー……朝ごはんだよ~」


「……う…うう………ふにゃ~…ああ~…………」



 僕は、彼女の枕元に、ラッピングした包みを入れた僕の靴下を置いた。


「……あ……ソージ……おふぁよー~……」

「よく眠れたようだね」

「だって……楽しかったし……美味しかったのよ。……とっても幸せな気持ちだったの!」


「それは、よかったね~」



「……あれ?……ソージ、何かあるよ!」


 彼女は、枕元の靴下を持ち上げて、不思議そうに眺めた。




「これ、ソージの靴下じゃん!……あはは、洗濯物なの?……どうしてここに?」


「洗濯物じゃないぞ……新品の靴下なんだぞ!」


 ベルは、靴下を鼻のところへ持っていき匂いを嗅いだ。

「あ~新品の匂いだ!ソージの足の匂いがしないよ……大丈夫だねアハハ」


 無邪気に笑う彼女は、寝起きの妖精だった。

 


「それはねーサンタクロースのプレゼントだよ」

「サンタクロース?……何?ソージ……」


「ベルは、こっちの世界でクリスマスをやったことがなかったんだね……」

「そうだよ!去年は、夏のうちに出向解除になったし、その前の年は楽しいことなんて全くしなかったもの……」


 思い出したのか、彼女はつまらなそうな顔をした。



「ベル……サンタクロースっていうのはね、

 …………いい子にしていたらプレゼント配ってくれる神様みたいな

 ………“精霊?”かな?…………

 そして、このサンタクロースが来るのが、このクリスマスっていう日なんだよ」



「へー嬉しい日なんだね。…………でもね~あたしは昨日ね~ソージからプレゼントをもらったよ…………きっとあたしが、いい子だったからなんだね!」


「え?僕は、まだなんにもあげてないよ?」


「ううん。いっぱいもらったよ!

 …………あんな美味しいご馳走やあんなきれいな星空…………

 あたしね、夢の中でもまた見ることができたんだよ!

 2回もプレゼントもらっちゃった!」



 ベルは、ソファーベッドで上半身を起こし、抱えた布団の中に顔をうずめて、楽しかった夢を思い出しながら、また嬉しそうに身をくねらせていた。



「……そっか……そう思ってくれるんだ……ありがとうな、ベル……」




「うーん……でも、サンタクロース?のプレゼントも気になるから、開けてみるね……」


「ああ、あー」


 彼女は、靴下の中から、ラッピングされた拳ぐらいの塊を取り出した。そして、ゆっくりとリボンを外し、ラッピングを開いていった。



「あれー?……ソージ、何これ?可愛い布地が3枚出て来たよ!」


 彼女は、1枚の布を両手で持ち、広げてみた。



【挿絵:パンツを持ち上げたベル】

https://kakuyomu.jp/users/kurione200/news/16817330668618954824



「これ……ソージのパンツに似てるね!……でも、なんか可愛い模様が付いてるよ!」


「……ベル?中に、手紙かなんか入ってないかい?」




「あ、あったわ


 …………『ベルさんへ、あなたに似合う、可愛いトランクスです。そうじ君のパンツを履くより、こっちの方が断然可愛いですよ。サンタクロースより』……


 え?どうして、知ってるの。あたしがソージのパンツを履いてるって……あ!……は、はいて、ないわよ!……」



「さーね~。僕は知らないよ!……君が誰のパンツを履いてるかなんてね!」



「そ、そう、よね…………(おっかしーなー)……締め付けがなくて、気持ちよかったんだ……もんね~」


 彼女は、だんだん小声になり、独り言のようにつぶやいていた。


「まあーいいじゃないか。せっかくもらったんだから、履いてみれば……」


「うん、そうする!」


「……おい、おい。今、ここで履くんじゃないよ……着替えは、一人の時にやってくれよ~」


「そっか……じゃあ、着替えたら見てくれる?」


「え?……ダメだってば。それは、下着なの…………大事な人以外には、見せたらダメなの!」


「だから……ソージは、大事な人だよ!」


「ゴホッ!……ゴホッ!……あ、あー……。まあ、それはそれとして、朝ご飯食べるぞ~」


「はーい!」


 彼女は、布団をまくって、勢いよくソファーベッドから飛び降り、食卓テーブルめがけて駆け出そうとした。

「あーあ!……だから、その恰好で来るんじゃないってば……ちゃんと服を着なさいよ~」



 彼女は、『えへっ!』と、笑いながらそこにあった毛布を体に巻き付け、ちゃっかり食卓に座った。


■□■□

ベルのパンツについては、『ベルちゃんのため息』で、詳しく白状してますので、お確かめを。

https://kakuyomu.jp/works/16817330668420483875/episodes/16817330668564135346

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